遠乗り2
丘の頂に近い場所で、レイナルトは馬を止めた。
三人は順に地へ降り、花に覆われた斜面を、ゆっくりと歩き始める。
足元には、花が途切れることなく広がり、緩やかな風が、その上を静かに撫でていく。
花々は音もなく揺れ、ただ光と香りだけが、そこに満ちていた。
その時――。
ふわり、と空気が変わった。
カナの周りに、淡い光が満ちていく。
光の中で、小さな影が形を結んだ。
「ディ、ディオリア……!?」
『えへへ』
カナの声に応えるように、明るい声が響いた。
『あ、心配しなくても大丈夫だよ! 僕たち以外に、気配はないから!』
現れたディオリアは、嬉しそうに丘の上をくるくると飛び回る。
『ここ、すごいね!
精霊の気配が、とっても濃いよ!』
その様子に、カナは思わず微笑んだ。
「そうね……本当に、素敵なところね」
丘陵を渡る風が、その言葉に応えるように、花を揺らす。
やがてディオリアは、ひらりとカナの肩に舞い降りた。
『ねえ、カナ。
この景色、空から見ようよ。
きっと……すごく、きれいだと思うよ!』
「そうね、それはきれいでしょうね――って……」
頷きかけて、カナははっと言葉を止め、思わず瞬きをする。
「……えっ!?」
ディオリアは胸を張ると、にっ、と笑った。
『あのね。前に言ったでしょ?
アルヴェリオン様から、力を分けてもらった、って』
「……うん」
『それってね』
声が、誇らしげに大きくなる。
『こういうことなんだよ!』
次の瞬間――。
ディオリアの小さな身体が、まばゆい光に包まれた。
光は一気に広がると、白金にも似た輝きが空気を満たし、花々の色が一瞬、溶け合う。
風が止み、音が遠のく。
やがて、光が静かに収束すると――。
そこには、しなやかな肢体と、気高く輝く鱗を持つ、一頭の美しく大きな龍がいた。
優美で、堂々とした姿。
淡い鱗は光を柔らかく反射し、巨大な翼は静かに畳まれている。
その瞳には、先ほどと変わらぬ、無邪気で澄んだ輝きが宿っていた。
「……ディ、オリア……?」
丘の上に、静寂が降りる。
花は揺れ、空は変わらず青く――。




