辺境伯領の静かな夜2
レイナルトは、しばしカナの髪を撫でてから、静かに口を開いた。
「……カナ。明日は、辺境伯領の遠乗りに出かけないか?」
その言葉に、カナは思わず身を起こした。
「え……? 良いのですか?」
ぱっと表情が明るくなる。
「嬉しいです。この美しい景色を……もっとたくさん見られるのですね!」
「そうだな」
レイナルトは微笑んだ。
「ここのところ、君は無理をしてばかりだったからな。
少し、気持ちを休めるといい」
カナは、やわらかく首を振る。
「それは……お互い様です。レイナルト様」
「ははっ」
彼は小さく笑うと、頷いた。
「違いないな。……明日が楽しみだ」
そう言うと、レイナルトは身を屈め、カナの頬にそっとキスを落とした。
そして、いたずらを含んだ瞳で顔を覗き込む。
「……一緒に寝るか。カナ」
「――――っ!?」
カナの思考が、一瞬で真っ白になった。
その顔が、音を立てそうなほど一気に赤くなる。
耳まで真っ赤に染め、目を丸くしたカナは、思わずズザザッと後ずさりすると、両手で頬を押さえた。
「な、なななな……っ!?
なにを仰ってるんですか……っ!!」
その様子に、レイナルトは堪えきれず肩を震わせた。
「ははは。冗談だ」
優しく、楽しげな声。
「……今は、まだ、な」
そう告げると、もう一度、今度は額に軽くキスを落とし、ぽんと頭に手を置く。
「じゃあ……お休み、カナ」
「……お、おやすみなさいませ……」
カナの消え入りそうな声に、レイナルトはくすっと笑みをこぼすと立ち上がり、隣室へと姿を消す。
扉が静かに閉まっても――カナは、しばらくそのまま固まっていた。
(じょ、冗談……。
……冗談、とはいえ……)
心臓が、落ち着きなく跳ね回っている。
(……今は、まだ、ってことは……そのうち、ってことだよね!?)
「…………っ!!」
胸の奥が、どくん、どくんと落ち着かない。
ベッドに潜り込むものの、目を閉じても、先ほどの声と表情が、鮮明によみがえる。
頬の熱がまったく引かない。
(もう……レイナルト様……!)
ごろん、と寝返りを打つ。
また反対側へ、ごろん。
ごろん。
ごろん。
ごろん。
「はぁ……」
結局、枕をぎゅっと抱きしめ、小さく息を吐いた。
「明日、遠乗り……なのに……。
寝られる気が、全然しない……っ」
それでも――口元には、抑えきれない微笑みが浮かぶ。
くすぐったいほど温かな気持ちに包まれながら、
カナはいつの間にか、浅い眠りへと落ちていった。




