SS エフィ・クラヴィス辺境伯令嬢2
エリアスは、周囲の者とは全く違っていた。
初めて同じ課題に取り組んだ日。
精霊との同調、魔力制御、理論構築――。
結果は、並んだ。
(……なん、ですって……?)
次の実技。
さらに次の理論試験。
そのどれにおいても、彼はエフィと並ぶか、あるいは僅かに上回る結果を叩き出した。
結果は明白だった。
エフィが積み上げてきた「当然の首位」は、あっさりと塗り替えられる。
名簿の一番上に記された名は、初めて彼女のものではなかった。
(……やっぱり……そうなるよね……)
動揺が走る。
敗北の悔しさよりも先に湧いたのは、理解できないという感覚だった。
努力が足りなかったわけでもない。
油断した覚えもない。
それでも――届かなかった。
焦りとも違う。
怒りでもない。
初めて味わう「上には上がいる」という現実に、エフィは打ちのめされていた。
そして次の瞬間、彼女は気付いてしまう。
(……この人は……すごい)
彼は、必死ではない。
ただ、自然体なのだ。
それが、エフィの心を強く打った。
――初めてだった。
誰かを純粋に“認める”という感覚は。
その瞬間、エフィの中で、止まりかけていた何かが、再び動き出した。
*
エリアスは、自分が誰かと競っているという意識を、ほとんど持っていなかった。
ただ精霊と向き合い、ただ学び、ただ、自分の理解を深めているだけだ。
(ああ……なるほど)
エフィと並んだ成績を見ても、エリアスは勝ったとも、競ったとも思わなかった。
同じ方向を見ている人だ、という認識だけ。
ただ、それだけだった。
それでも――。
無意識のうちに、彼女を探している自分に、エリアスは気付いていた。
エフィ・クラヴィス。
常に完璧な解を導き、迷いなく前へ進む少女。
最初に彼女を見た時、率直に「凄い」と思った。
才能も、鍛え上げられた技量も、疑いようがなかった。
だが同時に、どこか危うさも感じていた。
(強すぎるんだ)
精霊を従わせる力。
正しさを押し通せる理。
それらを持ちながら、彼女はあまりにも一人で完結していた。
(……あ)
廊下の先で、エフィの姿を見つける。
こちらに気づいた彼女は、一瞬だけ立ち止まり、そして小さく会釈をした。
それだけ。
言葉は交わさない。
だがエリアスは、なぜかそれで十分だと思えた。
(競う必要は、ないな)
勝ち負けでも、上下でもない。
並んで立てる相手。
そして――
話せば、きっと面白いことになる相手。
彼は自然と、微笑んでいた。
(もう少し、知りたいな)
それは初めて、“誰かに向けて抱いた、静かな興味”だった。




