辺境伯領でのお茶会
ギルノードとレイナルトを見送った後、カナはエスティーヌとイリシャ、リゼアに案内され、城の奥にある明るい居間へと通された。
大きな窓からは、辺境伯領に咲き誇る花々が一望できる。
風に揺れる木々の枝先には、淡い色の花が幾重にも咲き、陽光を受けてきらきらと輝いていた。
「わあ……! とても素敵なお部屋ですね」
思わず声を上げたカナに、エスティーヌが微笑む。
「ありがとうございます。
ここは、春になると一番居心地が良いのですよ。
風も香りも、やさしくて」
席に着くと、ほどなくしてエフィが茶器を運んできた。
「温かい花茶です。辺境伯領で採れたものなんですよ」
「すごく……いい香りですね……」
カナが手にしたカップに顔を近づけると、イリシャが微笑む。
「聖女様、そんなふうに喜んでくださるなんて……。
あの、お口に合うといいのですが」
「ありがとうございます。
あの、イリシャ様、リゼア様……どうか、カナと呼んでくださいませんか」
そう言って、カナが照れたように微笑むと、二人の少女は顔を見合わせた。
「……では、カナ様」
「あの……どうか、カナ、で。
学院で机を並べる身ですし……できれば、私もイリシャ、リゼアと呼ばせていただきたいのですが……良いでしょうか?」
その言葉に、リゼアが頬を染め、笑顔になる。
「嬉しいです! 聖女様、もちろんです!
あ、えっと、では……。
畏れ多いのですが、カナ、と呼ばせていただきますね」
リゼアの言葉に、カナは破顔する。
「ありがとう、リゼア。
お二人とも、ぜひ、仲良くしてくださいね」
そのやり取りに、エスティーヌとエフィが穏やかに目を細める。
「まあ……カナ様、お優しいのですね。
まずは学院のお話と……精霊科の皆様の精霊祝祭のお話を、ぜひともお聞きしたいのですが」
エスティーヌがそう促すと、カナは頷いた。
「はい。
ええと、そうですね……。
学院は……皆さん、とても優しくて。
私は途中入学だったので……最初はとても不安だったのですが、今は毎日が楽しいです。
新学期からは、初の試みで、科を超えた交流も計画されているそうです」
「ああ、楽しみ……! ね、リゼア!」
イリシャの目が輝く。
「えっと、イリシャが精霊科で……リゼアは魔術科だよね?」
カナが視線を向けると、リゼアは笑顔を向ける。
「そう。私は、魔力量が人より少し多いみたいで」
その言葉に、エフィの手が一瞬止まる。
「“少し”?」
リゼアは困ったように笑った。
「あー、えっと、正確には……かなり、っていうか膨大だって測定されて。
だけど自分ではあまり実感がなくて……基礎の方が課題だって言われているの」
「え? そうなの?! 膨大って……すごいんだね、リゼア」
カナの声に、エフィがにっこりと柔らかく口を挟む。
「そう。やはり膨大だったのね、リゼア。
あなたはそれと、制御も学んだ方が良いわ。
基礎を疎かにする者ほど、後で困りますから。
……あなたもよ。基礎を大切にしなさい、イリシャ」
「あ、はい……お姉さま……」
「はい……頑張ります……」
二人が少しシュンとすると、エスティーヌがくすりと笑った。
「エフィ、ほどほどにね。
カナ様、エフィは姉ということもあって、昔から、少し厳しいところがありますのよ」
「お、母様……っ」
珍しく困った顔をするエフィに、場が和む。
「リゼア、昔から魔力が溢れちゃうものね」
「イリシャ……それは内緒だってば」
カナはその様子を眺めながら、胸が温かくなるのを感じていた。
(ふふっ……素敵なご家族)
話題は尽きることなく、笑い声が部屋を満たしていく。
学院や王都の話、辺境伯領の春の風景、城の庭で見られる一番綺麗な花の話――。
ふと、窓の外に目を向けると、花咲く木々の向こうに青い空が広がっていた。
この場所は、穏やかで、優しくて。
束の間とはいえ、心を休めるには、あまりにも心地よい場所だった。
やがて、穏やかな談笑は自然と話題を移していった。
精霊祝祭――人と精霊、そして運命が交差した、あの日のことへ。




