辺境伯領へ6
「さて……」
一行がソファーに腰を下ろすと、ギルノードがゆっくりと口を開いた。
その声音は、公の場での厳格な辺境伯のものではなく、どこか親しみが滲んでいる。
「ここからは辺境伯ではなく――“伯父”として話そう、レイナルト」
「伯父上……」
レイナルトは、思わず微笑みを浮かべ、わずかに姿勢を崩す。
ギルノードはその様子を満足そうに見、頷くと腕を組み、軽く息をついた。
「切羽詰まった情報があるのだろうことは察している。
だが……カナ様もいらっしゃることだ。
まずは、この辺境伯領で束の間、羽を伸ばすとよい」
そして、大きな手を上げると続ける。
「城の中にあるものは、何でも使ってくれて構わん。
どこへ行ってもよいぞ」
そして、ふと思い出したように口角を上げた。
「あとは……そうだな。
遠乗りもできるし、早駈けもできるが……。どうする?」
「さすが、伯父上ですね」
レイナルトは素直に頭を下げた。
「お気遣いいただき、ありがとうございます」
そのやり取りを、柔らかな笑みで見守っていたエスティーヌが、にこやかにカナへ声をかける。
「カナ様。もしよろしければ、わたくしたちと少しお話ししていただけませんか?
学院でのご様子や、いろいろなお話もぜひ伺いたくて……いかがでしょう」
「ええ、もちろんです」
カナは明るく微笑み、頷くと、そっとレイナルトを見上げた。
「……レイナルト様……?」
「行っておいで、カナ。では、その間……」
レイナルトは穏やかに頷くと、ギルノードへと視線を向けた。
「伯父上。
久しぶりに――早駈けをしませんか?」
ギルノードの口元が、楽しげに緩んだ。
「ほう?」
その瞳が、少年のように輝く。
「そう来たか。
だが、まだまだ、お前には負けんぞ。
おお、そうだ。いい馬が来たんだ。見せてやろう」
「それは楽しみですね」
レイナルトは笑みを浮かべた。
静かな城の応接室に、柔らかな笑い声が重なる。
辺境伯領の穏やかな午後は、ゆっくりと流れていった。




