辺境伯領へ3
途中、三人は馬車を降り、さわやかな風が吹き抜ける、湖のほとりへと足を向けた。
陽光を受けてきらめく湖面は、空の青さをそのまま映したように澄み渡っている。
木々の葉はさらさらと揺れ、鳥の声が遠くでさえずっている。
簡易の敷物が広げられると、エフィが手際よく食事の用意を始めた。
温かな香りが漂うと、カナは思わず顔を綻ばせる。
「この先の森を抜けると、辺境伯領に入ります。
夕方には到着できるかと思いますわ」
給仕をしながらエフィが告げる。
「そうなんですね!」
カナは、思わず湖の向こうを見やって頷いた後、ふと思い出したようにエフィを見る。
「エフィさん、辺境伯領って……とってもきれいなところだって仰ってましたよね?
どんな感じなんですか?」
エフィは穏やかに微笑む。
湖面の光がその瞳に柔らかく滲む。
「それは――見てからのお楽しみにいたしましょう。
言葉よりも、実際に目にした方がずっと素晴らしいですから」
その横で、レイナルトが軽く笑みを浮かべる。
「俺も、この季節に辺境伯領へ行くのは初めてだからな。楽しみではある」
「え、そうなんですね!」
カナの瞳が輝く。
「どんな感じなのか……わくわくしますね!」
湖面を渡る風が、三人の髪をそっと揺らした。
*
夕刻。
長い森道を抜け、馬車が緩やかに速度を落としていく。
木々が途切れ、視界がひらけたその瞬間――カナは思わず息を呑んだ。
そこには、黄金の光を浴びて輝く広大な花原があった。
白、桃、薄紫、そして黄金――色とりどりの野花が、ゆるやかな丘一面に咲き誇り、夕陽の光を受けて淡く輝いている。
風が吹くと、花々が波のように揺れ、甘い香りが馬車へと流れ込んできた。
だが、カナの目を奪ったのは、それだけではなかった。
淡い桜色の花をつけた大樹。
黄金の小花が無数に咲き、風が吹くたびに光の粒のように揺れる木。
白い花房をいくつも垂らし、甘い香りを漂わせる木。
木々の間を抜ける風が、花びらをひらひらと舞わせ、道に淡い花の絨毯を敷いていく。
「……すごい……きれい……」
レイナルトはその横顔を見て、微笑む。
「この季節の辺境伯領は、特に美しいと聞いていたが……確かに評判以上だな」
花の海の向こうに、白亜の城館が静かに佇んでいた。
咲き誇る木々に彩られ、夕陽の金色を受けて輝く。
やがて馬車が城館の前へと到着すると、重厚な門が開かれる。
護衛たちが整列し、敬礼する中、ひときわ堂々とした人物が姿を現した。
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