辺境伯領へ2
翌日。
澄んだ朝の光の中、カナとレイナルトを乗せた馬車は王都を離れ、辺境伯領へと続く街道を進んでいた。
窓の外には、揺れる若葉と淡い陽光。
緩やかな馬車の揺れが、穏やかな時間をつくり出している。
そんな中、レイナルトは膝の上に置いた手を軽く組むと、静かに口を開いた。
「……伯爵と陛下と話をしたんだが、やはりイリアム帝国は何かあるな」
カナの脳裏に、王太子妃教育で学んだ知識が蘇る。
「イリアム帝国……確か、好戦的な皇帝が治めている国ですよね。
ヴェルデン王国とは、不可侵条約があったはずですが……」
レイナルトは頷き、視線を窓の外へと向けた。
「ああ。条約は健在だ。
それに、ノーザリアが属国となっている今、国力を見ても我が国に手を出すことはないだろう」
その言葉に、カナはほっと肩を緩めた。
「……それを聞いて、少し安心しました」
レイナルトは柔らかく微笑む。
「それに――」
彼は穏やかな眼差しでカナを見る。
「今はラグナ様だけでなく、ディオリア様もいらっしゃる。
そして、エルハイムの女王陛下も。
……心強いことこの上ないな」
カナも自然と微笑み返した。
「そうですね。本当に……」
レイナルトは窓の外へ視線を向け、風を受ける木々の影を眺めながら言葉を続けた。
「まあ、備えるに越したことはない。
……とはいえ、今はあまり暗い話はやめておこう。
せっかくの旅だ。楽しむべきだな」
カナの顔がぱっと明るくなる。
「はいっ!」
馬車は陽を受けてきらめく街道を、風を切るように進んでいく。
不穏な影を抱えつつも、二人の間に流れる空気はやわらかく、どこまでも穏やかだった。




