辺境伯領へ
カナとレイナルトは、レイナルトの私室に戻っていた。
ミリアが告げた、不穏な話。
レイナルトは窓辺に歩み寄り、淡い月光を受けながら、思案げに眉を寄せていた。
カナは静かに言葉を待った。
やがて、彼は静かに口を開く。
「……カナ」
「はい」
「学院が始まるまで、二週間ほどあるが……。
その間に、辺境伯領へ行かないか」
「辺境伯領……ですか?」
カナが首を傾げると、レイナルトはゆっくりと頷いた。
「先ほどのミリア嬢の話……。
彼女は“確証がない”と言っていたが、俺は、かなり信憑性が高いと思っている。
伯父上――辺境伯にも、直接伝えておきたい」
そう言うと、控えていたエフィに視線を向ける。
「エフィ。どう見る?」
エフィは柔らかく頷いた。
「私から情報を飛ばすこともできますが……。
ですが、やはり、お二人が直接行かれる方が良いかと存じます」
そして、ふっと表情を綻ばせて続ける。
「それに、辺境伯領は今、花が咲き誇り、とてもよい季節です。
不穏なお話の中ではありますが……
カナ様には、ぜひあの美しい景色をご覧いただきたいですわ」
その一言に、カナの表情がぱっと明るくなった。
「わぁっ……そうなんですね!」
レイナルトも微笑みを返す。
「そうか――そうだな。
ではエフィ、準備を頼む」
「かしこまりました」
エフィが静かに退室すると、レイナルトはカナの前に歩み寄り、そっとその髪を撫でた。
「俺はこれから、陛下のところに行って、話をしてこようと思う。
……遅くまですまなかった。
ゆっくり休んでくれ。おやすみ、カナ」
「はい。レイナルト様。おやすみなさい」
レイナルトは慈しむように、カナにそっと唇を触れさせる。
カナは目を閉じ、静かにその温もりを受け取った。
胸が高鳴る音が聞こえてしまいそうだと思いながら――。
カナは隣の自室へと戻る。
胸の奥には、不安と、それを上回る旅への期待が、淡く灯っていた。




