ヴェルデン王宮-夜のサロン4-
ミリアは、俯いた視線の先でそっと手を握りしめた。
しばしの沈黙ののち、意を決したように顔を上げる。
「我が家は海運も営んでおりますので……東方の情勢が、比較的早く届くのです」
その声には緊張が宿っていた。
レイナルトは静かに続きを促す。
「……東のイリアム帝国が、最近……怪しい動きを見せている、と」
イリアム帝国――奴隷制度を未だに残す、好戦的な大国。
「他国から、大量の武器を輸入している、という噂があるのです。
もちろん、確証はありません。
ですが……父は『静観するには不穏すぎる』と……」
かすかな震えを伴う告白に、セオが黙ってミリアに手を重ねた。
「……それは、確かに看過できる話ではないな……」
レイナルトの低い声に、窓の外の夜風が窓を鳴らした。
*
ミリアは小さく頷くと、言葉を紡いだ。
「……はい。それと……。
父が言うには、新しく任じられたイリアム帝国の枢機卿が、何かしら関与しているようだ、と……」
「新しく任じられた? おかしいな……。
まだお元気だったはずなのだが、何かあったのか?」
ミリアの言葉に、ユリアンが声を上げる。
レイナルトは顎に手を当て、深く思案の色を浮かべた。
「……ふむ。ミリア嬢。貴重な情報を感謝する。
確かに妙な動きだ。
これは、探る必要があるな……」
レイナルトは顔を上げると、傍らに控えていたエフィに視線を向けた。
「エフィ。何か異変を聞いてはいないか?」
エフィは静かに首を横に振った。
「……今のところ、国境あたりで特別な変化は見られておりません」
「そうか……。とはいえ、情報が情報だ。
監視は強めておいた方が良いかもしれないな」
「承知いたしました。すぐにでも伝達します」
沈んだ空気の中、セオが静かに頷いた。
「……そうだね。
僕もその方がいいと思うよ」
ユリアンもまた、眉を寄せる。
「私も賛成です。
早い段階で動いた方が良いでしょう」
何かが、密やかに蠢き始めていた――。
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