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朝食ホールにて

マーサに連れられて、カナは特別寮のホールへと足を踏み入れた。

その瞬間、温かな談笑で満ちていた空気が、すっと静まり返る。


カトラリーの触れ合う音さえ消え、無数の視線が一斉にカナへと注がれた。

 

一瞬の沈黙の後、ざわ……と、ひそやかな声があちこちから聞こえる。


(あの子が……特待生? 昨日来たって……)

(王命なんだってな……すごいよな……)


「……」


視線がカナに集まる。

胸がぎゅっと縮こまりそうになったそのとき――


マーサがすっと前へと歩み出ると、カナを軽く促した。


「皆さん、昨日到着されたカナ様です。精霊科の初等部に入学されます。

これからこちらで学ばれることになりますので、どうぞよろしくお願いいたします」


小さなざわめきが起こり、すぐにまた静けさが戻った。

好奇の目が突き刺さるようで、カナは思わず両手をぎゅっと握りしめる。


(……緊張する……こんなに見られるなんて……)


そのとき――


「おーい! こっちにおいでよ!」


明るく響いた声に、カナは顔を上げた。

ホールの中ほどの席で、栗色の髪を肩まで伸ばした少女が、にこにこと手を振っていた。


張り詰めていた空気が少しだけ和らぐ。 


マーサが微笑んで囁く。


「どうやら、お友達が見つかったようですね。行ってみましょう」


カナは小さく頷き、胸の奥で息を整えると、マーサに促されてその席へと歩き出した。





テーブルに近づくと、少女は元気よく立ち上がり、にこっと笑った。


「おはよう!

わたし、ミリア・エヴァンス。わたしも精霊科の初等部なの!

よかったら、一緒に食べない?」


ミリアは気負いのない様子で、周囲の好奇の視線をさらりと受け流す。


カナは緊張で少し硬い声になりながらも、頭を下げる。


「え、あ……ありがとう……カナです。よろしくお願いします」

 

「うん、こちらこそよろしくね!

特待生なんでしょ?すごいじゃない!」


ミリアは目を輝かせ、遠慮なくカナの腕を引いて椅子に座らせる。

テーブルの上には、焼きたてのパンとスープ、果実の盛り合わせが並んでいた。


「ここは……わたしが座ってもいい席なの?」


「もちろん!

ここは席が決まってないし、気にしないで」


ミリアがパンを取り分けながら、にこにこと話しかける。


そのテーブルには、もう一人の少女が座っていた。

短い金髪の少女は、パンをかじりながら顔を上げ、明るい瞳でこちらを見た。


「まったく、ミリアは相変わらず勝手なんだから……でも、歓迎するよ。

よろしく。わたしはサラ・リンドール。魔術科の初等部だ」


「ほら、こういうときこそ友達を作るべきでしょ?」


軽口に笑いがこぼれ、緊張で固まっていたカナの心が少しだけ緩んだ。

思わず、小さく笑みがこぼれる。


「ほら、ミリアの元気が良すぎて、カナがびっくりしてるよ?」


「そんなことないもん!」


二人のやり取りに、カナは思わずくすっと笑ってしまう。


「……サラさんは、ここで暮らして長いんですか?」


「うーん、入学して半年くらいかな。

最初は戸惑うことばかりだったけど、慣れると楽しいよ。カナもすぐ馴染めると思う」


「……ミリアさんもですか?」


「うん、私も半年くらい!

最初は緊張したけど、すぐに友達もできるし、先生たちも優しいから大丈夫。

カナもすぐ慣れるって。

わたしたちがちゃんと案内してあげるから!」


ミリアの勢いに押されつつも、サラが「ま、ほどほどにね」と肩をすくめる。


マーサが少し離れた場所から穏やかに見守る中、カナは二人と並んで朝食を口にした。


――うん、少しずつ、頑張れそう。


心の奥がほんのり温かくなった。

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