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精霊たちと話せるので、転生先で聖女になりました  作者: 高梨美奈子


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特別寮の朝

翌朝、やわらかな寝具に包まれたまま、カナはまだ夢と覚醒のあわいにいた。

淡く揺れるカーテン越しの光が、静かな部屋に差し込んでいる。

王都の鐘の音と、精霊たちのささやきが、静かな部屋に満ちている。


昨日の不安と緊張はまだ胸の奥にあったが、同時にどこか期待に似たものも芽生えていた。


コン、コン――


扉を叩く音に、カナははっと目を覚まし、慌てて身を起こした。


「カナ様、朝のお支度はお済みですか?」


扉越しに、寮の管理者マーサの落ち着いた声が響く。


「は、はいっ! すぐに」


声が裏返りそうになりながら、慌てて上着を羽織る。

扉を開けると、そこには、やわらかな笑みを浮かべたマーサが立っていた。


銀の髪をすっきりとまとめ、深緑のエプロンドレスに身を包んでいる。

その眼差しは、どこか母のようにあたたかい。


「おはようございます。昨夜は、ゆっくりお休みになれましたか?」


「……はい、ありがとうございます。

おかげさまで、ぐっすり眠れました」


「それは何よりです」


マーサは微笑み、背後のメイドを振り返った。

メイドが抱えていたのは、折り畳まれた学院の制服と、革表紙の教科書が詰まった箱。


「こちらが、カナ様の制服と、初等課程の教材一式でございます。

王家のご厚意により、布地から新しくお仕立て直しでご用意しました」


カナは思わず目を見開く。

白と淡い水色を基調にしたその制服は、繊細な刺繍で精霊の紋様が描かれ、袖口には銀糸が縫い込まれている。

手触りもさらさらしていて、心地よい。


「これが……制服、ですか?」


これは、カナの知っている制服ではない。

前世でも見たことがないほど美しく、自分の概念が覆される。


「とても、きれいですね。

これを着ると、なんだか……頑張れるような気がします」


その言葉に、マーサの表情が優しく和らいだ。


「ええ、きっとよくお似合いになりますわ。

カナ様はもう、王国の未来を担う学び舎の一員ですから」


教科書を受け取ると、わずかに革の匂いがする。

新しい世界への扉を開くような重みを、手のひらに感じた。


「では、お支度ができましたら朝食を。

本日は、学院長先生との顔合わせがございます」


マーサは静かに一礼すると、メイドを伴い部屋を後にした。


カナは制服を胸に抱きしめ、窓の外に見える精霊樹を見上げた。


(……わたし、また新しい一歩を踏み出すんだ)


風が窓からそっと吹き込み、カナの頬をやさしく撫でていった。





制服に袖を通し、髪を整え終えた頃、再びマーサが部屋を訪れた。


「お支度が整いましたね。では、朝食をどうなさいますか? 

寮のホールで他の生徒たちと召し上がることもできますし、ご希望であればこちらの部屋にお運びしますが」


差し出された二つの選択肢に、カナの心臓が跳ねる。


(……え……他の生徒たちと?

いきなり知らない人たちの中へなんて……)


人見知りする性格が、足をすくませようとする。


だが、ここに来たのは、精霊とともに歩む道を見つけるため。

このまま部屋にこもっていては、何も始まらない。


カナは小さく息を整え、意を決してマーサを見上げた。


「……ホールで、お願いします。

少しずつ、学院のことを知りたいです」


その言葉に、マーサは穏やかに微笑んだ。


「わかりました。

その方が、きっと良い経験になりますわ。

ここは皆、同じ学び舎の仲間ですから」


「……はい」


カナは胸元のペンダントをぎゅっと握り、ホールへと向かう廊下を歩く。

風の精霊が、そっと声をかけてくれる。


『――カナ、顔を上げて。大丈夫』


その囁きに、ほんの少しだけ勇気が湧き、歩幅が自然と広がるのだった。

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