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エリアスの報告

エリアスは、大聖堂に隣接する精霊庁の執務棟に足を運んでいた。

天井の高い石造りの回廊を、靴音を控えめに響かせながら進む彼の表情は、いつになく真剣だ。


その手には、精霊の力を測定した結果の報告書がある。

規格外の数値、見える・話せるという前例のない証言、

そして“加護が形を成している”という現象。

どれも、常識の枠を超えていた。


執務棟奥の部屋──精霊庁責任者の扉をノックする。


「エリアスか。視察は終えたのかね?」


「はい、長官。それと……至急、お目通しいただきたい件があります」


静かに差し出した報告書を受け取った男は、眉をひそめる。

やがて読み進めるにつれて、その目が見開かれていった。


「これは……」


「――明らかに、記録にあるどの適性者よりも、突出しています」


男は深く息を吐き、報告書を置いた。


「王宮に伝えるしかないな。特別な措置を、我々の裁量で決めるわけにはいかん」


「はい。今朝の便で、すでに信書を提出いたしました」


男の表情に、わずかに驚きの色が浮かぶ。


「……手が早いな」


「彼女は、それほどの存在です。後手に回れば、混乱を招く可能性もあります」


しばしの沈黙ののち、男は頷いた。


「分かった。では我々も動こう。

王宮からの指示が来るまで、彼女の所在と身辺の保護は万全に」


「承知しました。王宮側の反応があれば、即時対応いたします」


会話を終え、静かに頭を下げて部屋を後にするエリアスの背には、

これまで以上に確かな覚悟が宿っていた。





王宮の中枢、謁見の間に近い私室の一つ。

そこに通されたエリアスは、深く頭を垂れた。


「……以上が、大聖堂での検査結果です」


文書に添えられた検査報告とともに、カナの持つペンダントの写しも提出されている。


報告を聞いていたのは、王宮の高官たち、並びに――第一王子、レイナルトだった。

静かな威厳と聡明さを感じさせる佇まい。

彼は机の上に広げられた報告書をしばし見つめたのち、口を開いた。


「精霊の声を聞くだけでなく、姿が見える……?

しかも、対話が可能な上、加護が“可視化”された、だと?」


「はい」


エリアスの返答に、机を挟んだ面々が顔を見合わせる。


「――何ということだ……」


静寂が落ちる。


「その少女の出自は?」


「辺境の森で保護された身。家系記録には一切該当なし。

――ですが、血筋とは別のところで、力が“呼ばれた”形跡が見られます」


レイナルトはしばし目を伏せ、静かに指を組む。


「……そのまま適性者として処理するわけにはいかないな。

――特例ではなく、“特任”の扱いとするべきか」


「……はい。前例のない特性です。

今後の扱いについて、ご指示を仰ぎたく……」


エリアスの言葉に、レイナルトは頷いた。そして、傍らに控えていた侍従に目配せする。


「王に報告の上、“特任”としての指導体制を整えろ。

――聖女候補だ。精霊庁の協力も必要になるだろう」


「はっ。特任として、記録いたします」


静かなやり取りだったが、それが意味するのは大きい。

『特任』とは、通常の適性者とは別に、王家が直轄で監督・保護する特殊な存在。

精霊との交信能力が極めて高く、国益にも関わると判断された者にのみ下される措置だった。


エリアスは深く礼をしながら、胸の奥でひそかに息をつく。

これで、カナは守られる。


報告は、波紋を広げ確実に――

王宮と精霊庁の中枢を動かしていった。

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