王都到着
王都の門が見えてきたとき、カナは自然と息を呑んだ。
高くそびえる白亜の城壁。
その向こうに、尖塔の連なる大聖堂の屋根が覗く。
光を反射するその屋根は、まるで精霊の祝福を受けているかのように輝いていた。
「……ここが、王都……。
……すごいですね」
カナは胸の前で手を握った。
貴族風の衣装を着た婦人、商人たち、通りを走る小さな子ども。
行き交う人の多さ、それに空気そのものが違って感じられる。
目の前には色とりどりの屋台が並び、香ばしい焼き菓子の匂いや、
異国の香辛料の刺激的な香りが風に乗って漂ってくる。
思わず洩れた言葉に、向かいに座るエリアスが苦笑を漏らす。
「ああ。驚くのも無理はないな。
初めて来たときは、俺も圧倒された」
賑やかで活気にあふれた街の様子は、今までの静かな村の暮らしとはまるで違っていた。
人混みを避けながら馬車は進み、王都の中心部へと向かう。
道ばたでは旅芸人が笛を吹き、子どもたちが笑い声をあげている。
カナの目は、どこを見ても新鮮な光景ばかりで、
次々と移り変わる景色に吸い込まれるようだった。
「少し歩くか?」
「え……いいんですか?
歩いてみたいです!」
エリアスが指示をすると、馬車がゆっくり停まった。
「……よし、行こう。
この先に、大聖堂がある」
ふたりは馬車から降り、石畳を歩き始めた。
エリアスが示した先には、天へと突き刺すように高くそびえる白亜の塔があった。
青空を背景に、塔の先端が金色に輝いている。
カナはその美しさに、しばし足を止めて見とれた。
「精霊庁の本部も兼ねてる場所だ。
ちなみに、あの尖塔のひとつが“聖環の塔”になる。
着いたらすぐに特例申請の手続きをする」
「特例……申請、ですか?」
「ああ。
通常はもっと時間をかけて精霊との親和性の確認をするんだが……君は“例外”だ。
精霊の声が聞こえる上に、姿まで見えてる。その上……」
エリアスの目が、カナの胸元で揺れるペンダントに向いた。
「加護が、ここまで明確な形を成しているなんて……俺も初めて見た」
彼の声には、あらためて感嘆が滲んでいた。
人々のざわめきのなか、カナはそっと胸に手を当てた。
(ここから、始まるんだ……)
胸の奥で、風の精霊の声が微かに囁いたような気がした。