カナの夢
加奈は、ふわふわとした夢の中を漂っていた。
遠くで、自分を呼ぶ声がする。
――カナ!
……誰だろう? 知っている声のはずなのに。
はっと目を開けた。
そこは、見慣れた学校の教室だった。
「おはよ。加奈ちゃん、ぐっすりだったねー? もう授業終わったよ」
隣の席から、友達の美玖が笑いかけてくる。
「え……? 私……寝てた?
そ、そうなんだ。ありがとう」
「ねえ。もう帰るでしょ? 駅まで一緒に行かない?
あ、もし時間あったら、駅前のドーナツ屋さん寄ってかない? 新作が出たんだってー!」
「あ、うん。いいね」
加奈は立ち上がりながら、胸の奥に小さな違和感が広がるのを感じた。
けれど、その正体はまだ、言葉にならなかった。
*
美玖と並んで校門を出て歩き出す。
横断歩道の信号が青に変わった瞬間、加奈はふと足を止めてしまった。
「どしたの? 加奈ちゃん?」
美玖が振り返る。
「あ、ううん……ごめん。なんでもない」
慌てて歩き出し、笑顔を作ってみせる。
そのとき、美玖の視線がカナの手首に向いた。
「ねえ、そのブレスレット、可愛いね。
加奈ちゃんが学校にそういうのつけてくるのって、珍しいよね」
「……え? あ、これ?」
カナは無意識にブレスレットに触れる。
「素敵だな、と思って。
……買った、の……」
――買った? 私が? いつ……?
胸の奥に、説明できない違和感がじわりと広がっていく。
「そうなんだー」
美玖は軽く笑い、そのままカナの髪へ視線を移した。
「その髪飾りも、リボンも可愛い。似合うねー!」
「あ、ありがとう……?」
――髪飾り? リボン……?
いつ買ったのか、まったく覚えていない。
*
美玖と一緒にドーナツショップに入る。
甘い香りに包まれ、色とりどりのドーナツを選んでいく。
「買えてよかったー!」
満面の笑みで振り返る美玖に、カナも微笑み返す。
「あってよかったね」
二人の手には、紙箱に入ったドーナツ。
「うん。付き合ってくれてありがとう!
じゃーね! また明日」
「うん、バイバイ」
駅の改札で手を振り合い、カナは電車に乗った。
最寄り駅で降り、自転車をこいで帰路につく。
自宅のドアを開けると、キッチンに立つ母の姿が見えた。
「おかえり、加奈ちゃん」
「……お母、さん?」
母が手を拭きながら近づいてくる。
「あら、どうしたの?」
「あ、ごめん……えっと、あ、これ、おみやげ」
手にしていたドーナツの紙箱を差し出す。
「まあ、ありがとう」
「……着替えてくるね」
カナは靴を脱ぎ、まっすぐ自分の部屋へと向かった。




