何だか涙が止まらないの
三郎さんは樹木の近くに眠っている。草花が好きだった三郎さんにはぴったりだ。家族で眠っている三郎さんに会いに行った。
「生前は大変お世話になりました。頂いた薔薇やクリスマスローズ、ローリエに楽しませて貰ってます。」
三郎さんのようにまめに植物の世話をするのは難しい。大体でやると大体の出来栄えになる。それでも咲いてくれる花は愛おしい。
「心を込めて世話すれば良いんだ」
そんなところに気持ちが落ち着いている。
三郎さんの二回目の命日が過ぎた頃、幸子さんの様子が変わってきた。
急に家に来て落ち着かない様子だ。目には涙を浮かべている。
「大丈夫ですか?」と声をかけると、幸子さんは話出した。
「何だか胸の辺りがおかしいの。モヤモヤするというか、苦しいというか」
そんな話をする幸子さんはボロボロ泣き出した。
「気にしないで、涙が止まらないみたいなの」
そう言われても気になる。かかっている病院に行くように話した。
何故だろう?
あんなに明るく笑っていた幸子さんは人が変わったように暗い感じになってしまった。
「水道を一晩中出しっぱなしだったみたい」
「炊飯器のタイマーのやり方がわからないの」
とか色々と不安が出るようだ。
「遊びに来て」
と言われるが仕事しているとそんなには行けない。
久しぶりに話を聞いてほしいと言うのでリビングにおじゃました。
「朝御飯はキチンと食べているのだろうか?」
御飯茶碗によそおったご飯がテーブルにそのままに置かれていた。お薬も飲んだか飲まないか忘れてしまう様だった。
進行する前に何とかしないと考えているうちに家族と病院に行ったようだ。詳しい事はわからない。本人は不安症だと言う。家族でもないので本人も病気については余り話たがらない。当然の事だ。
しかし、こうも考える。
「隣人とはこんなのものか?寂しいから遊びに来てとは言うが、肝心なことは話してくれない。」
段々と距離が出来てきた。
あんなに頻繁にかかってきた電話もない。仕事から帰ると夫が言う
「ピンポンなったけど、仕事中で出られなかったよ」
私が昼間仕事に出ている事も忘れてしまったのだろうか?
今年も薔薇の季節がやってきた。三郎さんの育てた薔薇は大分少なくなったが、地植えしたものは見事に咲いている。三郎さんが優しかった分、幸子さんの心の哀しみは深いような気がしてならない。