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燻製の香り

初夏を思わせる夏の日差しが眩しい日曜日、何だか美味しそうな匂いと煙が立ち込めている。幸子さんのご主人三郎さんは優しさを絵に描いた様な人だ。この日は頭にハチマキをして燻製器の前に座っている。みんなの為にベーコンを作っているようだ。桜チップを使ったベーコンが夕方には真由美の家にも届いた。厚みがあってパンには最高だった。

三郎さんは朝になるとパン屋にパンを買いにいく。美味しいコーヒーを幸子さんがいれて朝食にするという。


真由美が家を建てて暫くすると幸子さんが尋ねてきた。

「玄関に薔薇を植えてみたら」

そのまま薔薇店に二人で行きピンクの薔薇を買った。

薔薇の名前は「クレア・オースチン」

四季咲きで沢山の花が咲いてくれる。玄関がパアッと明るくなった。遠くからでも良く見える美しい薔薇は挿し木にして子供を沢山作った。お隣や友人、離れている母にも送った。色んな所でクレアを見ると嬉しくなる。


三郎さんは薔薇を育てるのも上手だ。ツル薔薇のフェンスを作ったり、素敵なアーチに巻かせたりとあっという間に庭はバラ園の様になった。GWを過ぎると多くの人が薔薇を見に来るようになった。


ガブリエルという薔薇がある。白色で儚げな花だ。何度か育てたが、育て方が難しくて直ぐに枯らしてしまう。そんな時三郎さんから挿し木で成功したガブリエルを頂いた。光合成が上手く出来なくて弱々しいが毎年咲いてくれる。真由美は貰った薔薇を大切に育てている。


三郎さんは真由美にとって薔薇の師匠だ。消毒や肥料のタイミング、薔薇の特徴等いつでも丁寧に教えてくれる。真由美の家も毎年少しずつ増えた薔薇が50種位になっていった。


家を建てて20年経った頃、コロナが流行り始めた。人との接触を避けるようマスクを着け、お茶も出来なくなった。そんな中三郎さんが体調を崩してしまった。熱が下がらないらしい。検査の為に入院した。「大丈夫だろうか?」真由美は心配していたが、退院後暫くして会った三郎さんは痩せていて元気がなかった。家の中から育てた薔薇を眺めているようだった。


初夏になる頃、三郎さんが急に旅立ってしまった。

人の命は限りがある、病気が見つかって良くなる人もいれば助からない人もいる。コロナ禍では医療現場も大変だった。コロナの検査して診察、発熱していれば隔離された。コロナ以外の患者は診察を控えるようになったという。救える命もあったのではと思うと残念に感じる。


三郎さんありがとうございます。

ガブリエルは今年も咲きました。





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