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お財布がないの

「ここにあったお財布しらない?」

真由美の祖母である和枝は最近よく物を無くす。

「知らないよ。ゆっくり探してみようよ」

「ない、ない」

「誰かとった?」

「俺、とってないよ」

いつも疑われてる真由美の弟浩一は即座に答えた。


和枝が70歳を超えた頃、少しずつ物忘れが出てきた。大体物が何処にあるのか忘れてしまう。お財布、通帳、保険証、鍵、等‥

「全部首にぶら下げとけば?」

浩一はたまに酷いことを言う。いつも自分が真っ先に疑われるのが癪にさわるのだろう。

浩一はいつも和枝から小遣いをせびっているので仕方のない事だった。真由美は既に働いているので殆んど疑われる事はなかった。


真由美は和枝と生活していて多少の物忘れは誰にでもあると感じていた。昨日食べた食事は思い出せても一週間前は無理な気がする。すべての人の顔や言葉も全部覚えていたら頭が疲れてしまう。認知機能の低下は自然な事なのしれないと。同じ事を何度も話すし、何度も聞かれる。忙しいとついつい「前に聞いた」と言ってしまうが、何度でも聞いて、何度でも答えてあげる優しさが必要なのだと思うようになった。


いつの頃からだろう?痴呆と言う言葉が使われなくなったのは。痴呆と聞くと何だか訳がわからなくてふらふらしているイメージがする。認知症と聞くと病気の一つでまだ治る可能性があるようなソフトな感触だ。


年老いて認知症になる人は多い。平均寿命が伸びると更に増えるのは間違いない。真由美は死への恐怖を薄める為に認知症になった方が幸せなのではと思っていた。しかしその家族を見ているとそうとは言いきれない。


伴侶が亡くなった寂しさから認知症を発症したり、原因がわからず50代でも症候が出る人もいる。最初は「早く良くなりたい」と話をするが、段々と会話が成り立たなくなる。昔のように2世帯が一緒に暮らしている家族は少なく、年老いた夫婦共認知症という場合も少なくない。


和枝には一人娘幸恵と三人の孫がいる。喧嘩しながらも面倒はみてくれている。幸せな事だ。母と娘は本音を言える間柄だ。姑と嫁は所詮他人、嫌なことを言えば角がたち、気まずくなる。娘だと後から修復可能だ。嫁は我慢して姑に従う。だから一緒に暮らす世帯が少なくなったように思う。


和枝は居間の肖像画をみて戦死した夫の顔と匂い、優しさを思い出していた。




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