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第6話: 「飯抜きの夜に夢見て!…俺の隻眼、強くなるぜ!」

「おいおいおい!飯抜きで腹減ったぞ!俺の隻眼、力出ねえじゃねえか!」


天正9年、米沢城(山形県米沢市)の広間。


初陣から数週間経ったある夜、伊達梵天丸が木刀を手にキレ気味に叫んでいた。


人取橋(福島県本宮市)の戦いで二本松勢を蹴散らした興奮が冷めやらぬ中、義姫に「今夜は飯抜き」と言われた罰で腹を鳴らしている。


広間の柱には木刀の傷が目立ち、家臣たちが遠巻きに「またか」と呟き合っていた。


近くで片倉小十郎が汗だくで手をバタバタさせる。苦労人の顔には疲れがにじんでいる。


「殿!義姫様の飯抜きは仕方ないですよ!初陣で足軽と斬り合った罰なんですから、少し我慢してください!」


「我慢?小十郎、腹減って俺の隻眼が弱ったらどうすんだ!天下への第一歩が止まるぞ!」


梵天丸はニヤリと笑い、木刀を振り回す。小十郎が「うわっ!」と飛び退き、「胃が……」と呻く。


「殿、小十郎の言う通りよ。義姫様が決めたんだから、少しは我慢しなさい。私だって応援してるんだから」


片倉喜多が穏やかな声で諫める。小十郎の姉は、梵天丸の肩を軽く叩いて落ち着かせようとする。


「喜多!応援なら飯持ってきてくれよ!腹減って俺の夢が小さくなるぞ!」


「夢は小さくならないよ。義姫様が許さないと飯は無理だから、我慢してね」


と、喜多がクスクス笑うと、梵天丸はムッとして木刀を柱に叩きつけた。


そこへ、時宗丸がドカドカと広間に飛び込んできた。幼い従兄弟は木刀を手にニヤニヤしている。


「殿、飯抜きだって!?俺は母ちゃんにバレてねえから飯食えたぜ!」


「時宗丸!お前、飯食ったなら俺に分けてくれよ!初陣の主役は俺なんだから!」


「何!?俺だって足軽斬ったんだぞ!飯は俺の分だ!」


「殿が主役です!時宗丸殿は飯を分ける前に考えてください!」


と小十郎がツッコむが、時宗丸は「うるさい!」と笑って木刀を振り回す


。柱に新たな傷が増え、小十郎が「胃が限界です……」と呻く。


その騒ぎを見ていた鬼庭左月が、馬から降りて渋い声をかける。


白髪交じりの老家臣だが、背筋はピンと伸び、槍を手に持っている。


「殿、時宗丸殿、飯抜きで騒ぐのもほどほどに。


初陣で足軽と斬り合った罰ですな。わしなら馬で我慢するが」


「左月じいちゃん、罰?俺の隻眼で足軽倒したのが何で罰なんだよ!」


「義姫様がそう言うなら罰ですな。わしも飯抜きなら馬で走って腹を紛らわす」


と左月が渋く笑うと、小源太が勢いよく飛び込んできた。


「殿!俺も飯抜きなら一緒に我慢するよ!初陣楽しかったから腹減っても平気だ!」


梵天丸と同い年の幼馴染、小源太は目をキラキラさせ、小さな木刀を手に持っている。


左月の息子だ。


「おお、小源太!お前なら分かるよな!俺とお前なら飯抜きでも最強だ!」


「小源太、お前は落ち着け!飯抜きで暴れるな!」


と左月が諫めるが、小源太は「殿と一緒なら腹減っても平気だ!」と木刀を振り回す。


その時、広間の奥から鋭い声が響いた。


「梵天丸!何!?まだ騒いでるのか!?」


義姫だ。梵天丸の母ちゃんが、ドスドスと足音を立てて現れる。


長い髪を結い上げた姿は威圧感たっぷりで、手には扇子を握り潰す勢いで持っている。


隣には竺丸がちょこちょこついてくる。


梵天丸の弟だ。


「母ちゃん!竺丸!飯抜きが納得いかねえんだよ!」


梵天丸が木刀を下ろすと、義姫が一気にまくし立てる。


「納得いかねえだと!?初陣で足軽と斬り合った罰だよ!大名の若殿がそんな下賤な真似をするなんて、あるまじき行為だ!今夜は飯抜きで頭冷やせ!」


「頭冷やす?母ちゃん、俺は初陣で勝ったんだぞ!足軽くらい斬って何が悪いんだ!」


「勝つなら頭使え!足軽と斬り合うなんて、伊達家の面汚しだ!品位を持て!」


義姫が扇子を振り上げると、梵天丸は「うるせえ!」と木刀を地面に叩きつけた。


竺丸がニコニコしながら言う。


「兄ちゃん、飯抜きでもカッコいいよ!俺、兄ちゃんの飯隠してあげるね!」


「竺丸!お前、いい奴だな!隠してくれよ!」


「梵天丸!竺丸を巻き込むな!竺丸、お前はそんなことするな!」


と義姫が一喝すると、竺丸は「はーい」と縮こまる。


小十郎が慌てて仲裁に入る。


「義姫様、殿は初陣で興奮してるだけです……胃が痛い俺が言うのも何ですけど、少し落ち着いてください!」

「小十郎、お前まで甘やかすな!この子は跡取りなんだぞ、足軽と斬り合うなんてありえん!」


喜多が穏やかにフォローする。


「義姫様、殿は元気でいい子ですよ。私が見てるから大丈夫です」


「喜多、お前は優しすぎる!この子はもっと厳しくしないとダメだ!」


時宗丸がニヤニヤしながら言う。


「母ちゃん、殿が飯抜きでも俺が飯食ってカバーするよ!足軽斬ったくらい平気だ!」


「時宗丸、お前も黙れ!お前まで足軽斬ってたら許さん!」


小源太が目を輝かせて叫ぶ。


「俺も殿と一緒に飯抜きだよ!初陣楽しかったから平気!」


「小源太、お前までか!左月、お前の息子だぞ、なんとかしろ!」と義姫が怒鳴ると、左月が渋く笑う。


「義姫様、小源太は元気なだけですな。わしも飯抜きなら馬で走って我慢しますよ」


「左月、お前までふざけるな!この家、どうなるんだ!」


騒ぎを見ていた輝宗が、広間に現れて笑顔で言う。


「義姫、梵天丸が元気で何よりだろ。飯抜きくらいで大目に見てやれ」


「輝宗!お前が甘やかすからこうなるんだ!足軽と斬り合うなんて、伊達家の恥だよ!」


「父ちゃん!母ちゃんがうるせえよ!俺は天下獲るんだから、飯抜きでも平気だ!」


「平気?お前、隻眼で天下獲るなら頭使え!足軽相手に暴れるなんて馬鹿のすることだ!」


義姫の毒舌に、梵天丸が「何!?」と立ち上がる。


輝宗が「まぁまぁ」と笑う中、小十郎が「胃が限界です……」と呻く。


その時、虎哉が飄々と現れ、静かに言う。


「梵天丸、飯抜きで欲が膨らんだな。執着は捨てなさい」


「虎哉じいちゃん、執着が俺の燃料だよ!母ちゃんに飯抜きにされても俺の夢はでかくなる!」


梵天丸が木刀を握り直すと、義姫が扇子を振り上げる。


「でかくなると!?梵天丸、明日も飯抜きだ!」


「うるせえ!」と梵天丸が叫び、時宗丸が「母ちゃん強いな」と笑い、小源太が「殿、頑張れ!」と応援す

る。


竺丸が「兄ちゃん、明日も飯抜きだね」と呟き、小十郎が「胃が……誰か助けて……」と嘆く。


騒ぎが収まると、梵天丸は広間の縁側に座り、月を見上げた。


腹がグーグーと鳴るが、隻眼で月を見つめる顔は真剣だ。


「なぁ、月。お前、飯抜きでも輝いてるぜ。俺も飯抜きでも天下獲るんだからな」


竺丸がそっと近づき、ちっちゃい声で言う。


「兄ちゃん、母ちゃん寝たら飯持ってくるよ。隠してあるから」


「竺丸!お前、最高だな!でも母ちゃんにバレたらまた怒られるぞ」


「バレなきゃいいよ!兄ちゃんの夢、でかくなるの楽しみだね」と竺丸が笑うと、梵天丸もニヤリと笑った。


遠くで小十郎が「胃が……」と呻き、喜多が「殿、頑張ってね」と微笑む中、物語の第六歩が、こうして静かに刻まれたのだ。


……とはいえ、飯抜きの夜は長そうだな、と梵天丸は思ったんだけどな!



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