第15話: 「父ちゃんと竺丸と飯!…俺の隻眼、家族で強くなるぜ!」
「おいおいおい!不動明王みたいに俺の隻眼、もっと強くなるぞ!」
天正9年、米沢城(山形県米沢市)の広間。初陣から数週間経ったある夕方、伊達梵天丸が木刀を手にキレ気味に叫んでいた。人取橋(福島県本宮市)の戦いで二本松勢を蹴散らし、立石寺(山形県山形市)で不動明王に憧れた興奮が冷めやらぬ中、広間で木刀を振り回している。柱には木刀の傷が目立ち、家臣たちが遠巻きに「またか」と呟き合っていた。
近くで片倉小十郎が汗だくで手をバタバタさせる。苦労人の顔には疲れがにじんでいる。
「殿!不動明王に憧れるのはいいですが、そんな大声で叫ばなくても分かりますよ!少し落ち着いてください!」
「落ち着く?小十郎、不動明王みたいに俺の隻眼が強くなるんだ!天下への夢がもっとでかくなるぞ!」
梵天丸はニヤリと笑い、木刀を振り回す。小十郎が「うわっ!」と飛び退き、「胃が……」と呻く。
「殿、小十郎の言う通りよ。不動明王に憧れたんだから、少しはゆっくりしなさい。私だって応援してるんだから」
片倉喜多が穏やかな声で諫める。小十郎の姉は、梵天丸の肩を軽く叩いて落ち着かせようとする。
「喜多!応援なら俺と勝負しろよ!不動明王見た俺の隻眼、負けねえぞ!」
「私は勝負より見守る方がいいよ。殿が元気ならそれで十分」と、喜多がクスクス笑うと、梵天丸はムッとして木刀を柱に叩きつけた。
そこへ、輝宗が広間に現れ、笑顔で言う。
「梵天丸、竺丸、飯の時間だぞ。父ちゃんと一緒に食おうぜ」
「父ちゃん!飯か!竺丸も一緒なら最高だ!俺の隻眼、家族で見せるぜ!」
梵天丸がニヤリと笑うと、竺丸がちょこちょこ走ってきて、ちっちゃい声で言う。
「兄ちゃん、父ちゃんと飯だね!俺、兄ちゃんの隻眼カッコいいから楽しみだよ!」
輝宗が穏やかに座り、飯を手に持つ。顔には息子たちへの愛情がにじんでいる。
「梵天丸、不動明王に憧れたんだろ。でかい夢持ってるのはいいが、家族と飯食うのも大事だぞ」
「父ちゃん、家族と飯なら俺の隻眼もっと強くなるぜ!不動明王みたいに天下獲るんだ!」
「お前が元気ならそれでいいさ。竺丸も一緒に飯食って、夢をでかくしろ」と輝宗が笑うと、梵天丸と竺丸が飯に手を伸ばした。
その時、時宗丸がドカドカと広間に飛び込んできた。幼い従兄弟は木刀を手にニヤニヤしている。
「殿、父ちゃんと飯だって!?俺も混ぜろよ!足軽斬った俺も強いぜ!」
「時宗丸!お前は俺の後ろでいいぜ!家族の飯は俺と竺丸が主役だ!」
「何!?俺だって足軽斬ったんだぞ!飯くらい食うぜ!」
「殿が主役です!時宗丸殿は突っ込む前に考えてください!」と小十郎がツッコむが、時宗丸は「うるさい!」と笑って木刀を振り回す。柱に新たな傷が増え、小十郎が「胃が限界です……」と呻く。
その騒ぎを見ていた鬼庭左月が、馬から降りて渋い声をかける。白髪交じりの老家臣だが、背筋はピンと伸び、槍を手に持っている。
「殿、時宗丸殿、家族の飯で騒ぐのもほどほどに。不動明王なら静かに食うでしょうな。わしなら馬で我慢するが」
「左月じいちゃん、不動明王みたいに強くなるんだ!飯食って俺の隻眼、もっと力出すぜ!」
「不動明王なら確かに強いですな。わしも飯食って馬で走る楽しみが増えます」と左月が渋く笑うと、小源太が勢いよく飛び込んできた。
「殿!俺も飯抜き我慢したから、家族の飯に混ぜてくれよ!」
梵天丸と同い年の幼馴染、小源太は目をキラキラさせ、小さな木刀を手に持っている。左月の息子だ。
「おお、小源太!お前も家族みてえだ!飯食って不動明王みたいに強くなるぞ!」
「小源太、お前は落ち着け!飯食う前に暴れるな!」と左月が諫めるが、小源太は「殿と一緒なら飯がもっと美味い!」と木刀を振り回す。
その時、広間の奥から鋭い声が響いた。
「梵天丸!竺丸!何!?また騒いでるのか!?」
義姫だ。梵天丸の母ちゃんが、ドスドスと足音を立てて現れる。長い髪を結い上げた姿は威圧感たっぷりで、手には扇子を握り潰す勢いで持っている。
「母ちゃん!俺、父ちゃんと竺丸と飯食ってるだけだぞ!」
梵天丸が木刀を下ろすと、義姫が一気にまくし立てる。
「飯だと!?お前が不動明王に憧れて騒いでるって聞いて飛んできたよ!大名の若殿がそんな下賤な真似をするなんて、あるまじき行為だ!」
「母ちゃん、下賤じゃねえよ!不動明王みたいに俺の隻眼で天下獲るんだ!家族で飯食うのも大事だろ!」
「家族だと!?足軽と斬り合い、竺丸と木刀で遊び回るのが家族か!品位を持て!」と義姫が扇子を振り上げるが、声は少し柔らかい。
竺丸がニコニコしながら言う。
「母ちゃん、兄ちゃんの隻眼、不動明王みたいでカッコいいよ!俺も飯食って強くなりたい!」
「竺丸、お前までか!梵天丸、弟を巻き込むな!」と義姫が一喝するが、輝宗が穏やかに言う。
「義姫、梵天丸と竺丸が飯食って元気なら、少しはいいだろ。お前も雉肉汁くれたんだし、家族大事だぞ」
「輝宗!お前が甘やかすからこうなるんだ!だが……家族なら、まあ少しは認めるさ」と義姫が目を逸らす。
「父ちゃん!母ちゃん、少し分かってくれたなら最高だ!俺の隻眼、不動明王みたいに家族で強くなるぜ!」
義姫が「強くなると!?梵天丸、調子に乗るなよ!」と扇子を振り上げ、梵天丸が「うるせえ!」と笑う。
小十郎が慌てて言う。
「義姫様、殿と竺丸殿が家族で飯なんて……胃が痛い俺が言うのも何ですけど、少し落ち着いてください!」
「小十郎、お前は胃のこと気にしてろ!この子が元気なら少しはいいが、品位は忘れるな!」
喜多が穏やかにフォローする。
「義姫様、殿と竺丸ちゃんが元気でいいですね。私も嬉しいですよ」
「喜多、お前は優しすぎる!厳しくしないとダメだ!」
時宗丸がニヤニヤしながら言う。
「母ちゃん、殿が家族で飯食っても俺がカバーするよ!足軽斬ったくらい平気だ!」
「時宗丸、お前も黙れ!お前まで足軽斬ってたら許さん!」
小源太が目を輝かせて叫ぶ。
「殿、不動明王みたいなら俺も家族だよ!飯一緒に食おうぜ!」
「小源太、お前までか!左月、お前の息子だぞ、なんとかしろ!」と義姫が怒鳴ると、左月が渋く笑う。
「義姫様、小源太は元気なだけですな。わしも家族なら馬で走って飯食いますよ」
「左月、お前までふざけるな!この家、どうなるんだ!」
騒ぎが収まると、梵天丸は竺丸と輝宗と一緒に縁側に座り、夕日を見上げた。隻眼で夕日を見つめる顔は少し静かだ。
「なぁ、竺丸、父ちゃん。不動明王みたいに強くなったら、俺とお前で天下獲れるぜ」
竺丸がニコニコしながら言う。
「兄ちゃん、不動明王みたいにカッコいいね。俺、兄ちゃんと父ちゃんと一緒に強くなるよ!」
輝宗が穏やかに笑う。
「梵天丸、竺丸、お前らが元気なら父ちゃんは嬉しいよ。夢をでかくしろ」
「父ちゃん、竺丸、最高だな。母ちゃんも少し分かってくれたなら、俺の隻眼、家族で強くなるぜ」と梵天丸がニヤリと笑うと、竺丸も笑った。
遠くで義姫が「品位だけは忘れるな」と呟き、喜多が「殿と竺丸ちゃん、良かったね」と微笑む。小十郎が「胃が……」と呻き、虎哉が飄々と現れる。
「梵天丸、家族で欲が膨らんだな。執着は捨てなさい」
「虎哉じいちゃん、執着が俺の燃料だよ!家族と飯食って、俺の隻眼もっと強くなるぜ!」
時宗丸が「母ちゃん強いな」と笑い、小源太が「殿、頑張れ!」と応援する中、物語の第十五歩が、こうして賑やかに刻まれたのだ。
……とはいえ、家族で強くなるのはいいよな、と梵天丸は思ったんだけどな!




