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第3話 機鋼神アダムドライオンを、俺は知っている

 金獅子の面をつけた鋼鉄の巨人が青色の宇宙人の攻撃から俺たちを守ってくれた……?

 こちら側に背を向けて光線に向けて右腕を突き出すのは装としか思えない。


「お(にい )! お兄! 今のうちにとっとと逃げよう!」


 茜が俺の手を引く。

 先ほどまでは現実感のない光景に全く持って他人事のようにふるまっていたが、こうやって攻撃をされるとさすがに危機感を持つ。


「とりあえず、お母さんたちと一緒に逃げないと」と言い家の中へ戻っていく茜に対して、俺は鋼鉄の巨人に目を奪われていた。


 ———オオオオオオオッ!


 右腕だけ巨大なアシンメトリーの姿をしていた。

 その金色の巨人は青の巨人へ向けて右腕の先端をかざすと、その拳がギュルギュルと回転し、青の巨人へと向けて発射される!


「ロケット……パンチ……」


 全然実用的じゃないそのロマン武器は、回転の力をくわえて青の巨人へ直撃する。

 そしてその衝撃で青の巨人を転倒させるまでは至るが、そいつはすぐに立ち上がった。


「お兄! お父さんとお母さん来たよ! 早く逃げよう!」

「あ……ああ……」


 俺の両親はいままで見たこともないような気弱な姿で茜に付き添われて玄関から出てきた。


「あれは一体何なんだ?」

「茜、遼真……あなたたち大丈夫?」

「ああ」

「これから一体どうなってしまうんだ……?」

「まぁ、なんとかなるでしょ……」


 父さんは巨人の破壊活動という現実を静止できないように目を伏せている。


「車で逃げたほうがいいんじゃない?」と、母さん。

「いや、渋滞に巻き込まれたら身動きが取れないぞ」と、父さん。

「だけどあんな巨大なものから徒歩で逃げるなんて! 逃げられるわけがないじゃない!」と、また母さん。

「車で逃げても一緒のことだろう!」と、また父さん。

「二人とも喧嘩しないで! もう行くよ!」


 不毛な言い争いを始めた二人を仲裁しようと茜が声を上げるが、俺はそちらを全く見ずにひたすら巨人たちの戦いを見つめていた。


 格闘戦だ。


 金色の巨人が殴ると、青の巨人が光線で応戦する。

 そうやって周囲の街は巻き込まれて破壊されていく。

 どちらかの巨人が走るたびに、まるで砂場で作った砂のお城のように建物は粉砕され、二体が交錯するたびに地響きがこちらまで届く。

 ビリビリと揺れる地面を感じるたびに恐怖を覚える。


 神々の戦い。


 二体の巨人の戦いはそう呼ぶにふさわしいと感じた。

 だが、それもやがて———、


「あれ……金色の方が負けてないか?」

「え? 何? お兄?」


 俺達を守ってくれた金色の方が押されているように見える。

 最初は青の方を一方的に殴り、優勢だったが、徐々に青の方が金色の方の隙をついて攻撃をするようになっていく。

 大振りで金色が殴りかかると、その拳が到達する前に脇腹に当たる部分を青が抉るように殴る。蹴ろうとすると、それを青の方が余裕で躱して、逆に金色の足を持ちあげてそのまま関節技を決めて地面に倒れ伏せさせる。

 体のフットワークの軽さ、動きのダイナミックさは青の方があった。


「動きが、鈍い……」


 金色の方は明らかにぎこちない、ゆっくりとした挙動をしていた。

 まるで、全身に重りをつけているかのように。

 このままでは……。


『リョウマ……リョウマ……』


 ………………。


「妹よ。今俺のこと呼び捨てにしたか?」

「してないよ。いきなり何お兄。器の小さいこと言ってないで避難するって言ってるでしょ?」

「俺のことを器が小さいと言ったか?」

「言ってないよお兄」


 いや、絶対に言った。


 だけど、今確かに誰かが俺のことを呼んでいた。

 しかも女の子の声だった。


「誰だ……今、俺を呼び捨てにしたのは……」

「器が小さい独り言を言ってないで、避難するよってこれ何回言わせんの?」


 ああ、そうだな、もういい加減どこかあてもないけれども逃げないとと思った瞬間だった————。


「気を付けろ!」


 父さんが叫んだ。


「え—————?」


 ドオオオオオンッッッ!


 目の前に金色の巨人が振ってきた。


「きゃああああああああああああ‼」


 茜が悲鳴を上げる。

 砂埃と瓦礫が舞い上がる。

 金色の巨人が俺の隣とそのまた隣とはす向かいの家とその他もろもろの家を破壊して大地の上に仰向けに倒れ伏していた。

 あの青の巨人に吹き飛ばされたのだ。


「大丈夫か⁉ 遼真、茜⁉」

「うん……お父さん。私は平気……お兄は?」

「おい、遼真! 大丈夫なんだよな?」

「…………」

「返事をせんかあ!」


 できなかった。

 する気も起きなかった。

 何故なら———、


『リョウマ……リョウマ……』


 見知らぬ声に導かれ、視線が金色の巨人の腹部に釘付けになっていたからだ。

 そこはハッチのようになっており、プシューッと音を立てて開閉していた。

 中へ、恐らくコックピットへとつながる扉が、開閉していた。


「………ッ!」


 衝動的に俺は金色の巨人の腹部へと向かって行った。

 そこにあるコックピットらしき場所へと———。

 父さんの制止する声も聞かずに————。


『リョウマ……リョウマ……』


 頭の中で呼ぶ声に従いながら———。


「誰だ⁉ 俺を呼び捨てにしている奴は⁉」


 開かれた腹部ハッチの中を覗き込む。

 そこは確かにコックピットらしかった。

 左右に操作レバーのようなものが付いた座席と、足元付近にはフットペダル。そして左右の壁にはモニターが付いており、周囲の光景を映し出していた。

 そして———その座席の奥には異様なものがあった。


『リョウマ……来てくれた……』


 裸の少女が(はりつけ)にされていた。

 赤い液体が満ちているカプセルに裸の美少女が入れられ、俺を見つめている。


「……知り合いかとおもったが……マジで誰?」


 十四歳ぐらいの金髪の美少女だった。

 あんな知り合い、この中学時代の俺にはいない。外国人の知り合いなんて存在しない。

 だけど彼女は俺の名を呼んでいた。

 それに————、


『リョウマ……戦って……私に乗って……このアダムドライオンに乗って、あいつを、(イマージュ)を倒して……』


 ———俺は、この場所を知っていた。

 少女に導かれるままにコックピットの座席に座る。


 ザ—————————————————————————————………ッ‼


 瞬間、頭の中にノイズの嵐が吹き荒れた。

 記憶が……記憶が書き込まれている感覚がする……!


「……イリカ?」


 おそらく、それは少女の名前だ。

 振り返ると、名を呼ばれたイリカがニコリと微笑んだ。


『倒して、私を使って……イマージュを……』


 レバーを握る。

 何だか、しっくりくる……。


「アダム……ドライオン……!」


 金色の巨人の名前を呼ぶ。


 —————オオオオオオオッ!


 応えるように、巨人は吠えた……………。


 そして—————、


 ◆


『ニュースをお伝えします。本日、午後八時ちょうどにM県鷹森町に巨大な巨人が二体出現し、争うという事件が発生しました。

 現在ご覧いただいている映像には頭部を破壊された青い巨人の遺体と言ってもよい残された胴体部分が映し出されています。この青い巨人は突如としてM県鷹森町の中心部に出現し、破壊活動をしていたところ、もう一体の金色の巨人に頭部を破壊されて機能を停止したとのことです。

 この青い巨人を破壊した金色の巨人はその後、突如として煙のように消えてしまったということです。

 このまるで特撮ヒーロー番組か何かのような事件は本日実際にあったことで、警察は事態の収拾、破壊された家屋などの被害の把握に努めています。被害は現時点で死者3名、行方不明者46名とのことです。

 青い巨人を倒した金色の巨人は頭部が獅子のような顔をしており、さながら正義のヒーローのように見えたとのことです。

 金色の巨人は人類の味方なのでしょうか? それとも、ただ単純に我々は異星人たちの戦いに巻き込まれてしまったのでしょうか?


 それでは次のニュースです。東京の上野動物園のパンダが子供を……!』


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