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第1話 佐野遼真35歳、中2に戻る

「———ん?」


 目が覚めると見知った天井があった。


 ジリリリリリリッ‼


 けたたましいベルの音を炸裂させる目覚まし時計。

 その上にあるボタンを押して止める。


「え? こんなの使ってたっけ? ……今何時だ⁉」


 時計を見ると朝の七時半……。

 跳ね起きる。


「会社に遅刻する!」


 いつもは六時に起きて、それからシャワーを浴びて準備をして、スーツに着替えて出社をする。

 それが俺、佐野遼真(さのりょうま)35歳の生活だった。

 システムエンジニアとして毎日出社し、毎日残業をして帰る。

 そんな生活を毎日していた俺の———、


「あれ……? スーツがなんか違う……」


 部屋の壁にぶら下がっているのは真っ黒な詰襟の服———学ランだ。


「これって俺の中学の時の制服……?」


 あれ? と思った。

 鏡を見る。


「若返っている!」


 中学生の顔だ。

 中学の頃の俺の顔だ。


「え⁉ え⁉ どういうことだ? 何があった? 会社は? つーか今更だけどここって実家じゃねぇか!」


 ここを出て現在はアパートで独り暮らしをしていたはずだが……カレンダーを見る。


 2004年7月———。


「嘘……だろ……?」


 時計を見る。

 俺の部屋には目覚まし時計の他には壁掛け時計も備え付けてあり、それにはデジタル表示で年月日が表示されている。

 電波を受信するタイプで、常に時計がずれないようにしているタイプで、それの表示は人工衛星から送られてくる情報を元にしているので、世界の今の年月時間を表示してくれるはずだ————。


「2004年7月1日……7時32分……」


 過去だ。

 過去の時間を表示している。


「なんでだ? 今年は2025年のはずだ。どうして20年以上も巻き戻って———中2の頃に……?」


 夢か、と思ってほっぺたを(つね)る。


「痛い。夢じゃない……」


 我ながらべたなことをしてしまった。


「いやでも痛いからと言ってこれが夢じゃないとは限らないし、夢でも痛い可能性はあるもしかしたら!」

「お(にい)! 入るよ!」


 バンッと突然扉が開け放たれて、ボブカットの少女が入って来る。


「いつまで寝てんの! がっこー遅れちゃうよ!」


 ぶかぶかのセーラー服を着ている少女は俺の妹の佐野(あかね)だ。

 今は富豪の男と結婚して子供もいる、一歳年上の俺と違って勝ち組になった彼女が、中学生の頃の若々しい姿で俺の目の前に立っていた。


「お前……茜……その恰好どうした? イメクラにでも勤め始めたのか?」

「はぁ? 何言ってんの? お(にい)キモいんだけど?」

「お(にい)って呼び方も懐かしいな! お前中学のころは〝お兄ちゃん〟の「ちゃん」を呼ぶのが子供っぽくって恥ずかしいから〝お(にい)〟って呼ぶようになったんだったな! でも今考えるとその呼び方もなんだか舌足らずっぽくて子供っぽ、」 


 ガスっ……!


 言い終わる前に腹に拳が刺さる。


「バカなこと言ってないで……! とっととパジャマ着替えて朝ごはん食べろって言ってんの!」

「暴力系ヒロイン……!」


 今時腹パンするヒロイン何て流行んねぇぞ……と突っ込みを入れたかったが、その今時と言うのが、いつを指すのかがわからない。

 今か? それとも———今から未来か?


 ◆


「おはよう遼真。今日はちょっと遅かったわね」

「おはよう遼真。制服が少し乱れているぞ。男らしくちゃんとしろ」


 母さん……父さん……。

 制服に着替えて階段を降りるとそこには見慣れた両親の姿があった。

 エプロンをつけて皿を拭いている白髪が全然ない母と、まだ(がん)で亡くなっていない父が新聞を広げてそこにいた。

 母とは就職してからしばらく話していないし、父とは普通に死に別れたので当然話していない。そんな二人の声を聴くと非常に懐かしい気持ちになり、感動的な気持ちになったが、涙は流せない。

 いきなり泣き出したら変な目で見られる。

 ぐっと涙をこらえて、俺は用意されているフレンチトーストに口をつける。

 母さんが作る味だ……。


「どうしたんだ遼真。今日は随分とのんびりしているな。遅刻してしまうぞ」

「父さん。俺さ。未来から来たんだって言ったら信じる?」

「どうしたんだ? 急に」

「わからない。だけど、俺はもうとっくに大人で今の父さんぐらいの歳の男だったはずなんだ。それなのに今朝起きて見たらこの中学生の姿で……これは夢なのかな? それとも、あっちが夢だったのかな?」

「……さあな。俺にはお前の問いかけの意味はよくわからないが、もしも本当に未来からお前が過去に戻って来たっていうのなら、何かやるべきことがあるんじゃないか?」

「やるべきこと?」


 父を見ると、彼は優しい目をしていた。


「ああ、例えば———やり直すとか」

「やり直す……か」


 そうだ。

 俺は中学までは順調だったが高校になるとふとしたことがきっかけで学校をサボってしまい、それから学校に行く気力がなくなってダラダラと過ごして大学にも進学せずに怠惰に過ごしていた。その結果ろくな就職先に就くことができずにブラック企業に勤め、転職しても転職しても、ブラック企業を転々とする有様。

 学生時代に勉強しておけばとどんなに想った事か……。


「そうか、やり直すのか……これは神様が俺に与えてくれた幸せな人生を掴むやり直しのチャンスだって言う事か!」

「よくわからんがそうなんじゃないのか?」

「ありがとう父さん」

「うん。何もしていないぞ。本当に俺は何もしてない」

「お(にい)! もう食べ終わったでしょ⁉ 学校行くよ! ち~こ~く~す~る~!」


 廊下から茜が俺を急かす。

 話しながらフレンチトーストを食べ終えていた俺は立ち上がり、


「ああ! 今行く! それじゃあ父さん、母さん、行ってきます!」

「「行ってらっしゃい」」


 そうして俺は茜と共に玄関を出て、学校へと向かう。

 そうだ。やり直すんだ。

 俺の人生はどうしようもなかったけれども普通だった。普通に落ちぶれて普通に苦しんでいた日々。

 どうしてああなってしまったのかは、俺が挑戦しなかったからだ。

 何も、しようとしなかったからだ。

 勇気をもって生きなかったからだ。

 今回は違う。

 俺はやりたいことをやって自分の人生をやり直す。

 学校にも行くし、恋人も作って今度こそ幸せな人生を手に入れるんだ———!


 ガチャ……!


「よし、人生をやり直すぞ!」


 気合を入れて玄関の扉をあけ放った瞬間だった。


 ド——————————————————————————ン!


 爆発音に似た地響きが俺を襲った。

 何だ? と、思った。


「お兄……あれ……何?」


 茜が指さす先にいた(・・)のは東京タワーほどの大きさを持つ青い巨人の姿だった。


「あれって……宇宙人?」


 青い巨人は俺の見慣れた街並みの中にたたずんでいた。


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