第三話
第三話
カナタがネロと出会い、目指すべき道を見つけてから五年が過ぎた。
無気力でプラントのガラスの前で座っていた少年は、人が変わったように勉強し、周囲を驚かせた。意識が変わると周囲の人間の見る目も変わってくることにカナタは気が付いた。人との付き合い方を学び、周囲に認められる人物になる。そうすることでカナタの念願は叶えられるのだ、とカナタ自身強く痛感するようになっていった。
自分を変えたいカナタにはお手本となるべき存在が必要だった。それがネロだったのだ。
カナタが変人扱いされている頃はプラントの前で話していた二人だったが、カナタの成長に合わせて、二人でつるむことが多くなっていった。そして周囲の人々は天才二人ともてはやすようになっていった。
「いよいよ念願の試験だ」
カナタはこうした様子でネロに話す。
調査員になるには厳しい試験が課せられる。二十歳になるまでのこの五年カナタはほかのものを犠牲にして準備をしてきた。それもすべて外の世界に行きたいという幼いころからの夢を叶えるためだ。
「ネロも受けるんだろう。一緒に外の世界に行けるのが楽しみだな」
感情を抑えきれない様子で聞く。
しかしネロの答えはカナタが考えているものとは違うものだった。
「僕は受けないよ」
カナタは衝撃のあまり思考が止まってしまう。自分と同じ考えを持っていると思っていた友人が放った言葉はカナタにとって信じがたいものだった。
「なんで・・・」
ネロは
「僕にはやるべきことがあるからだ。まだこの中でね」
とカナタの目をまっすぐに見て言った。
カナタはその深い緑の目を見て意識を落ち着かせた。確かに自分の夢は語ったことはある。しかし、ネロからやりたいことを聞いた覚えがないのだ。
「やるべきことって?」
カナタは恐る恐る聞く、しかしネロは首を横に振りながら、
「君には教えられない。特に地上に出ようとしている君には」
といった。
そこにはネロの明確な意思があった。カナタはその気迫に押されそうになりながらも、疑問を押さえることができなかった。
「じゃあ、ネロは何になるんだ・・・?」
「それも知らないほうがいい、僕たちの友人関係を終わらせたくなければ」
冷たく言い放ったネロの顔を見ても、カナタは次の言葉を発することはできなかった。
そうしてどこかギクシャクしたまま二人は別れ帰路に着く。