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第二話

第二話

カナタが住んでいる地下シェルターは地下深くに作られている。そこでは水が循環しており、野菜なども水耕栽培がおこなわれている。カナタはその水耕栽培された植物を眺めながらかつて見た風景を思い描き、一層期待を募らせていた。

「またここにいたんだね、君も物好きだ」

一人の少年がカナタに声をかけた。

カナタは振り向いて

「好きなものを見ていて何がいけないんだ、ネロ」と反論する。

ネロはカナタとは違う地区で生まれ育ったが、両親の仕事の関係でこの東京地区に移り住んできた。同世代の子供となかなかうまく関係を築くことができなかったカナタだったが、ネロとは話すことができた。

彼は不思議なオーラを持つ少年だった。この地下では地上に興味を持つカナタは変人扱いされていた。人々は今の平穏な暮らしを辞めてまで汚染されている地上に行こうという意志がなかったからである。同世代の子供たちもカナタが外の話をするとまるでタブーに触れるように去っていくのだった。

しかし、ネロは違った。一人植物を見ていたカナタに声をかけてきた。

「この町はくるってる。君も、僕も」と

カナタはそのネロの言葉を聞いてどこかで安堵した。

――ああ、自分だけが変なのではない――と

それから、カナタとネロの二人はよくつるむようになった。

ネロは表向きは非常に優秀な人間だった。思慮分別があり、大人からも、子供からも一目置かれる存在になっていた。

ネロの日常はカナタとは全く違うものだった。ネロの周りには常に人があふれ、カナタの周りには人はいない。

そんな対極の二人が話すのがこの水耕栽培のプラント前だった。

「そろそろ収穫の時期かな」

とネロはカナタに話しかける。

「収穫は昨日だよ。目の前のものは昨日からのやつ」

ネロは大きな目をさらに大きくしながら

「ここの地域のプラント技術は世界的に見ても優秀だね」

と少し興奮気味に話す。

「前いたところは食料はどうしてたの」とカナタが聞くと、

「人工肉とか、バイオ食料とかは変わらないさ」

「ただここにきて新鮮な野菜というものがあることに驚いたね」

「なぜこんなに素晴らしい技術があって世界に広まってないんだろう」とネロは考え出す。カナタは

「ネロの両親はそれを視察に来たんだろう」と問いかける。

ネロの両親は「産業技術開発部」という国の機関の調査委員として東海地区から派遣されてきた。ネロもその両親と一緒にこのシェルターにやってきたのだ。

カナタがネロと話すようになってすぐ、カナタは外の世界についてネロに尋ねたことがある。

――シェルターを移るときに外の様子は見たか――

と。しかし、ネロの答えはカナタを満足させるものではなかった。

「それぞれのシェルターの地上への露出部分は汚染物質が入り込まないように厳重に閉じられていて外の景色は見えないよ」

その言葉を聞いてカナタは肩を落としたのだった。

外から来た人間であれば様子が聞けるかもしれないという甘い考えを裏切られることになったカナタだったが次のネロの言葉によって期待することになる。

「最も、調査委員の調査部隊は外に出ていくこともあるようだけれど」

そのネロの言葉を聞いたとき、カナタは胸がすっと軽くなった気がした。

――自分が目指すべき道はこれなんだ――

それは地上にあこがれた少年の心を動かすのに十分すぎる光だった。


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