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口論

 テントの中に集まった三人衆。

 つまり、俺と福来と翠玉は目の前に広げられた地図を見ながら、これからの動きについて話し合っていた。


「得ている情報によると、南帽には6000程の政府軍が駐屯しているようですな」

「私たちの3倍ね……」

「でも、なんでそれだけの数がいて、こっちに攻めてこないんだ?」


 反乱軍を長い間自由にさせておくというのは明らかに得策ではないはずなんだけど。

 言ってしまえば、この間の盆地での戦いでこちら側の指揮官を討ち取るほどの勝利を収めたんだったら、その勢いのまま攻め込んできてもおかしくはなかった。


「それには向こうの事情によるものでしょうな」

「向こうの事情って?」

「鎮圧軍の総指揮官は趙文という名の者。戦による実績は無いが、大方実績作りのために派遣されたのは明白」

「政府の上の人に親戚がいるとかそういうこと?」

「うむ。趙文は大司馬である趙貴の甥。『反乱軍を鎮圧した』という事実さえあれば次の大司馬に任命するのは容易なことですな」


 ちなみに、大司馬というのはかつて漢の時代に存在した役職であり、非常置ではあるが、軍の最高職だ。

 つまり、趙一族で大司馬の世襲を狙っているということか。

 将来的には政府の重要職を一族で埋め尽くすなんて、平安時代の藤原氏みたいなことも考えてそうだな。


「福来から見たら、趙文はどんな感じ?」

「一言で言い表すならば、傲慢じゃな。人の話には耳を貸そうとせず、常に自分のみが正しいと思い込んでいる愚か者ですな」

「なるほど……」


 そんな人物ならば、きっと副官とですら、まともに話し合いをすることができていないのだろう。

 いくら数が多いとは言っても、意思疎通ができていなければ、軍としては非常に脆弱である。


「勝負を仕掛けるなら、ここの開けた場所だな」


 俺は地図のある地点を指さした。

 そこは俺たちが今いる場所から南帽に向かう道の途中にある少し平野になっているらしい。

 ただ、平野とは言っても、小高い丘が二つある。

 そう地図には描かれていた。


「え!? 本当にこんなところで戦うの? 数の多い相手と戦うなら、狭いところで戦うのが普通よ?」

「うむ。翠玉の言う通り、そのような広いところでは簡単に包囲され、殲滅されてしまいますぞ」


 翠玉はともかく、福来ですら少し動揺しているように見える。

 しかし、俺はこれでも中学生の頃から日本史に出てくる戦を研究し続けてきたのだ。

 合戦の地形に基づく布陣の意味や、当時の指揮官が何故その戦略を選択したのか、そして、勝敗を分けた要因はなんだったのか。

 俺に実戦経験なんてものは無い。

 それでも、この兵力差を覆せる自信があった。


「こっちは2000、向こうは6000。全然戦えないような兵力差では無いはず」

「……蒼殿は本気で4000の兵力差を覆して勝てるとお思いかな? しかも、相手は戦を生業としている集団ですぞ」

「じゃあ福来は最初から勝てないと思ってこの反乱軍に入ってきたってこと?」


 それを聞いた福来の様子が明らかに変わった。

 おそらくだが、キレている。


「私はこれでも若年の頃から兵法を学び、実際に兵を動かし幾度と合戦で勝利を収めて参りました。ですから、蒼殿がどのような作戦を考えておられるのかは知りませんが、このままでは此度の戦で全滅するでしょうな」


 捲し立てる訳ではなく、ゆっくりと静かな口調で話す福来の言葉の端々には角がたっていた。

 俺がなんて言おうか考えていると、福来はさらに続ける。


「私は軍師の座を奪われてから何もせず、ただ最期の時を待つだけのはずでした。しかし、ここにいる翠玉のおかげで残り僅かなこの命の使い道を見つけたのです。二人で地方政治の実態を知り、仇討ちも兼ねて反乱に参加しようと決めたのが二週間ほど前のこと。我々は人生をかけているのです。その点、蒼殿は気が楽でしょうなぁ」

「福来!」


 翠玉が咎めるが、福来は全く意に介していない。

 完全に暴走状態になっているな。

 元はと言えば俺のせいだ。

 俺の作戦を聞こうとせずに鼻から否定してくる福来にイラッとして感情に任せて発言をしてしまった。

 でも、「気が楽でしょうなぁ」という言葉だけは許せない。


「……福来。俺だって命かけてるんだよ。反乱軍のリーダーになるってことは、その分命を狙われることも多くなるってことは理解してなったつもり。前の世界では何も出来ないままに死んだけど、この世界では絶対に達成したい一つの目標のために生きるって決めたんだ」


 そう話し始めると、急な俺の反撃に翠玉も福来も虚をつかれたような反応をする。


「…………目標とは?」

「翠玉の親父さんの仇討ちだよ」

「なっ……!?」


 この返答までは福来も全くの想定外だったらしい。

 目に見えて狼狽していた。


「それに、俺はここにしか居場所がないからさ。唯一の仲間と居場所を守るためにも命かけて戦うつもりだよ」

「………………すいませんでした」


 福来が頭を下げた。

 とはいえ、俺にも落ち度はある。

 直ぐに福来の肩を叩いて頭をあげるように言う。


「俺たちは同じ目標があるんだし、ちゃんと力合わせていこうよ。それに、趙文と同じような奴にならないように、ちゃんと互いの話は聞くようにしよう」

「御意。此度の軽率な発言をどうかお許しください」

「いや、俺も悪かったし……それよりも、やっぱりその敬語はやめよう。御意とかはまだ分かるけど、もう少し自然に話してくれるとありがたいな」

「……御意」


 翠玉はというと、俺と福来の喧嘩が無事収まったことにホッとしたような表情を浮かべている。

 俺も、反乱軍のリーダーになって早々に仲間割れをする訳にもいかなかったから、何とか仲直り出来て本当に良かったと思う。

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