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道端会議

「……きて……起きて」

「んあ?」


 目を覚ますと、知らない黒髪美少女が立っていた件。

 違う違う。

 昨日の夜、翠玉と一緒のベッドで寝たんだった。


「おはよう」

「うん、おはよう」

「福来が起きたら来るようにって言ってたから、落ち着いたら行ってきてあげて」


 俺が福来に頼んでいた任務がもう完了したのだろうか。

 とりあえず行ってみないことには分からないから、少ししたら福来のところにでも行くか。

 

「そういえば、朝ごはんとかってどうしてるの?」

「お米の備蓄もあるし、近くに川があって魚も取れるから、基本的にはみんなそれを食べるわ」

「なるほど……」


 そこら辺の備蓄状況によっては軍事的な行動の方向も変わってくるだろうな。

 それに――――


「朝からだいぶ賑やかというか、活発に動くんだね」

「そりゃそうだよ。いつまた来るか分からない鎮圧軍に対抗するために罠を作ったり、鍛錬しなきゃいけないから」

 

 翠玉の説明を聞きながらテントの外に出てみる。

 ちょうどその時目の前を通りかかった、俺よりも年上に見える人が俺に「おはようございます」と会釈付きの挨拶をしてくる。


「うん。おはよう」


 この人もそうだが、ここまで多くの人が反乱軍に参加しているということは、よっぽど政治が腐敗していたということだろうか。

 中央が腐っていたのは昨日聞いた話の通りだと思うが、地方の統治体制がどうなっていたのかも誰かから聞かなければいけない。

 そんなことにも考えを巡らしていると、今度は見覚えのある人物がやってきた。


「おはようございます、蒼殿」

「おはよう、福来」


 この白髪で白ひげを長く伸ばしたご老人は鄧 福来。

 かつて政府軍の軍師をしていたらしく、政府のいざこざに巻き込まれた結果、こうして反乱軍に身を投じることになってしまった人。

 今は黙って俺の後ろについている翠玉と、この福来が俺にとってこの世界で最も頼れる人たちだ。


「昨日仰せつかったことは大方まとめあげました」

「蒼? 何を福来に頼んでいたの?」

「俺は昨日この反乱軍に合流したばかりで何も分からないからさ、この軍の食料調達と貯蓄状況や武器などの数、この国の全体地図と今俺たちがいる地域の地図をまとめてもらってたんだ」

「げ……そんな量を福来はもう片付けちゃったの?」


 明らかに引いている声で改めて福来に尋ねる翠玉。

 福来はそれに対して少し誇らしげな様子で「はっはっはっ」という笑いだけを返した。


「そして、これがそれらを記したものでございます」

「ありがとう、福来」


 合計で10枚ほどの紙には俺が指示したものの中でもさらに細部について書かれてあった。

 例えば、食料でもどのような物がどれほどあるか、どのくらい調達の目処が立っているかなど、細かくまとめられている。

 これを見れば福来がどれほど優れた人間であるかなど一目瞭然で、これからどんどん頼っていこうと俺が決めた瞬間だった。

 一方で、ペラペラと目を通しているうちに目が飛び出るような情報が記されている紙を発見してしまった。


「この地図……」

「蒼殿どうなされましたか? 何かお気に召さないことでもありましたかな?」

「いや、そんなことは全くない。逆に満足すぎるくらいなんだけど、そうじゃなくて……」

「どうしたのよ? 私たちにはハッキリ言いなさいよ」

「…………この国は俺が昔住んでいた世界にあった国と全く同じ形なんだ」


 その国というのは、中国である。

 福来の描いた地図では西と北の国境が分からないが、東の海岸の曲線が完全に一致していた。


「この赤マルは?」

「それは我々の現在地でございます」


 つまり、中国で言うところの南昌よりも南に下りていったところにいるということだ。


「蒼はその国に行ったことあるの?」

「行ったことはないんだよなぁ。行きたいって思っているうちにここに来ちゃったし」

「それじゃあ、あんまり意味ないね」

「そうなんだよね」


 そこで、福来が何かを思い出した様子で口を開く。


「今更じゃが、蒼殿は文字を読めるのですな」

「どういうこと? 蒼をバカにしてるの?」


 少しイラッとしてるような翠玉の声色。

 しかし、福来はその翠玉の追及を完全に否定した。

 

「そういうことでは無い。蒼殿は違う世界から来たにも関わらず、同じ言葉を喋り、文字を読むこともできておるのじゃ。文字や言葉を教えなければいけない可能性があったことを考慮すれば、これは非常に都合の良い事だとは思わんか?」

「む……確かに」


 福来の言っていることは正しかった。

 仮に言葉が通じなかったとしたら、こうして福来や翠玉と話しているということは無かっただろう。

 しかも、翠玉に関しては心を開いてくれるなんてことはなかったように思える。


「とまあ……そんなことよりも話を戻しましょうかのう」

「そうだな。食料自体は周囲の協力的な農村から手に入れることができているから、ここはクリア。武器に関しては、意外に数は揃っているし、馬も二百匹いるんだったら、かなり戦略の幅も広がりそう」


 一応反乱軍ではあるため、もう少し厳しい状況を覚悟していたが、割と充実していて驚かされる。

 これも福来のおかげかもしれない。

 そんな福来が次の提案をしてくる。

 

「そうですな。次に当分の目標を定めなければなりませんな。闇雲に首都を目指すというのは愚策でありますゆえ」

「出来れば、早めに近くの大都市を陥落させたい。もちろん守備は固いと思うけど、一つでも都市を落とすことが出来れば、優勢になるのは俺たちの方だ」

「そりゃ私たちの方が優勢に近づくのは分かるけど、そんなに断言出来るほど変わるの?」


 納得できていない様子の翠玉。

 確かに都市の数や規模の大きさで言えば、圧倒的に中央政府の方が上である。

 しかし、「都市を反乱軍に落とされた」というのがここでは非常に重要になってくる。

 そもそも反乱軍に対して圧倒的優勢であるはずの政府軍が反乱軍に敗北して都市までもを失う。

 これが全国に広まれば、俺たちのような反乱が各地で起こるかもしれない。

 そうすれば、マイノリティーだったはずの俺たちはマジョリティーになれるという考えだ。


「なるほどね……理解したわ」

「そうなってくると、最も落としやすいのは南帽ですな」


 そう言って中国で言うところの南昌の位置に丸印を付ける福来。


「でも、南帽まで行くには中央政府軍と必ず戦わねければいけない……ってことか」

「そういうことになりますな。前の紛争しかり、我々は戦うために立ち上がったのですぞ」

「それじゃあ、今から天幕の中で作戦会議を始めましょう?」


 俺と福来は翠玉の提案に頷き、三人で俺のテントの中に入り、机に地図を広げる。

 こうして、俺のテントの中が反乱軍作戦本部となった。

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