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反乱軍

 鬱蒼と広がる森の中を槍の柄のような部分で背中を押されながら歩き続けて数十分は経っただろうか。

 車に轢かれたと思ったら、月が二つもあるよくわかない異世界に飛ばされて、挙句の果てには捕虜になってしまうとは誰が想像しただろうか。


「政府軍の斥候か?」

「おそらくは……しかし、こんな妙な格好で偵察に行かせる意味が分からない」


 小声ながらも、断片的に聞こえてくる男たちの会話。

 会話内容的に政府に反抗している集団なのではないかと予想する。

 もし、そうだとすれば、とんでもないところに迷い込んでしまったことになる。


「あの……俺は本当に――」

「黙れ」


 背中を強く突かれて前のめりに倒れそうになるが、何とか踏ん張る。

 話し合いでは解決出来そうになかった。

 周囲を警戒しながら歩く男たちと行動を共にし始めてからずっと足を動かし続けているため、疲労と空腹によって足の感覚が無くなりかけている。

 その上、この先どうなるか全く見通すことができないことへの不安が俺の精神をすり減らす。


 前を歩いていた男が突然立ち止まったのはその時だった。


「到着だ」


 それまでずっと森が続いていた中に明らかに人工的に切り開かれたであろう空き地が現れる。

 そこには幾つかのテントが立ち並び、煙が立ち上っている。

 どうやら、ここが反乱軍のキャンプ地らしい。

 俺たちが近づくと、キャンプにいた人々が一斉にこちらを見た。

 その視線の中には警戒の心はあれど、歓迎に似た感情は含まれていなかった。

 当然か……。

 今の俺は誰がどう見ても捕虜として連れてこられた奇妙な服を着た人間なのだから。


「捕虜を連れてきたぞ!」


 俺たちを先導していた男がそう叫ぶと、一人の老人が近づいてきた。


「これは……」


 老人は俺をじっと見つめてくる。

 その目は鋭く、ずっと見られていると、心の奥底まで見透かされてしまうのような。

 そんな感じがした。


「見たことのない服じゃな。お前は本当に政府の人間か? どこの国の者じゃ?」

「あの……俺は日本から来たんです」

「にほん? ふむ、そんな国は聞いたこともないが……」


 老人はそう言って眉をひそめた。

 もしかしたらと思って言ってみたが、これは同じような境遇の人間が前にいなかったということでいいのだろうか。


「俺は……転生者なんです」


 不意に口をついて出てしまった言葉。

 厳密には転移だとは思うが、細かいことはこの際問題では無い。

 つい自分の保身に走ってしまったが、俺の発言を聞いた反政府集団の面々の反応は意外なものだった。


「転生者だと!?」

「まさか……」

「あの予言に出てた神の使いじゃないのか!?」


 ざわめきは水面の波のように広がっていく。

 老人はこのままだと収拾がつかなくなると判断したのか、両手を上げることで皆を静めた。


「若い御仁よ。転生者とはどういうことかのう?」

「えっと……こことは違う別の世界から来たということです」


 老人は何かを考えた様子で黙り込んでいたが、しばらくしてからまた口を開く。


「お主の名を教えてくれるかな?」

「楠木蒼と言います」

「蒼……か。もしお主が本当に転生者なのならば、我々にとって重要な存在やもしれぬ。だが、まだ信用をしきることはできないのだ。こちらにも事情がある故、すまない」


 頭を下げて俺に謝ってくる老人。

 ここで突っかかっても無駄に争いを増やすだけだろう。

 そもそも、この世界では俺は一人きりなのだから。


「大丈夫ですよ。ただ、どちらにしても俺はあなたたちの敵ではないですから……」

「うむ、それについては承知した……おい、翠玉」


 老人が呼ぶと、名を呼ばれたであろう少女が近づいてきた。


「お呼びでしょうか」

「この者を天幕まで案内して差し上げろ。そして、予言の確認が終わるまで傍から離れてはならぬ」

「御意」


 翠玉と呼ばれた少女と目が合う。

 俺よりも少し若そうに見えるその少女の瞳は翡翠のような色で美しく、そして、鋭かった。


「私についてきて」


 一方的にそう告げた彼女は俺の返答を待つことも無く歩き始める。

 ただ彼女の背中を追っていると、彼女はあるテントの前で足を止めた。


「ここがあなたの天幕」

「う、うん」


 中に入ると、真ん中に簡素なベッドと小さな机だけが置かれてあった。


「ここで休んでいて」

「うん……ありがとう」

「礼を言われるようなことはしてない」


 彼女はそう言った後に、ベッドの方を指でさす。

 ベッドで横になれということだろうか。


「じゃあ遠慮なく……」

 

 スニーカーを脱いでベッドの上で寝転がると、数日間も外出していて家に帰ってきた時のような安心感が胸に押し寄せてきた。

 一方で、これから自分はどうなるのか、どうするべきなのかという不安もそこに入り混じってくる。


 外からは複数の話し声や、足音が聞こえてくる。

 この人たちはなんで政府と敵対しているのだろうか。

 俺は本当にこの人たちの所にいても良いのだろうか……。


……


…………



………………


「起きて」


 頭上から聞こえてきた女の人の声。

 目を開けると、見覚えのある顔の少女が俺の顔を覗き込んでいた。


 ここはどこだろう。

 彼女は一体……誰だ?

 バイトの時間は……。

 ああ、違う。

 

 次第に記憶が蘇ってきて、脳がハッキリとしてくる。

 俺は地球じゃない場所に転移して、反政府集団のキャンプ地にいることを思い出した。


「もしかして、俺寝てた?」

「一時間くらい」

「そっか……」


 この世界も時間の単位は同じなのか。

 言葉も同じだし、ずっといるとすれば、割と楽に馴染んでいけるかもしれないな。


「……」

「……」


 いや、気まずい。

 何か話しかけた方がいいのだろうか。


「えっと……」


 俺が何を話そうか考えながら声を出したその時。

 外が急に慌ただしくなる。

 寝る前までは聞こえてこなかったような大声や走り回っているような足音。

 何かあったに違いない。

 そして、テントの入口に映った人影が一つ静止する。


「翠玉。蒼様をこちらへお連れしなさい」

「御意」


 ベッドから降りて靴を履いた俺は翠玉についてテントから出る。

 少し歩いた先の広場に多くの人々が集まっていた。

 しかし、笑顔の人は一人としていなく、多くが涙を流している。

 中には地面に両手をついて号泣をしている者もいるぐらいだった。

 俺がその様相に圧倒されていると、一時間前にも話した白髪の老人がどこからともなく現れる。

 

「蒼様。よくいらっしゃいました」


 さっきまでとは明らかに違う言葉遣いに対応。

 皆が俺を見る目も明らかに変わっていて、そこに警戒の色は感じられなかった。


「一体何が……」

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