表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/42

その四十一 下着姿で

 戦いの最中に、彼の想いを聞いて私の気持ちも打ち明けた。


 あの告白は夢だったのかもしれないと、寝具から顔だけ出したまま恐る恐る確認する。


「そうだ。戦いの最中、マリーの気持ちを聞けたときは、これ以上ないほど嬉しかった。絶対にこの戦いに勝つと血がたぎった」

「それって相愛といえるのよね」

「ああ。もちろん相愛だ」


 私と彼は相愛。

 なんて素敵な響きなのかしら。

 嬉しくて涙が出そう。


「これからの関係ってどうなるの? 相愛の幼馴染み?」

「いや、もう幼馴染みは卒業だな」


「え? 卒業?」

「俺は君と一生をともにしたい」


「一生? 一生ってまさか……」

「マリー。あなたと結婚したい。俺と婚約してくれないか?」


 時が止まった。

 もちろん時空魔法は使っていない。

 愛しの彼からの衝撃的な申し出に固まったのだ。


 驚く私を見てウィルは言葉を続ける。


「俺が間違っていた。国に利益をもたらす政略婚は、俺のすべき選択ではなかった。愛する国民のために、次代の王として一生懸命に働くと誓った。だがそれには、俺自身が愛する人と一緒になるべきだと気づいた」

「私が……ウィルの愛する人……」


「俺と結婚して欲しい」

「結婚! し、したいです、私も! でもダメなの。下位貴族の孫娘だから……」


 私がずっと悩んでいた身分の差を訴える。

 身分差。

 解決の出来ない高い壁で、私と彼との間にある深い谷のような障害。


 これがあるから彼との結婚を諦めて、ただ好きと言ってもらえたらと思っていた。

 ところがだ。


「それは問題ない」

「え? 問題ないってどういうこと?」


「マリーの祖父、剣聖ベラルド・シュバリエ様は、上位貴族にしょう爵されることになった」

「しょう爵って……、おじい様は上位貴族になるの⁉ えーと……中位貴族を飛ばして?」


「王国を救った英雄には、ふさわしい報奨が必要だ。王都に攻め込んだ使役魔物を撃退し、国民を守って国家転覆を阻止できたのは、剣聖ベラルド様とマリーが活躍したから。シュバリエ家の働きがあってこそだ」

「でもそれはウィルや王国騎士団、王国魔導師団のみんなが頑張ったからよ!」


 確かに時空魔法でウィルやみんなの時間を加速させて、使役魔物を倒せるようにアシストした。

 でも私は、あくまで魔法による補助をしただけ。

 私が危険を犯して前線に立った訳じゃない。


「時空魔法の効果が及んだ剣聖ベラルド様は、まさに軍神と呼ぶにふさわしいほどだった。マリー、君の時空魔法なくして、この勝利はなかったよ」

「そんな。それは過大評価よ!」


 私が否定すると、ウィルは余計に興奮して時空魔法の効果を語り始める。


「魔物から見れば、俺たちは倍の速度で攻撃して、倍の速度で回避するように見えただろう。多くの敵はまともな反撃を許さずに倒せたし、ほぼすべての攻撃を回避できた」

「でもそれは、日頃の鍛錬があったからで!」


「もちろんそれもある。だが、実際に体験したから分かる。こと戦闘において、時間加速は絶対的な優位だ。だから、あの圧倒的な戦力差をひっくり返せた」


 私も時間加速で戦ったからその効果は分かる。


「……本当におじい様は上位貴族になるのね。じゃあ、私は上位貴族の孫娘になるの? あなたとの身分差が縮まるの?」

「ああ。マリーの体調が整い次第、剣聖ベラルド様のしょう爵式をする。そして、中止した『新年を祝う会』を開き、俺たちの婚約を発表しよう」


 私の婚約者になる人は、美しくて強い。

 その上、とっても優しくて地位は最上の王族で、世の女性の誰もが理想の彼氏として思い描くような男性で。

 こんな超素敵な人が自分の彼氏だなんて。

 寝具から顔だけ出して見つめると、ベッドに座る彼から見つめ返された。


「もう、マリーとは離れない。君と一緒にいたい」

「わ、私もウィルと離れたくない! 優しいあなたとずっと一緒にいたいの」


 慌てて同意すると彼が微笑む。


「銀色の長い髪も澄んだ瞳も白い肌も、君の全てが愛おしい」

「ああ、ウィル。そんな素敵な言葉を私にくれるなんて」


 ずっと彼に抱いていた想い。

 言えずに隠してきた気持ち。

 伝えることはできないと諦めていた、彼を愛する胸いっぱいの想い。

 あの戦いのどさくさじゃなく、しっかりとお互いを見据えて気持ちを確認できた。


 もうそれだけで、私は気を失いかけるほどの幸せを感じた。

 彼の「離れない」という言葉が嬉しくて震えた。


 だけど、それとは別の理由で顔が熱くなる。

 私は顔のそばで寝具のはしを必死に握り締めた。

 それは私が、彼からすぐにでも離れたいと思うほど恥ずかしい姿だから。


「今から君を抱きしめる」

「え、ええ⁉ いま⁉ いまは、だめよ!」


 寝具から顔だけ出して、首を左右に振って必死にいやいやと拒否する。

 なのに、ウィルは私の横に手を突いて体を倒してくる。


「いま君を抱きしめないと一生後悔する」

「え、ええーー! だ、だって私、下着姿だから……だ、だめなの!」


 このまま大好きなウィルに迫られたら断れる自信がない。


(やばいやばいやばい、ウィルに襲われちゃうよ)


 嬉しいけど困る。

 幸福感と羞恥がないまぜでパニックになった。

 混乱したせいか、素直な気持ちが口をついて出る。


「……で、でも本当はね、私も抱きしめられたいの」

「じゃあ」

「でもっ、その先はまた今度って約束して!」


「その先?」

「だって、まだ結婚どころか婚約もしていないし」


 せっかく相愛になったのに、ずっと好きを我慢してきたのに、一気にいろいろ体験するなんてもったいなさ過ぎる。

 これまで何年もの長い間、必死に自分の気持ちを抑えてきた。

 だからもう少し、愛する彼との過程をゆっくりと楽しみたい。


「安心して。いくらマリーが可愛くても、目覚めたばかりで無茶はしない」


 その言葉を聞いた私は、ゆっくりうなずく。

 彼は寝具をまくって、シュミーズ姿で寝そべる私を優しく抱きしめた。

 彼の腕に包まれながら、厚い胸板に頬を寄せる。


「ねえ、ウィル」

「なんだ?」


「これまでの時間を取り戻すように、一歩一歩距離を縮めて少しずつ楽しみたいの」

「ああ。マリーと一緒の人生をこれから長く過ごせるなら、ゆっくり楽しむのもいいな。でもな、譲れないことがある」


 ウィルがゆっくりと顔を近づけてくる。


「まだ手は出さないが……代わりにキスはさせてもらう」

「は、はい。いまはキスで許して、ウィル!」


 ウィルが私のおでこと頬へ軽くキスをしてくれる。


「君は本当に可愛いな」

「嬉しい! ありがとう」


「愛しているよ」

「私もよ!」


 私の返事を受けて、ウィルが唇をゆっくり近づけてくる。

 私は目をつむった。


 やっと。

 やっと愛しのウィルから愛していると言われた。

 このときをどんなに夢見たことか。


 ああ、心が幸せで満たされていく。

 間違いなくいまが、人生で最高の瞬間だ。

 彼の唇が私の唇に優しく触れて、心まで溶かされていくのを感じる。


 それからしばらくの間、ウィルに下着姿で抱かれて愛情たっぷりのキスをされた。


次のお話でスザンヌ様へも忘れずプチざまぁして完結です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ