自分の世界①
俺の名前は総門 ケンイチ。ことしで19歳になる。
俺には特技がある。それは人の心情を正確に読み取ることだ。心理戦ゲームでは負けたことがない。そんな俺のいろいろあった高校の頃の話をしようと思う。
高校の入学式、いつもより眩しいその日。喪服のような黒の制服に身を包む。暗すぎて不評の制服だが、ま新しく咲いた桜の下を行く背中はどれも立派だった。
部活動では陸上部に所属し新しい生活に慣れてくると、少し不器用ながら仲の良い友達も3〜4人できた。クラスメイトは想像より打ち解けやすかった。一緒にお弁当を食べたり授業でチームを組んだりで少しずつその環境に根が張れていったような感じがした。比較的勉強も部活動も順調だったように思う。手前味噌だが学業成績は右肩上がりで、部活では顧問にも部員にも可愛がられ期待されてたように思う。
それから俺は着実に浮かれていった。足が遅い同期部員を面白がったり、クラスで偉そうに振る舞ったり_。極めつけは吃音症で悩むクラスメイトをイジリという大義を振りかざしてバカにしていたのだ。俺は彼が嫌がっているのも悲しんでいるのも知っていたが、自分の友達を楽しませたいあまり傷つけてしまった。
俺は心理状態を読み取るのは得意だったが、傷つくことがどれだけ痛いことなのかは何一つわかっていなかった。。そんな俺にバチにも似た転機があった。
父親が病気で倒れ意識が戻らなくなったのだ。。。働き手がいなくなり専業主婦をしていた母は働きはじめ、俺もスーパーのバイトを始めた。
部活を休みがちになり、足はどんどん遅くなり、自分が下に見ていた同期に着いていけなくなるのに時間はそうかからなかった。それでもその同期は俺に仕返しなどはしてこなかった。その優しさは胸を苦しめたが、優しさの正体が自分を眼中にすらないような無関心なのだとだんだん気づいていき、疎外感で脱力し、無力感で荒んでいった。やがて勉強の方も少しずつ伸び悩んでいった。
それでも俺の友達は温かかった。俺の心中を察して寄り添おうとしてくれたし、相談にものってくれた。おかげで色々振っ切れることができたのだ。そして俺は大きな決断をする。
ちょうど二年生を目の前にした時期、思い切って部活を辞めてみたのだ。俺は昔から周りの空気や人間に流されるタチで部活にすっかり染まりきっていた俺にそんな決断をするのは難しかったが、先の友人の助言が俺の背中を押してくれた。
それから俺は持てる時間を全て勉強に打ち込んだ。自慢の足を失った俺にはもう勉強しか残ってなかったからだ。思えば小さい頃から飲み込みが早く、親にも教育熱心に育てられたように思う。そんなこんなで高校生になった俺には高々と立ったプライドと満たされることのない向上心、そして失敗に怯え受け入れられない完璧主義が棲みついていた。そのせいかあの頃の俺はまさに必死だった。傷つけられたプライドを取り返すように、走れなくなったちょうどいい理由や正当な理屈を探すように、そんな凝り固まった視野が俺の眼を鋭くし、我が身を火の車にしてくれた。
俺の成績はありとあらゆる教科で上位を独占していった。心にも余裕がでてきた。以前までの自分を改めるつもりで人付き合いに感謝と礼儀を意識しするようになり、余計な悩みも意識も学業が紛らわせてくれた。この時には高校二年の半ばを迎えていた。
ここまでの話でどうしても頭をよぎる言葉が一つ。
「華やかに咲き誇る花もいつかは枯れ落ちる」〜栄枯盛衰とはよく言ったものである。
俺が三年生になることは、なかった。