第9話:天才的な閃き(Side:シーニョン②)
まずい、まずい、まずい!
剣が折れた。
しかもただの剣じゃない。
国宝だ。
明鏡止水の心を持っている僕でもさすがに焦りが止まらない。
「シーニョンさ~ん? どうしたんですか~? まさか折ってませんよね~?」
「お、折ってなどない! まだ作業中なんだ! 静かにしたまえ!」
とりあえず返事をして時間を稼ぐ。
デレ―トのせいでとんでもない目に遭った。
あいつが適当な剣を造ったせいだ。
許せない。
しかし、デレ―トにはいずれ復讐するとして、今はこの状況をなんとかしないとヤバい。
「落ち着け、落ち着けっ。こういうときは冷静に対処法を考えるんだ」
静かに深呼吸を繰り返して心を鎮める。
気持ちを整えていると、徐々に頭が冴えてきた。
……そうだ。
「接着液でくっつけよう」
シーニョン流深呼吸により、天才的なアイデアが閃いた。
折れたなら接着すればいい。
単純なことだ。
たしか、やたらとくっつく液体があったはずだ。
引き出しをひっくり返していると、目当てのアイテムを見つけた。
【テンポラリー接着液】
ランク:C
属性:無
説明:粘り気があるモンスターの体液を混ぜて作った液体。木材や金属など、ほとんどの物を接着できる。ただし強度は低く、仮止めとしての用途が主。
「これだ!」
こいつさえあれば修理も完了だ。
断面に【接着液】を塗り、グッと押し付ける。
漏れ出たところは乾く前に拭き取った。
ついでに表面を磨いておくか。
タオルで拭いたら汚れもなくなり、案外キレイになった。
これなら誤魔化せそうだ。
せっかく接着したところが折れないよう、【アマツルギ】を慎重に持ち上げる。
そのまま、あいつらの元へ運んで行った。
「待たせたな。リペアが終わったぞ」
「ずいぶんとお早いですね! さすがはギルドマスターだ」
センジは喜んで受け取ろうとする。
慌てて拒否して【アマツルギ】を守る。
「これはまだデリケートな状態なんだ。そんな乱暴に触ろうとするんじゃない」
「あ、いや、しかし……一応状態をチェックしませんと……」
「僕を疑っていると言うのかね!? ギルドマスターのこの僕を!」
「ですから、そういうわけじゃなくて……」
あまり見られたくないのに、センジはしつこく確認しようとしてくる。
こんな風に押し問答をしていたら、ちょっとした衝撃で折れてしまうかもしれない。
……仕方がない。
怪しまれないように少しだけ見せてやることにした。
「どうだ、キレイになっているだろう」
「確かに……」
センジからやや離した状態で見せつける。
修理してないのに気づかれると面倒だからな。
「でも、まだ刃こぼれしているような」
「そんなのはただの幻覚だ。君の瞳はイリュージョンに囚われている。エビデンスのないことを言うんじゃない」
「は、はぁ……言ってる意味がよくわかりませんが……」
センジを言いくるめながら【アマツルギ】を箱に戻す。
しまってしまえばこっちのもんだ。
王都までは絶対に開けるな、とでも言っておけばいい。
しかし、気を付けてたのに、コツンと机に当たってしまった。
ヤバイ!
……と思ったが、【アマツルギ】に異変はない。
あ、あぶねー。
箱の真上に来た時だ。
あと少しだぞ、頑張れ!
そう力強く念じた瞬間、【アマツルギ】はパキンと折れた。
それはもう至極あっさりと。
「「え……」」
唖然とした表情の使者及び護衛、ギルメンども、そして真っ二つに折れている国宝の剣。
「シ、シーニョンさん? 直してくれたんじゃなかったんですか?」
「あ、いや、その……」
ギルドの空気が少しずつ張り詰める。
こ、これはまずい。
流れを変えるように、僕はとっさに明るく言った。
「お、おかしいなぁ。キチンとリペアしたはずなんだがねぇ。ま、まぁ、この際だからセパレート式の剣としてはどうかね?」
我ながら良いアイデアだ。
折れているのなら、いっそのことそういう剣にしてしまえばいい。
そうすれば修理する必要もないではないか。
まさしくミラクルアイデア。
センジは下を向いて震えている。
僕のアイデアに感動しているようだ。
「……なぁにやってるんですかぁ! このエセギルドマスターがぁ!」
「こ、こらっ、何をする!」
いきなり、センジは激しく掴みかかってきた。
僕の高級な服がしわくちゃになる。
「なに折ってんだよおお! 直すって言っただろうがああ!」
「だ、だから、これは不慮の事故なんだ! ちょっとしたアクシデントだよ!」
「ああああああ! やっぱり、頼まなきゃ良かったああああ!」
センジは頭を抱えてうずくまっている。
おい、失礼だろ。
なに考えてるんだ。
「シーニョン! 貴様を逮捕する!」
「ぬわにぃ!?」
今日一番理解できないセリフだ。
「ぼ、僕を逮捕だと!? なぜだ!?」
「本当にわからないのか! 国宝を壊したからだよ! ……お前たち、こいつを捕まえろ! 王都に連行するんだ!」
「「はっ!」」
屈強な護衛たちが僕を捕まえる。
すごい力だ。
「や、やめろ! 離せ!」
「「おとなしくしろ! 無能マスターが!」」
護衛に連れられ、ギルドの外に連れて行かれる。
ギルド前には馬車が止まっており、無理矢理押し込められた。
わけもわからぬまま、馬車は発進する。
ガタガタ激しく揺られながら、どうしてこうなったのか必死に考えた。
いや、一つだけ明らかなことがある。
――……全てはデレ―トのせいだ。
そうだ、そうに違いない。
あいつがいなければ、こんなことにはならなかった。
そう確信した瞬間、心の底から怒りが湧き上がってくる。
この僕を誤認逮捕させた罪は重い。
デレ―トめ!
絶対に復讐してやるぞ!
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