表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/38

第8話:本気

「先生、ここにある素材はこれだけです」

「ありがとよ。助かる」


 ということで、俺はさっそく素材を確かめていた。

 兵舎に保管されている鉱石などだ。

 さっきまでいた兵士たちはミリタルに命じられ、それぞれ訓練に戻っている。

 広い空間はさらに広く感じられ、がらんとして静かだ。


「Dランク以下だろうと、少しでも良い素材があったら良かったのですが……」

「いやいや、十分過ぎるくらいだよ」


 ミリタルが倉庫から持ってきてくれた素材を眺める。

 種類も多く、なかなか良い物が揃っていた。



【鉄鉱石】

ランク:D

属性:無

説明:鉄の含まれた鉱石。流通量が多く入手しやすい。


【フェイクメタル】

ランク:E

属性:無

説明:Sランク素材のフルメタルと類似した鉱石。強度が低い反面、加工しやすい。


【微サンダー魔石】

ランク:D

属性:雷

説明:わずかな雷属性の魔力を含んでいる鉱石。増幅させるには熟練の腕が必要。


【銅元石】

ランク:D

属性:無

説明:銅の純度が高い鉱石。Bランクモンスター、ブロンズドラゴンの好物でもある。


【錫不石】

ランク:D

属性:無

説明:錫が含まれた鉱石。Aランク素材のスチール鉱石とよく似ている。



 素材を見ると、自然と集中力が高まる。

 30年の積み重ねみたいなもんだな。

 どんな剣にしようか考えていたら、ミリタルが小さな声で呟いた。


「ほ、本当に大丈夫でしょうか。相手はSランク素材を使った剣ですよ、先生」

「平気だよ。Dランク以下の素材でも、武器として使われることは多々あるからな。大事なのは工夫と組み合わせさ」


 アイテムのランクは質ももちろんだが、希少度の方が強く影響する。

 貴重な素材を多く使えば、その武器も高ランクになるだろう。

 でも、武器の強さはランクだけじゃ決まらない。

 鍛冶師の腕が直結するんだ。

 何より……。

 心の中で思っていたことが、自然と口から零れ出た。


「しょぼい素材から良い製品を造るのが、鍛冶師の腕の見せ所だな」

「先生……かっこいいです」


 集中しているので良く聞こえなかったが、ミリタルが何か言っていたような気がする。

 まぁ、大したことではないな。

 とはいえ、10日か……。

 新しい素材を探したりする時間はなさそうだ。

 ここにある鉱石だけで造ろう。


「ミリタル。ここでずっと作業していて、国軍の迷惑にはならないか?」

「ええ、それは大丈夫です。今のところ早急に武器の修理が必要な部隊はありませんので。兵士たちにも、これから10日間は出入りしないよう伝えておきます」

「ありがとう。助かるよ、ミリタル。じゃあ、さっそく始めるか。引き留めて悪かったな」


 設計図はすでに頭の中で出来上がっている。

 シンプルだが剛健なロングソードを造ろう。

 雷属性の魔力を付与すれば切れ味も抜群だろうな。

 火床に火をつけ、鍛冶場を起こす。

 兵舎を覆う熱気に包まれると気持ちが落ち着く。

 温まるのを待つ間、道具や素材を整理整頓していたら、視界の隅に誰かが映った。

 ミリタルだ。

 少し離れたところで立ったまま、こちらを見ていた。


「ミリタル? もうてっきり外に出たのかと……」

「お邪魔じゃなければ、久しぶりに先生の鍛冶仕事を少し見学させていただけませんか?」

「え? ああ、別に構わないけど」

「良かった、ありがとうございます。時間になったら勝手に出て行きますので」


 そう言って、ミリタルは隣の椅子にちょこんと座った。

 目を爛々と輝かせて俺の動作を見ている。

 そんなに楽しいかな。

 何はともあれ、火床も温まったようだし、さっさと始めるか。

 まずは【銅元石】と【錫不石】を別々の容器で溶かす。

 それぞれ、90%、10%の割合で混ぜて一つの玉にする。

 この配分だと強度が一段と上昇するのだ。

 こいつを叩いて素体を造るか。


「ミリタル、危ないからちょっと離れててくれな」

「はい」


 金床(かなとこ)の上に混ぜ合わせた鉱石を乗せ、槌を振るった。

 カァンッ! カァンッ! という甲高い音が響く。

 やっぱり心地よい音だ。

 なんだか懐かしいぜ。

 金属が長方形になったら、中央で折り曲げる。

 叩いて熱して……叩いて熱して……を繰り返す。

 相変わらず、ミリタルは興味津々で見ていた。

 見ているだけじゃつまらんだろうし、何やってるかくらいは説明するか。


「こうすることで鉱石の中の不純物を除去しているんだ。金属は叩けば叩くほど強くなるからな」

「勉強になります、先生」


 そういえば昔の彼女も、俺の仕事をジッと見ていた。

 剣への興味が強いのかもしれないな。

 十分鍛錬できたところで次の工程に移る。

 【鉄鉱石】と【フェイクメタル】だ。

 【鉄鉱石】は硬くて良い素材だが加工しにくい。

 そこで、20%ほど【フェイクメタル】を混ぜることで、強度と加工性を両立させる。

 こいつをさっきの合金と混ぜれば頑丈な剣になるだろう。

 やがて、槌を振るっていたらミリタルがスッと立ち上がった。


「先生、見学させていただいてありがとうございました。私はそろそろ戻ります。後で差し入れを持ってきますので」

「いや、そんなのは別にいいよ」


 その後もミリタルは出たり入ったりで、手が空いているときには俺の仕事を見学していた。



 一週間後、ロングソードの素体が完成した。


「先生、だいぶ形が出来上がってきましたね」

「ああ、ここまで来たらもう一息だな」


 手持ちの使い古したタオルで汗を拭う。

 目の前には直線の刀身を持つロングソードが置かれていた。

 まだ研磨していないにも拘わらず、その刀身は美しい銀色に輝いている。

 低ランクの素材ながら良い武器になったな。

 だが、これから一番大事な手順を控えている。

 残っている【微サンダー魔石】を使って、この剣に絶大な切れ味を付与する工程だ。


「ミリタル、悪いが残りの期間は兵舎に来ないでもらえるか?」

「ええ、もちろんです。大事な作業なんでしょうか?」

「最後の仕上げでな。三日三晩、槌を振るい続けなきゃいけないんだ」

「三日三晩ですか!? それは大変な作業ですね……」


 【微サンダー魔石】は冷やすと内部の雷魔力が放出してしまう。

 だから強い魔力を付与するには、作業が終わるまで熱し続ける必要がある。

 三日間打ち続けるのは大変っちゃ大変だが、俺にとってはよくあることだ。

 道具と素材をキレイに並べ、その前で精神統一する。

 深呼吸を繰り返していると、徐々に気持ちの波も鎮まってきた。


「……よし」


 集めた【微サンダー魔石】を一度に溶かす。

 放出した雷魔力で腕が傷ついた。

 鉱石はたくさんあるからな、その分魔力も多いのだろう。

 だが、そんなことはどうでもいい。

 自分の身体より、今は良い剣を造る方が大事だ。

 ミリタルは知らないうちに姿を消していた気がする。

 周りの様子に気づかないほど、いつしか鍛冶の世界に没頭していた。


 当初の予定通り三日三晩打ち続けた結果、電気をまとった剣が完成した。

 研磨も終了し、ロングソードはピカピカに磨き上げられている。

 我ながら上出来の剣だ。


「おおお、できたぞっ」


 背中をグーッと伸ばすと、体中の骨がポキポキ鳴った。

 腕や足の筋肉も痛い。

 40のオッサンにはきつかったか?

 老いを実感しつつも、心の中は良い品ができた充実感であふれていた。

 身体を動かしていたら、兵舎のドアがそっと開けられた。

 ミリタルが静かに顔を出している。


「せ、先生……?」

「おっ、ミリタルか。ちょうど剣が完成したところだぞ」

「本当ですか!? おめでとうございます!」


 ミリタルは嬉しそうにタタッと駆け寄ってきた。

 鍛冶勝負の日は今日だから無事に間に合って良かった。

 やれやれと思っていたら、ミリタルが緊張した様子で呟く。


「あ、あの、先生……すごい剣を造られたんですね。さすがです……」

「え?」

 

 ミリタルに言われ、改めてロングソードを見る。

 刀身からは常にバチッと電気が迸っていた。

 それだけでなく、俺たちの髪は先っぽがザワザワと逆立ち、腕や顔の肌がチクチク痛い。

 まるで雷が落ちる前触れのようだ。

 ……んん? なんだこれ?



【雷帝の斬悪剣:カミナ】

ランク:S

属性:雷

能力:豊富な雷属性の魔力が宿ったロングソード。斬られたことに気づかないほどの異常な切れ味を誇る。



「……Sランク? 思ったより高ランクなんだが」

「先生、本気を出し過ぎでは……?」

「う、うん、ちょっと真剣になり過ぎたかも……」


 Dランク以下の素材から、バリバリにSランクの剣ができちゃった。

お忙しい中読んでいただきありがとうございます


少しでも

・面白い!

・楽しい!

・早く続きが読みたい!

と思っていただけたら、ぜひ評価とブックマークをお願いします!


評価は広告下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にタップしていただけると本当に嬉しいです!

ブックマークもポチッと押すだけで超簡単にできます。


何卒応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
i000000
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ