第8話:本気
「先生、ここにある素材はこれだけです」
「ありがとよ。助かる」
ということで、俺はさっそく素材を確かめていた。
兵舎に保管されている鉱石などだ。
さっきまでいた兵士たちはミリタルに命じられ、それぞれ訓練に戻っている。
広い空間はさらに広く感じられ、がらんとして静かだ。
「Dランク以下だろうと、少しでも良い素材があったら良かったのですが……」
「いやいや、十分過ぎるくらいだよ」
ミリタルが倉庫から持ってきてくれた素材を眺める。
種類も多く、なかなか良い物が揃っていた。
【鉄鉱石】
ランク:D
属性:無
説明:鉄の含まれた鉱石。流通量が多く入手しやすい。
【フェイクメタル】
ランク:E
属性:無
説明:Sランク素材のフルメタルと類似した鉱石。強度が低い反面、加工しやすい。
【微サンダー魔石】
ランク:D
属性:雷
説明:わずかな雷属性の魔力を含んでいる鉱石。増幅させるには熟練の腕が必要。
【銅元石】
ランク:D
属性:無
説明:銅の純度が高い鉱石。Bランクモンスター、ブロンズドラゴンの好物でもある。
【錫不石】
ランク:D
属性:無
説明:錫が含まれた鉱石。Aランク素材のスチール鉱石とよく似ている。
素材を見ると、自然と集中力が高まる。
30年の積み重ねみたいなもんだな。
どんな剣にしようか考えていたら、ミリタルが小さな声で呟いた。
「ほ、本当に大丈夫でしょうか。相手はSランク素材を使った剣ですよ、先生」
「平気だよ。Dランク以下の素材でも、武器として使われることは多々あるからな。大事なのは工夫と組み合わせさ」
アイテムのランクは質ももちろんだが、希少度の方が強く影響する。
貴重な素材を多く使えば、その武器も高ランクになるだろう。
でも、武器の強さはランクだけじゃ決まらない。
鍛冶師の腕が直結するんだ。
何より……。
心の中で思っていたことが、自然と口から零れ出た。
「しょぼい素材から良い製品を造るのが、鍛冶師の腕の見せ所だな」
「先生……かっこいいです」
集中しているので良く聞こえなかったが、ミリタルが何か言っていたような気がする。
まぁ、大したことではないな。
とはいえ、10日か……。
新しい素材を探したりする時間はなさそうだ。
ここにある鉱石だけで造ろう。
「ミリタル。ここでずっと作業していて、国軍の迷惑にはならないか?」
「ええ、それは大丈夫です。今のところ早急に武器の修理が必要な部隊はありませんので。兵士たちにも、これから10日間は出入りしないよう伝えておきます」
「ありがとう。助かるよ、ミリタル。じゃあ、さっそく始めるか。引き留めて悪かったな」
設計図はすでに頭の中で出来上がっている。
シンプルだが剛健なロングソードを造ろう。
雷属性の魔力を付与すれば切れ味も抜群だろうな。
火床に火をつけ、鍛冶場を起こす。
兵舎を覆う熱気に包まれると気持ちが落ち着く。
温まるのを待つ間、道具や素材を整理整頓していたら、視界の隅に誰かが映った。
ミリタルだ。
少し離れたところで立ったまま、こちらを見ていた。
「ミリタル? もうてっきり外に出たのかと……」
「お邪魔じゃなければ、久しぶりに先生の鍛冶仕事を少し見学させていただけませんか?」
「え? ああ、別に構わないけど」
「良かった、ありがとうございます。時間になったら勝手に出て行きますので」
そう言って、ミリタルは隣の椅子にちょこんと座った。
目を爛々と輝かせて俺の動作を見ている。
そんなに楽しいかな。
何はともあれ、火床も温まったようだし、さっさと始めるか。
まずは【銅元石】と【錫不石】を別々の容器で溶かす。
それぞれ、90%、10%の割合で混ぜて一つの玉にする。
この配分だと強度が一段と上昇するのだ。
こいつを叩いて素体を造るか。
「ミリタル、危ないからちょっと離れててくれな」
「はい」
金床の上に混ぜ合わせた鉱石を乗せ、槌を振るった。
カァンッ! カァンッ! という甲高い音が響く。
やっぱり心地よい音だ。
なんだか懐かしいぜ。
金属が長方形になったら、中央で折り曲げる。
叩いて熱して……叩いて熱して……を繰り返す。
相変わらず、ミリタルは興味津々で見ていた。
見ているだけじゃつまらんだろうし、何やってるかくらいは説明するか。
「こうすることで鉱石の中の不純物を除去しているんだ。金属は叩けば叩くほど強くなるからな」
「勉強になります、先生」
そういえば昔の彼女も、俺の仕事をジッと見ていた。
剣への興味が強いのかもしれないな。
十分鍛錬できたところで次の工程に移る。
【鉄鉱石】と【フェイクメタル】だ。
【鉄鉱石】は硬くて良い素材だが加工しにくい。
そこで、20%ほど【フェイクメタル】を混ぜることで、強度と加工性を両立させる。
こいつをさっきの合金と混ぜれば頑丈な剣になるだろう。
やがて、槌を振るっていたらミリタルがスッと立ち上がった。
「先生、見学させていただいてありがとうございました。私はそろそろ戻ります。後で差し入れを持ってきますので」
「いや、そんなのは別にいいよ」
その後もミリタルは出たり入ったりで、手が空いているときには俺の仕事を見学していた。
一週間後、ロングソードの素体が完成した。
「先生、だいぶ形が出来上がってきましたね」
「ああ、ここまで来たらもう一息だな」
手持ちの使い古したタオルで汗を拭う。
目の前には直線の刀身を持つロングソードが置かれていた。
まだ研磨していないにも拘わらず、その刀身は美しい銀色に輝いている。
低ランクの素材ながら良い武器になったな。
だが、これから一番大事な手順を控えている。
残っている【微サンダー魔石】を使って、この剣に絶大な切れ味を付与する工程だ。
「ミリタル、悪いが残りの期間は兵舎に来ないでもらえるか?」
「ええ、もちろんです。大事な作業なんでしょうか?」
「最後の仕上げでな。三日三晩、槌を振るい続けなきゃいけないんだ」
「三日三晩ですか!? それは大変な作業ですね……」
【微サンダー魔石】は冷やすと内部の雷魔力が放出してしまう。
だから強い魔力を付与するには、作業が終わるまで熱し続ける必要がある。
三日間打ち続けるのは大変っちゃ大変だが、俺にとってはよくあることだ。
道具と素材をキレイに並べ、その前で精神統一する。
深呼吸を繰り返していると、徐々に気持ちの波も鎮まってきた。
「……よし」
集めた【微サンダー魔石】を一度に溶かす。
放出した雷魔力で腕が傷ついた。
鉱石はたくさんあるからな、その分魔力も多いのだろう。
だが、そんなことはどうでもいい。
自分の身体より、今は良い剣を造る方が大事だ。
ミリタルは知らないうちに姿を消していた気がする。
周りの様子に気づかないほど、いつしか鍛冶の世界に没頭していた。
当初の予定通り三日三晩打ち続けた結果、電気をまとった剣が完成した。
研磨も終了し、ロングソードはピカピカに磨き上げられている。
我ながら上出来の剣だ。
「おおお、できたぞっ」
背中をグーッと伸ばすと、体中の骨がポキポキ鳴った。
腕や足の筋肉も痛い。
40のオッサンにはきつかったか?
老いを実感しつつも、心の中は良い品ができた充実感であふれていた。
身体を動かしていたら、兵舎のドアがそっと開けられた。
ミリタルが静かに顔を出している。
「せ、先生……?」
「おっ、ミリタルか。ちょうど剣が完成したところだぞ」
「本当ですか!? おめでとうございます!」
ミリタルは嬉しそうにタタッと駆け寄ってきた。
鍛冶勝負の日は今日だから無事に間に合って良かった。
やれやれと思っていたら、ミリタルが緊張した様子で呟く。
「あ、あの、先生……すごい剣を造られたんですね。さすがです……」
「え?」
ミリタルに言われ、改めてロングソードを見る。
刀身からは常にバチッと電気が迸っていた。
それだけでなく、俺たちの髪は先っぽがザワザワと逆立ち、腕や顔の肌がチクチク痛い。
まるで雷が落ちる前触れのようだ。
……んん? なんだこれ?
【雷帝の斬悪剣:カミナ】
ランク:S
属性:雷
能力:豊富な雷属性の魔力が宿ったロングソード。斬られたことに気づかないほどの異常な切れ味を誇る。
「……Sランク? 思ったより高ランクなんだが」
「先生、本気を出し過ぎでは……?」
「う、うん、ちょっと真剣になり過ぎたかも……」
Dランク以下の素材から、バリバリにSランクの剣ができちゃった。
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