第4話:国宝の修理(Side:シーニョン①)
「あぁ……やはり40歳には見えない……。僕は選ばれし人間なんだ……」
デレ―トの無能を追い出してから数週間後。
僕はいつものように、ギルドのマスター屋で自分に見惚れていた。
週3で鍛えている身体は引き締まり、徹底したスキンケアは老いを感じさせない。
身につけているのは最高品質のジャケットとパンツ。
どこからどう見ても、儲かっているギルドの優秀なマスター。
――ふつくしい……。
これは僕の信念だが、ビジネスでは有能感を出すことが何よりも重要だ。
他人からの評価は第一印象だけで決まる。
だから毎日輝いている僕は、鍛冶なんて汚れ仕事はしなくていいのだ。
しばらく己の輝きを堪能していたが、ギルメン連中の様子を見に行くこととする。
さーって、今日も仕事するかー。
ドアを開け鍛冶場へ向かう。
開口一番。
「グッモーニン、みんな!!」
「「お、おはようございます、シーニョン様」」
あああ、気持ちいいい。
様付けで呼ばれるのは至高の喜びだ。
出世したことを再確認できる。
デレ―トがこの喜びを感じることは一生ないんだろうな。
ははは、ざまぁみろ。
「よし、モーニングミーティングを始めるぞ! まずはギルドの理念の復唱だ! 一、この世は人脈が全て!」
「「は、はぁ……」」
ギルドのメンバーどもは、全員僕の引き立て役だ。
脇役……いや、モブのモブだな。
僕と同じ空間にいられるだけでありがたく思え。
世界は僕を中心に回っている。
毎日実感するばかりだ。
モブどもも僕の下で働けて幸せだろうな。
「こんにちは。突然の訪問、誠に失礼いたします」
部下たちの幸せに寄与していることを感動していると、ちょうど男の客がやってきた。
しかし、この辺りの住民と違い、ずいぶんと威厳のある風格だ。
軍服みたいな服の上に、深い青色のマントなんかを羽織っている。
おまけに、数人の護衛らしき男まで入ってきた。
ギルドの中は妙な緊張感に包まれる。
「な、なんだね、君たちは。用件を言いたまえ」
「私は王宮からの使いでございまして、センジと申します。こちらにいるのは護衛です。本日は、こちらのギルドに頼みごとがありまして、王都から参りました」
「頼みごと……?」
そう言うと、男は丁寧に頭を下げた。
僕はもちろんのこと、ギルドの中は驚きで包まれる。
こ、こいつは使者だったのか、しかも王宮からの。
頼みごとって、こんな地方に何の用だ?
まったく想像もつかず、僕の頭は混乱する。
……そうか!
しかし、次の瞬間には明確な答えにたどり着いた。
――僕の意識の高さが評価されたのだ!
そうだ、それ以外に考えられない。
世界中を探しても、僕みたいな人間は他にいないだろう。
ようやく日の目を見るときがきたのだ。
自分の努力が報われたことに感動していたら、使者はポツリと呟いた。
「デレ―ト殿はいらっしゃいますか?」
「…………ん?」
こいつは何を言っているのかな?
あのクソ無能鍛冶師の名前が聞こえた気がするぞ?
いや、きっと気のせいに違いない。
だってありえないだろ。
なんで王宮からの使者が底辺のあいつの名前を出すのだ。
ニコニコとしている間も、使者は言葉を続ける。
「必死に調べた結果、こちらのギルドにかの高名な鍛冶師であらせられるデレ―ト殿がいらっしゃるとわかったのですが……挨拶できませんでしょうか?」
ふむ、聞き間違いじゃないようだ。
徐々にイライラしてきた。
「なんであんなヤツを探しているのかなぁ? ギルドマスターである、この僕! に用はないか? この、僕に!」
「ありません」
間髪入れずセンジは答えた。
思わず殴りつけようとしたが、寸でのところでこらえる。
仮にも王宮からの使者だ。
女王陛下からの評価が悪くなったらまずい。
「ふんっ! デレ―トはもういないぞ。あんな無能は追い出してやったからな」
「え! ここにはいらっしゃらないのですか!? というより、追い出したとはどういうことでしょう」
「ギルドのリソースを食いつぶす挙句、私へのリスペクトもまるで感じられないからだ。ま、当然の報いだな」
センジは呆然と突っ立っている。
いや、護衛もそうだ。
ど、どうした?
「そ、そんな……デレ―ト殿がいない……? 女王陛下が認めるほどの、あんな凄腕の鍛冶師を追い出すって何やってんですか! それでも本当にギルドマスターなんですか!?」
「は、はぁ?」
「これは大変なことになった!」
センジたちは頭を抱えて悩みこんでいる。
おいおい、どうした?
あんな底辺よりまずは僕だろ。
「あいつのことなんか放っておいて、まずはこの僕を頼りなさい」
「しかし、まずはデレ―ト殿にお話ししたく……」
「なにぃ!? 僕はギルドマスターだぞ! 言え! 言うんだー!」
「うわっ、やめてくださいっ! ぐぁあ!」
「「こらっ、何をする!」」
センジの首を掴み激しく揺さぶる。
週3で鍛えている僕の肉体を馬鹿にするな。
護衛に引き剥がされはしたが、センジの持っている箱を開けることができた。
「見せろ! 僕はギルドマスターだぞ! デレ―トなんかより、僕の方が偉いんだ!」
「「あっ! そ、それは……!」」
箱を開けた瞬間、目に飛び込んできたのは恐ろしいほどに美しい宝剣だった。
透き通るような刀身、十字架を思わせる全体の形……過度な装飾はないものの、一目で次元が違う品だとわかる。
思わず言葉を失ってしまうほどに。
【天使の宝剣:アマツルギ】
ランク:S
属性:聖
能力:天界の存在を降臨させ、その身に宿すことができる。現世と天界を繋ぐことができる至高の宝剣。
体が震える。
薄汚れていたり所々刃こぼれはしているが、これほどまでに美しい剣を見たことがあろうか。
名前の通り、天使が持っていてもおかしくない。
「す、すごい……まさしく人類の宝だ……」
「はぁ……あなたが無理矢理開けるから説明しますけどね。デレ―ト殿にはこれの修理をお願いしたかったのです」
「なにぃ? どうしてデレ―トなんだ」
「だって、これを造ったのはデレ―ト殿ですから」
「……へぇぁ?」
意味不明なことを言われ思考が止まった。
これを造ったのはデレ―ト殿ですから……デレ―ト殿ですから……ですから……。
動かない頭にセンジの言葉が木霊する。
それを打ち消すように腹の底から声を出した。
「ふざけるなあああ! そんなはずがないだろおおお!
「うわぁっ! なんだ、この人!」
デレ―トの造った剣に一瞬でも感動してしまったじゃないか。
とんでもない屈辱で頭が沸騰しそうになる。
「そもそも、あいつがこんなの造ったところ見たことがないぞ!」
そうだ。
俺は自分の全ての仕事をあいつにやらせていたが、そんな依頼はなかった。
というより、デレ―トのクソ野郎にこんな剣が造れるわけもない。
でたらめだ。
「まぁ、事の経緯が複雑なのは確かですけどね。この剣は進化してこの姿になったのですから」
センジはまた意味のわからないことをのたまう。
「お前はこの僕を馬鹿にしているのか?」
「馬鹿になんかしてませんよ。本当に進化した剣なんです」
そのまま、事の経緯を説明される。
当初は地方貴族が依頼した、ちょっとした装飾用の剣だったらしい。
しかし、日が経つにつれて徐々に形が変化。
いつしかこのようになった。
怖くなった貴族は国に献上し、見事国宝と認められる……。
ふざけるな!
「調べに調べた結果、この剣の製作者がデレ―ト殿とわかりました。女王陛下もすぐに探し出せとのご命令ですので、修理がてら王都へ来ていただこうと思っていたのです」
もうダメだ、我慢ならん。
使者から【アマツルギ】を奪い鍛冶場へ向かう。
「僕が直してやるよ! ああ、やってやるよ!」
「あっ、ちょっ、返してください!」
「うるさい! 僕はギルドマスターだ! これくらいすぐに直してやる!」
デレ―トに見下された気分で、すこぶる不愉快だ。
このまま引き下がれるか。
「待ってくださいよ。デレ―ト殿以外に直せるわけないじゃないですか」
すがりつくセンジ。
クソ、面倒だな。
「考えてみたまえ。ギルドマスターは一番うまい鍛冶師がなる。デレ―トと同じか、それ以上の腕は保証されているのさ」
「言われてみれば……」
ケッ、馬鹿が。
口の上手さで僕に勝てると思うな。
「じゃあ、すぐに直すからそこで待ってろ」
「くれぐれも扱いには注意してくださいね。元々、この剣は儀式の道具として依頼されたようで、それほど丈夫には造られていないようです」
「馬鹿にするな、僕は優秀な鍛冶師だぞ。女王陛下には、リーテンの偉大な鍛冶師シーニョンが直したと伝えておけ」
鍛冶場に行き、他の鍛冶師どもを追い出す。
ドカッと作業台に座った。
「ふんっ、刃こぼれなんか砥石で研げば直るだろ」
砥石の上に【天使の宝剣】をセットする。
生まれてこの方、剣を研いだことなどない。
だが、僕はずっとギルメンどもの仕事ぶりを見ていたからな。
やり方は完璧にわかる。
僕の素晴らしい観察眼は、見ただけであらゆる技術をマスターしてしまうのだ。
自信満々で思いっきり力を込めたら、【アマツルギ】はバキンと折れた。
そう、気持ちいいほどにバキンと。
心臓が凍り付いた。
「は? なに折れてんだよ!!」
こ、国宝の剣を折るなんて、とんでもない大罪だ。
ど、どうする。
いや、落ち着け、大丈夫だ。
デレ―トにやらせよう。
「おい、デレ―ト! さっさと来い! どこにいるんだ! 早くソリューションしろ!」
怒鳴り声を上げるが、あいつがやってくる気配はない。
あのノロマが!
何してやがる!
クソッ、めんどくせえな!
探しに行こうと立ち上がったとき、僕は気づいた。
――あいつ……もういないじゃん。
つい先日、追放したばかりだ。
それどころか、どこに行ったのかもわからない。
「すみませーん、大きな音がしましたけど大丈夫ですかー?」
部屋の外からはセンジの声が聞こえる。
目の前には真っ二つに折れた国宝の剣。
……どーしよ。
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