最終話:伝説の大名工
「デレートさーん! 国を守ってくれて本当にありがとうー! おかげで平和が守られたよ!」
「まさしく中年の希望の星そのものだ! 俺はあんたみたいなオッサンを目指すからな!」
「あなたは伝説の大名工です! これからもデレートの名は語り継いでいきます!」
今、俺は王宮のバルコニーにいる。
あれから建物の復旧も進み、壁のひび割れが少し残っているくらいまでに復活していた。
眼下にはたくさんの兵士や国民たち。
みな、【カラミティ】を修復したことを讃えてくれていた。
そして、俺の横にはミリタル、イズ、ベイオネットの三人もいる。
「とうとう先生の正しい評価が国中に広がったのですね。私も喜ばしいです」
「これからはもっと忙しくなりそうですね、デレート様」
「やっぱりパパはすごいねぇ。わたしのパパだって、みんなに自慢しちゃお」
彼女らも嬉しそうな笑顔で俺を讃えてくれた。
俺は地方の鍛冶師で一生を終えると思っていた。
でも、彼女らのおかげでこうして国一番の鍛冶師にまでなれたのだ。
「三人とも、本当にありがとう。俺がここに立っていられるのも、みんなのおかげだ」
だから、自然と素直な思いが言葉となって口から出た。
「わ、私たちのおかげって何をおっしゃいますか、先生」
「そうですよ。むしろ感謝するのはわたくしたちの方です」
「パパは昔からこういうことあるよねぇ」
みんなテレテレとしているのはなぜだろうな。
40年生きてきて、未だに女性の気持ちはよくわからない。
ミリタルたちを眺めていたら、女王陛下が静かに近づいてきた。
姿勢を正し、敬意の気持ちを持って向き直る。
「デレート。貴殿にグロッサ王国一の鍛冶師である証、“グロッサの槌”を授与する。これからも鍛錬に励みたまえ」
「ありがとうございます、女王陛下」
いただいたのは金でできた槌の置物。
太陽にキラリと光り輝いている。
悪霊を封じた後、女王陛下が急遽用意してくださったのだ。
素晴らしい美しさだな。
「さあ、眼下の者たちにも見せてやってくれ」
「はい」
俺が黄金の槌を掲げると、周囲は一層盛り上がる。
宮殿内は大歓声で包まれた。
「デレート、わらわからも改めて礼を言わせてもらう。そなたのおかげで国が救われた。感謝してもしきれないな」
「恐れ入ります、女王陛下。自分にできることをやっただけではありますが……」
「それがすごいことだと言っておるのだよ」
女王陛下と固く握手を交わす。
国民や兵士たちの歓声を聞いたり、笑顔を見ていると頑張って良かったなと本当に思う。
「デレート、この後は宴を用意してある。ぜひ参加してくれたまえ」
「ありがとうございます。謹んで参加させていただきます」
祝典が終わると、王宮の大食堂で大きな宴が開かれた。
高そうな肉に高そうな魚、高そうなフルーツと高そうな酒……と、とにかく高そうな食材のオンパレードだ。
俺の食事何食分かに変換する癖はさすがにもうやめるか。
「それでは皆の者、盃をとれ。デレートの功績を讃え……乾杯!」
「「かんぱーい!」」
女王陛下の一声でそれぞれの盃がぶつかり、カランカランという心地良い音が響く。
食事もそこそこに、何人もの兵士や鍛冶師、国民たちが集まってきた。
「デレートさん! 王都に来てくださって本当にありがとうございました!」
「一日でも早く追いつけるように、これからも精一杯頑張りますね!」
「今度私の鍋とかも造ってください! デレートさんの造った道具を使うのが夢なんです!」
皆さん、すごく興奮されている。
これだけ豪華な宴ならしょうがない。
とはいえ、やはり俺は目立つことが苦手なようだ。
「あ、いや、俺はほんとただのおっさんだから」
「「その謙遜も素晴らしい!」」
謙遜したらしたで、彼らはさらに感銘を受けてしまう。
そして、いかに俺がすごいかを互いに熱く語り合うのであった。
「先生の人気は留まるところを知りませんね。こんな素晴らしい人に武器を造ってもらったことは、私の生涯の誇りです」
「わたくしもデレート様の杖に恥じないよう、今後も研鑽を積んでまいります」
「パパの銃、死ぬまで大事にするからね」
「ありがとう、みんな。俺も嬉しいよ」
自分の造った物がいつまでも使われるなんて、それこそ鍛冶師冥利に尽きる。
俺も頑張らなきゃな。
そう思って盃を煽っていると、静かに夜も更けていった。
翌日、俺たちが壁面の修理をしていると、兵士の騒ぐ声が聞こえてきた。
「おーい! 大変だー!」
声がする方を見ると、すでに大きな人だかりができている。
緊急事態というわけではなさそうだが。
「なにかあったのかな?」
「行ってみましょう、先生」
四人で人だかりに向かう。
ミリタルを見ると、兵士たちは道を開けた。
そして、中央にいたのは……。
「「エ、エルフ……?」」
触ると壊れてしまうガラスのような雰囲気を持つ女性たちの集団だった。
皆さん、耳が尖っていてエルフ独特のオーラを漂わせている。
さすがグロッサ王国だな。
こんな来客があるなんて。
心の中で感心していたら、先頭のエルフがスッと前に出てきた。
「ようやく会えましたね、デレ君」
「……え?」
一番前にいたエルフは俺を見つめている。
だ、誰だ。
俺なんかにエルフの知り合いなんていないはず……。
「覚えていませんか、デレ君。昔、おもちゃの宝石を造ってもらったエメラルです」
鈴みたいな声で女性の名前を聞いた瞬間、十五年前の過去をブワッと思い出した。
そう、この子はエメラル。
一時期、リーテンの近くにエルフの集団が来訪していたのだ。
そのとき、ミリタルたちと一緒に遊んでいたっけ。
「ずいぶん大きくなったな、エメラル。見違えたよ」
「覚えてくれていたんですね……」
俺たちの会話を聞き、兵士たちはさらに盛り上がる。
「すげぇ……デレートさんはエルフとも知り合いなのかよ。なんて顔の広さだ」
「さすがは稀代の鍛冶師だな。底が知れない」
「あんな人はこの先も二人といないだろう」
彼女も近所の子どもだったのだが……そういえば何人くらいいたっけ?
ぼやぁ~っと人影が頭に浮かび上がる。
たしか、最低でも十人くらいはいたような……。
「デレ君の造ってくれた宝石で、国を守る結界ができました。ですが念のため、そろそろメンテナンスしてほしいのです。さあ、デレ君。早くエルフの国に行きましょう」
「あっ、いや、ちょっ」
ぼんやり考えていたら、エメラルが俺の腕を掴んだ。
そのまま勢い良く引っ張っていく。
見かけに反して結構力が強いのだが。
無論、それをミリタルたちが見逃すはずはない。
「待ちなさい。説明もなしに先生……ごほん、デレート殿を連れて行くのはやめてもらいましょう。彼は大事な鍛冶師ですので」
「そうですよ、エメラルさん。まずは説明してください」
「パパを一人占めするの禁止だよ」
俺を引き留めるミリタルたち。
それを見て、王宮の兵士たちが盛り上がらないはずがない。
「デレートさんはモテるなぁ。いやぁ、羨ましい限りだ」
「やっぱり仕事ができる男はモテるんだ」
「俺もデレートさんみたいな渋くてかっこいいおっさんを目指すぞ」
いや、まぁ、そういうことではないんだけど……。
腕を両脇から引かれていると、とあることを思った。
俺はもう40歳。
ぶっちゃけ、人生はもう佳境を過ぎている。
でも。
――……引退はまだまだ先のようだな。
最後までお読みくださり、本当にありがとうございました。
これにて「追放されたおっさん鍛冶師」第一部が完結となりました!
完結まで来られたのも、全ては読者の皆様の応援のおかげでございます。
さて、第一部は完結となりましたが、ラストのヒロインや“理の集い”などまだまだ色んな謎が盛りだくさんでして、今は続きを書く準備をしております。
今後、連載再開する可能性は十分にありますので、どうぞ『ブックマーク』はそのままにしていてください!
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