第37話:我らは永久に不滅だ(Side:エージェン①)
「おのれ、デレート! 私たちの計画をことごとく邪魔するなんて!」
デレートが【カラミティ】を修復し、悪霊が再度封印された――。
それを見届けた私は、すでに王都を後にしている。
人目につかない森の中を抜け、下町に向かう予定だった。
今は一刻も早くここを離れなければ。
しかし……。
――……その後はどうする。
魔族とは、連絡を取っていない。
立て続けに3回も失敗してしまった。
いくら私たちが特別な人間でも、さすがにお咎めなしとはいかないだろう。
待つのは死だけだ。
ならば、一度同胞の元へ戻るか?
それでも厳しい状況が待っているのは想像に難くない。
失敗者の境遇は私もよく知っている。
思案しながら歩を進めているときだった。
「待ちなさい」
突然、目の前に一人の女が舞い降りた。
私と同じ黒い髪で、手には長い杖を持っている。
魔法使いだな。
そして、こいつは追手だ。
目を見ればわかる。
だが、まだ私が“理の集い”の人間であること、そしてシーニョンをけしかけたことは知られていないはずだ。
「はい。私に何のご用でしょうか?」
「とぼけないでください。あなたは“理の集い”の人間ですね? 全部わかっています。バイヤー教頭を操作して危険な杖を配ったのもあなたです。彼の記憶を復元しました」
「おっしゃっている意味がわかりませんが。申し訳ありません、急いでいますので……」
「今回の悪霊の件もあなたが関わっているのでは?」
こいつは手練れだな。
見たところ20代半ばだが、かなりの実力者のようだ。
ここで捕まれば私の記憶も洗われてしまう。
いや、それよりもシーニョンが捕まれば、芋づる式に私の行いも明らかとなる。
そして、あの無能はすでに捕らえられているだろう。
ということは……。
「私が“理の集い”の一員だからどうした。そんなことは関係ない。貴様はここで死ぬのだから」
隠し持っていたナイフを引き抜いた。
逃げ切るにはこいつを殺すしかない。
「……そのナイフにも闇魔法が宿っていますね。禍々しいオーラです」
「さすがにわかるか。これに切り裂かれると、傷口から闇魔法が身体を浸食するぞ」
【闇侵しのナイフ】
属性:闇
ランク:S
能力:切り傷や刺し傷から闇魔法を送り込む。耐性のない者は、瞬く間に体が腐り落ちていく。
私が持っているのは魔族より授けられた一刀。
完全なる殺戮の武器だ。
今まで、どんな邪魔者もこれで抹殺してきた。
「これ以上罪を重ねてはいけません。投降しなさい」
「……」
慎重に間合いを計算する。
こいつがいくら強くても問題はない。
魔法使いたちは必ず呪文の詠唱が必要だ。
そして、発動する魔法が強力であればあるほど長くなる。
相手がいかに手練れだろうと、一瞬の隙をつけば十分に勝機はある。
かすっただけでいいのだから。
「はっ!」
両足に力を込め、猛ダッシュで間合いを詰める。
たった三歩の距離。
私の身体能力なら、中級魔法でさえ余裕を持って躱せるはずだ。
そう、詠唱の隙があるのだから……。
「<セイント・ロック>!」
「な、なに!?」
突然、女の杖から白い光線が放たれた。
いや、光でできた縄だ。
避ける間もなく私に襲い掛かる。
ぐるぐると巻き付き、少しも身動きが取れなくなってしまった。
女は涼しい顔で私を見ている。
こ、これはまさか……。
「無詠唱魔法だと!? 貴様、何者だ!」
「私はただの魔法使いですよ。いいえ、正しくはデレート様が造った杖を持っている魔法使いですね。この杖は無詠唱魔法を可能にしてくれるのです」
「デレート……」
その名を聞いた瞬間、怒りを通り越しもはや呆れるばかりだった。
またあいつか……。
稀代の鍛冶師、デレート。
あの男はどこまで私の邪魔をすれば気が済むのだ。
「もうあなたは逃げられません。観念しなさい」
縛られた衝撃で【闇侵しのナイフ】を落としてしまった。
これ以外の武器はない。
「そうか……私の負けか。あの男に負けたんだな……」
私の計画は全てデレートによって破綻した。
ここまで私を追い詰めるなど、敵ながらあっぱれと言わざるを得ない。
だが……。
「私たちは永久に不滅だ! 魔族が支配する世界を必ず創ってやる! お前たちが間違っていることを絶対に証明してみせる! 私の同胞が必ず……!」
「<セイント・スリープ>」
女が呪文を唱えた瞬間、急速に眠くなってくる。
まずい……寝てはダメだ……。
必死に寝まいと抵抗するが、瞼が容赦なく垂れ下がってくる。
――デレート……あいつは要注意人物だ。ただの鍛冶師ではない。同胞に知らせなければ……。
あがく間もなく、私は暗い意識の底へ深く深く落ちていった。
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