第36話:後悔と終わり(Side:シーニョン⑨)
「シーニョン、貴様はどこまで愚かなのだ? 悪霊を封じていた剣を折るなど……そのような愚か者に出会ったのはわらわも初めてだ」
「うっ……」
兵士たちに捕まった僕は、“陛下の間”に連行されていた。
全身を縄で縛られ、少しの身動きもできない。
いや、身動きできないどころか、痛みで心身ボロボロだ。
こうなったのもデレートのせいだな。
どうしてくれる。
この場にいないあいつに対して、沸々と怒りが湧いてくる。
これが終わったら復讐してやるのだ。
「デレートという稀代の鍛冶師を師匠につけても、貴様の無能は治らなかったようだな。もう一生治らないものだと、わらわもよく分かったわ」
「な、なんですと!? その言い方には納得できません! そもそも、僕は無能じゃ……」
真っ向から否定してやろうと思ったが、女王陛下の顔を見て言葉を飲み込んでしまった。
哀れみと哀しみ……たった2つの感情しかない。
怒り溢れる様子より、その表情の方がよほど恐ろしかった。
「さて、シーニョン。貴様の処遇だが……」
「は、はい」
思わず素直に答えてしまったが、次の瞬間にはいつものように強気になれた。
はっ!
処遇?。
今の僕じゃ地方都市のギルドマスターじゃ納得しないぞ。
まぁ、最低限、国軍の専属鍛冶師だな。
デレートの大事なポジションを奪ってやる。
ついでに、あいつの女どももな。
うん。
やはり、僕は心が強い人間のようだ。
「我が国に死罪はない。よって、貴様は監獄行きとする」
「…………え?」
女王陛下が放った言葉は、僕の心に冷たく突き刺さった。
か、監獄行き……?
死罪のないグロッサ王国では最大の刑罰だ。
な、なぜ、この僕がそんな目に遭わなければならない。
「もう貴様の顔さえ見たくもないわ。さぁ、連れて行け」
「お、お待ちください、女王陛下! 僕はギルドマスターまで勤めた人間なのですよ! そんな有能な人間を監獄行きにするなど、国家としてのロスは測り知れませ……ああああ!」
「だから貴様は無能なのだ! なぜ自覚できない!」
鞭の激しい衝撃が身体を襲う。
も、もう勘弁してくれ。
僕は悪くないのに。
「「さあ、来い! お前の居場所はここじゃない! 地下牢だ!」」
「うぐっ! こ、こら、もっと丁寧に接しろ!」
兵士たちに身体を掴まれ、地下室へ連れて行かれる。
牢屋に着くと、乱暴に押し込まれた。
「ここがお前の終の棲家だ。死ぬまで外に出られることはない。立派な家で良かったな」
「壁に向かって意識の高さとやらを一生語っていてくれ」
「こいつのせいで王宮は大変なことになった。でも、デレートさんがいれば大丈夫だろう。あのお方がいらっしゃってくれて本当に良かったぜ」
「ま、待て……待ってくれ」
すがりつくように格子の隙間から手を出したが、兵士たちはスタスタと去っていく。
一人、ポツンと取り残される。
牢屋はどこからか雨漏りしており、常にじっとりと濡れている。
壁には何匹もの気色悪い虫が。
こ、こんなところで残りの人生を送るのか?
そんなの絶対にイヤだ。
認めてなるものか。
「時よ戻れ! 頼む、巻き戻ってくれ! 時間よ戻れえええ!」
力の限りいくら叫んでも何も起こらない。
ちくしょう……なんでだよ。
僕は選ばれし人間なのに。
がくりと膝をついたとき、僕は自分の愚かさをようやく理解した。
――間違っていたのは……まぬけは僕だったんだ。
鍛冶ギルドにいながら槌も握らず根回しばかり。
自分の仕事は同僚にやらせる。
興味があるのは、自分を良く見せる方法を考えることだけ。
人の評価ばかり気にする毎日を送る。
金属板の加工もできないギルドマスター。
考えれば考えるほど救いようのない愚か者だ。
脳裏に一人の男が思い浮かぶ。
こんなクズの相手を30年もしてくれた男だ。
「デレート……デレート! どこだあああ! 頼む、ここから出してくれええ! 修行するから! 修行頑張るからさあああ!」
まさしく、最高の師匠だった。
あいつの言う通りにすれば、槌を握ったことがない僕でも簡単に金属の加工ができた。
指導は優しく、決して声を荒げることもなかった。
あのまま努力を重ね改心していたら、周りの兵士たちも見直してくれただろう。
それなのに、せっかく用意してくれたやり直しのチャンスを無駄にした……。
鍛冶師として人生をやり直すチャンスを……。
自覚した瞬間、頭の中が真っ白になり、目の前は暗くなっていく。
――明るい未来になるはずだったチャンスを……僕は全部自分で捨ててしまったのだ。
後悔、後悔、後悔……。
真面目にやれば良かったという遅すぎる後悔に、僕の心は木っ端微塵に砕かれた。
お忙しい中読んでいただきありがとうございます
少しでも
・面白い!
・楽しい!
・早く続きが読みたい!
と思っていただけたら、ぜひ評価とブックマークをお願いします!
評価は広告下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にタップしていただけると本当に嬉しいです!
ブックマークもポチッと押すだけで超簡単にできます。
何卒応援よろしくお願いします!




