第34話:神器
「先生、私はベイオネットと一緒に【カラミティ】を回収してきます」
「わかった。俺は準備を整えておく」
「イズには先生の護衛を務めてもらいます。それでは失礼します」
女王陛下との話が終わった後、俺たちはすぐ行動に移った。
剣の回収はミリタルとベイオネットが向かう。
俺とイズは鍛冶場で修理の準備だ。
みんながこの辺りの悪霊は倒してくれたからか、建物の被害はそれほどじゃない。
壁の一部が壊され、ぽっかりと空いているくらいだ。
床にも小さなひび割れがあったりするが、作業に支障はないだろう。
素材の数々も無事なようだ。
火床に火をつけ、素材を厳選し、道具を並べる。
「先生! 【カラミティ】を持ってきました」
「真っ二つに折れちゃってるよ!」
火床が十分温まったところで、ミリタルとベイオネットが戻ってきた。
抱えている剣をそっと作業台の上に乗せる。
目を奪われるほど、大変に美しい剣だった。
【惨禍の封じ剣:カラミティ】
属性:聖
ランク:SS
能力:数百年前にグロッサ王国を襲った悪霊を封じている剣。伝説の大名工が製作したとされる。
「これが【カラミティ】……」
今まで見てきたどんな剣より美しく、目が離せなくなるほどの存在感を放っている。
まるで製作者の魂が宿っているかのようだ。
「先生、直せそうでしょうか……?」
「ああ、なんとかするよ」
ここには道具も素材も十分にある。
後は修理するだけだ。
しかし……ランクSSか。
当たり前だが、そんな高ランクの品を造ったこと、ましてや修理した経験などない。
心の中に微かな不安が生まれるが、すぐに追い払った。
――今までの努力を信じろ、デレート。
目をつぶり深呼吸を数回繰り返すと気持ちも落ち着いてくる。
「……よし、始めるか」
素材はすでに選んである。
【閃光電岩】
属性:雷
ランク:S
効果:落雷の莫大なエネルギーがこもった鉱石。力を加えると激しい稲妻が迸るので、加工には注意が必要。
【海流魔石】
属性:水
ランク:S
効果:深い海底にしか存在しない鉱石。水圧によって莫大な水の魔力が封じ込まれている。
【白金金剛石】
属性:無
ランク:S
効果:世界三大硬石の一角。この素材で造られた鎧は、同じ素材でないと傷一つつかない。様々な属性の魔力を蓄える力を持つ。
【火龍の眼石】
属性:火
ランク:S
効果:活火山に生息するとされる火龍の眼が、死後に鉱石となったもの。力を加えるたび熱くなる。
【風神石】
属性:風
ランク:S
効果:風の神が持っている扇子にはめ込まれている宝玉と同じ鉱石と言われている。加工すると身体を切りつける疾風が発生する。
高ランクの素材を使えば時間も体力も節約できる。
貴重な品々ではあるが、存分に使わせてもらおう。
四大属性の魔力を土台に、聖属性の魔力を付与する。
ここでの仕事を通して、だいぶ要領も掴めていた。
だが、どれも加工が難しい素材。
少しも気を抜くことはできないな。
自然と集中力が高まる。
「みんな、少し離れていてくれ」
「「は、はい」」
刀身が折れているから、これも新しく造り直しが必要だ。
【白金金剛石】をベースにしよう。
高温で熱して溶かす。
次は【閃光電岩】と【火龍の眼石】だな。
相性が良い雷と火属性を使って、次に入る属性の器を造るイメージだ。
細かく砕いて合金の中に溶かし込む。
「せ、先生、何かお手伝いできることはありませんか? 見ているだけでは……」
「そうだな……いや、大丈夫だ。俺一人でやっちまおう。魔力をたくさん使えば、その分作業も短縮できるしな。ありがとうよ」
【海流魔石】は水の中で砕くことで魔力の消失を防げる。
【風神石】は素体の温度が下がったところで混ぜ、魔力の衝突を軽減する。。
後はひたすら叩いて磨くだけ。
魔力の迸りが鋭い刃のように俺の身体を傷つける。
だが、そんなことはどうでもいい。
国の未来は俺の手にかかっているのだ。
一心不乱に槌を振るう。
少しの不純物も残さないつもりだった。
数十分振るった結果……。
「で、できた……! 修理できたぞ!」
「やりましたね、先生!」
「さすがデレート様です!」
「パパすご~い!」
俺たちの目の前には、刀身が復活した美しい宝剣が姿を現した。
【惨禍の封じ剣:カラミティ改】
属性:聖
ランク:SS
能力:悪霊を封じる力を持った宝剣。修理修繕できるのは一握りの鍛冶師だけ。
刀身も柄も完璧だ。
「修理できたが、この後はどうするんだろう」
「先生の魔力を送りこんでください! それで悪霊は封印されるはずです!」
「よ、よし、わかった! 聖なる剣よ、悪霊を封じたまえ!」
魔力を注ぎ込むと、【カラミティ】が眩しく輝いた。
どこからか飛んでくる細かい光の粒をどんどん吸い込んでいく。
「こ、これでいいのか……?」
「先生、外を見てください!」
破壊された壁から外の様子を見る。
黒い影のような悪霊が弾け、次々と光の粒子に変わっていた。
「どうやら、悪霊たちはちゃんと封印されているようだな」
「ええ……先生の勝利です」
「デレート様、女王陛下と繋がりました」
イズが魔法で例の鏡を作ってくれた。
すでに女王陛下が映っている。
「デレート、よくやった。そなたのおかげで王宮が……いや、国が救われたな。グロッサ王国を代表して深く感謝の意を表する」
「ありがとうございます、女王陛下。俺も悪霊が消えてくれてホッとしました」
引き続き、警戒は怠らないようにと言われ、ぷつりと通信は切れた。
「通信ありがとうな、イズ」
「いえいえ、大したことではありませんから」
「わたしもパパに褒められたい~」
「ベイオネット、先生にまとわりつかない」
目に見える範囲の悪霊はどんどん消えていく。
大丈夫そうだな、と安心していたら、王宮にいる人たちが駆け寄ってきた。
「悪霊が消えたのはデレートさんのおかげなんですね! 本当にありがとうございます! まさしく、命が救われました!」
「あなたは恩人です! 死ぬしかないと思ってました!」
「悪霊でさえデレートさんには勝てないんですね!」
兵士や王宮の人たちは、バンザーイ! バンザーイ! と空高く手を挙げる。
大仕事をやり遂げた達成感を持ちながら見守っていると、ミリタルがこそっと話してきた。
「先生、剣に名前を刻んだりしないのですか? 後世に先生の名前が残りますが」
……名前か。
思い返せば、俺は自分の造った製品に名前を刻んだことは一度もなかったな。
そして、今回もそうだ。
なぜなら……。
「名前なんか刻まないよ。満足いく物が造れたんだ。それで十分さ」
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