第33話:悪霊の襲来
「それでね、パパ。わたしの撃った魔弾でスタンピードのボスモンスター倒したの」
「へ、へぇ~、すごいねぇ~」
「ベイオネット、少し離れなさい。先生も困っているでしょう」
「そうですよ。デレート様もお疲れなんですから、ベタベタするのはやめましょうね~」
【シンケット】を修理してから数時間後、俺たちは鍛冶場で一休みしていた。
お茶を飲みながら昔話に花を咲かせている。
ベイオネットがやたらとまとわりついてくるので、ミリタルとイズがそれを引き剥がしまくっていた。
話していると、十五年の歳月は長いんだなと実感する。
子どもらしさは消え、みんなもうすっかり大人の女性だ。
我が子の成長を見ているようで嬉しい反面、やっぱり寂しいな。
「先生、次は私の話を聞いてください」
「いいえ、ミリタルさん。次はわたくしの番ですよ」
「わたしだってもっとパパと話したいよ~」
しかし、彼女らが時折り見せる表情は子どものそれだった。
知り合ってからもう十五年も経っているのに、昔と変わらず接してくれる。
それがどれだけ尊いことなのかは考えなくてもわかる。
――……俺は本当に幸せ者だ。
茶をすすりながら、静かに思うそのときだった。
「大変だ―! 王宮が何者かに襲われている! 武器を取れー!」
「助けてえええ! 黒い影みたいなモンスターがそこら中に……きゃあああ!」
「まずは火を消すんだ! 水魔法の使えるヤツはいないか!? このままじゃ王宮が火の海に包まれるぞ」
突然、外が騒がしくなった。
人々の怒号や悲鳴、そして地響きのような衝撃が伝わってくる。
半鐘と思われる甲高い金属音まで鳴り響いていた。
明らかに異常事態だ。
「な、なんだ!?」
「みんな外に出て見ましょう!」
急いで外に出ると、あまりの光景に言葉を失った。
逃げ惑う人々、傷ついた兵士、破壊され尽くした王宮……。
まるで魔族の群れに襲撃されたかのようだ。
「な、なんだよ……これ……。めちゃくちゃじゃないか……」
「「ひ、ひどい……」」
大惨事じゃないか。
いったい何が起きたんだ。
空中には謎の黒い影が漂っている。
あいつらが襲ったのか?
そう思った瞬間、無数の黒い影が襲い掛かってきた。
「うわっ! な、なんだ、こいつら!?」
「先生は下がっていてください! 【シンマ】抜刀!」
ミリタルが剣を抜いた瞬間、【シンマ】が光り輝いた。
その刀身は闇のような漆黒から、太陽を思わせるほどの力強い純白になっている。
な、何が起きたんだ……。
そうか、彼女が使うとああなるんだ。
「神速の舞!」
瞬きの後、ミリタルが消えた。
【アアアアア!】
そして次の瞬間には、何十体もの黒い影が断末魔とともに弾け飛んだ。
ミリタルは消えたんじゃない。
超人的なスピードで敵を切り裂いているのだ。
「<セイント・レーザー>!」
イズが無詠唱で魔法を唱える。
【ダイウォンド】の宝玉から光の光線が無尽蔵にあふれ出し、猛スピードで黒い影を襲う。
その光線に当たると、黒い影は塵のように跡形もなく消え去ってしまった。
「速射連撃!」
【シンケット】を構えたベイオネットは、一発も外すことなく黒い影をどんどん撃ち落とす。
一度も装填することさえない超連続の攻撃だ。
5分も経たずに周囲の黒い影は消滅した。
「す、すごいな、みんな。あんなたくさんいたのに一瞬で倒しちまった」
「ですが、まだ油断はできません。もっといるはずです」
「わたくしもそう思います。これだけの被害が出ていますから」
「これはかなりヤバい状況だね」
黒い影は次々と現れる。
彼女らが険しい顔で辺りを見たとき、兵士や隊士が大慌てで駆け寄ってきた。
みな手足から出血し、体は泥や煤で汚れている。
「軍団長! ご無事でしたか! デレート殿にイズ殿も!」
「王宮が襲撃を受けています! 大変な被害です!」
「隊長! 銃士隊全員揃いました!」
彼らの報告を聞くと、ミリタルたちはすぐにテキパキと指示を出した。
「1小隊5人に分かれ、非戦闘員の迅速な避難を誘導しろ! 黒い影は各個撃破! 女王陛下は心配するな! 私が向かう!」
「「はっ!」」
兵士たちは5人1グループになり、王宮へと向かって行く。
「みんなは黒い影の撃破に専念! 魚鱗隊列をとれ!」
「「はっ!」」
ベイオネットの掛け声で隊士は魚の鱗の形のような隊列をとった。
銃身を空に向ける。
「味方に当てるな! 撃てっ!」
銃弾が一斉に放たれ黒い影を打ち抜く。
ベイオネットのように魔弾ではないようだが、密集隊列で撃つことで威力を倍増しているのだろう。
さすがは軍団長と銃士隊の隊長だな。
「わたくしは女王陛下のご様子を確認してみます! <ミラージュ>!」
イズが魔法を唱えると、俺たちの前に六角形の鏡が現れた。
鏡面は波打っていたが、徐々に静まり女王陛下が映った。
「「女王陛下、ご無事ですか!?」
「わらわは問題ない。襲おうとする不届き者は鞭でめった打ちにしてやったわ」
後ろの方では、ボロボロの黒い影が消えていく。
やはり女王陛下は大変にお強い方のようだ。
ミリタルが代表して話す。
「あの黒い影はいったい何でしょうか。見たこともない敵です」
「あれは過去、グロッサ王国を襲った悪霊だ。おそらく、王宮の隠し部屋に保管していた【カラミティ】が何者かに破壊されたと思われる。犯人は目下探索中だ」
「「あ、悪霊!?」」
女王陛下の言葉に驚きを隠せない。
あの黒い影が悪霊……マジかよ。
想像以上にヤバい状況のようだ。
「女王陛下、悪霊を退治しきるにはどうすればよろしいのでしょう。各個撃破は試みておりますが」
「うむ。悪霊を封じていた剣を修復しない限り、ヤツらはいつまでも生まれ続ける。そこでだ、デレート。そなたに【カラミティ】を修理してほしい」
「え……俺にですか?」
【カラミティ】は伝説の大名工が造ったとされる。
まさか、そんな剣の修理をすることになるとは。
女王陛下は真剣な表情で静かにうなずいている。
「この国にそなたを超える鍛冶師はいない。そなたにしかできないのだ。頼む、国を救ってくれ」
「わかりました……俺が絶対に修理します」
答えたのち、ふと自分の両手を見た。
タコだらけでガサガサ、お世辞にもキレイとは言えない。
相変わらず、オッサンの手がそこにはあった。
でもそれは、長年に渡る仕事の結果だ。
――国の未来はこの手にかかっているのか……。
気合いを入れるとともに、俺は力強く拳を握った。
お忙しい中読んでいただきありがとうございます
少しでも
・面白い!
・楽しい!
・早く続きが読みたい!
と思っていただけたら、ぜひ評価とブックマークをお願いします!
評価は広告下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にタップしていただけると本当に嬉しいです!
ブックマークもポチッと押すだけで超簡単にできます。
何卒応援よろしくお願いします!