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第32話:覚悟しろデレート(Side:シーニョン➆)

「うぐっ! 何やつ……!」


 どさりと最後の衛兵が床に崩れ落ちる。

 エージェンに案内され、僕は王宮の隠し部屋まで来ていた。

 なぜ知っているのかわからないが、これまた隠し通路と思われるルートを駆使して、あっという間にここまで来たのだ。


「さぁ、シーニョン様。この扉の向こうに【カラミティ】は保管されております」

「う、うむ……」


 扉には高度極まりない魔法陣が展開されているが、エージェンが謎の魔道具をかざすと一瞬で消え去ってしまった。

 こいつはいったい何者なんだ。

 衛兵との戦闘だってすぐに片がついてしまった。

 得体の知れない人物だ。

 想像以上の出来事が続き不安になってくる。

 いや、というより……。


 ――こんな有能な人物に好かれるなんて、僕はやっぱり選ばれし人間なんだ……!


 事実を再確認して気分が高揚する。

 エージェンが静かに僕の手を握った。

 絹のような手触り。

 たまらん。


「シーニョン様、準備ができました。お入りくださいませ」

「よし、中に入ろう」


 エージェンの手を強く握り返し、室内に入る。

 がらんとしており、拍子抜けするほど殺風景だった。

 ある一点を除いては。


「あちらに浮いているのが【カラミティ】でございます」

「そ、そうみたいだな」


 中央に鎮座されたテーブルの上に、一本の剣が浮かんでいた。



【惨禍の封じ剣:カラミティ】

属性:聖

ランク:SS

能力:数百年前にグロッサ王国を襲った悪霊を封じている剣。伝説の大名工が製作したとされる。



 カ、【カラミティ】だ。

 黄金の柄に純白の刀身。

 ひとりでに輝いており、見る者の心まで聖なる光が差し込むようだ。

 まさしく、伝説の聖剣という呼び名がふさわしい。


「シーニョン様、どうぞ破壊してください。数百年前の時を経て、もはや悪霊を封じ込む力しかありません。すぐに壊せるはずです」

「う、うむ……そうだな……」


 たしかに、エージェンの言うように【カラミティ】はボロボロで劣化している。

 力を込めれば簡単に折れそうだ。

 しかし、ここに来て少し怖気づいてきた。


「エージェン、本当に悪霊は僕を襲わないんだろうな?」

「ええ、もちろんでございます。シーニョン様はこの世を統べるべき、意識が高いお人。そのようなお方が襲われるはずがありません」


 移動しながら聞いた話だと、悪霊は意識の低い人間を攻撃する性質らしい。

 つまり、日頃から意識が高い生活を送っている僕を襲うはずがないということだ。

 むしろ、悪霊は僕の言うことに従う可能性まである。


「今こそ悪霊を解き放ち、シーニョン様がトップとなるビジョンをもたらすのです!」

「そうだ! 僕が正しく評価される世界を造るんだ!」


 【カラミティ】を膝に乗せた瞬間、頭の中にとある考えが浮かんだ。


 ――まさか、この剣まであいつが造ったとか言わないよな?

 

 ははっ、ありえない。

 【カラミティ】は数百年前に造られた剣だ。

 あいつが生きているわけないだろうが。

 そんなことを考えながら、力の限りへし折ってやった。


【アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!】

「ぐああああっ!」


 その瞬間、折れた刀身からものすごい衝撃波が迸り、後ろの壁まで吹き飛ばされた。

 赤ん坊の産声みたいなとんでもない叫び声が響き渡る。

 頭が壊れそうで、力の限り耳を抑えていた。


「エージェン! どうにかしろ! エージェン!」


 あの女の姿が見えない。

 ど、どこに行きやがった。

 探している間にも、刀身からはおびただしい数の黒い影が溢れ出る。

 部屋の隙間を縫うようにして、どんどん外へ出て行った。


「お、おい、エージェン! どこ行った! おおい!」


 いくら叫んでもエージェンは現れない。

 この僕を差し置いて逃げやがったんだ。

 あんなに調子の良いことを言っていたくせに。


【ア……ァ…………ア……】

「……え?」


 気が付いたら、目の前に悪霊が佇んでいた。

 人ともモンスターとも言い難い、不気味な顔で僕を見ている。

 いや、大丈夫だ。

 恐れることはない。

 襲われるのは意識が低い人間だけだ。

 僕は大丈夫。


【アアアアアアアアアアアア!】

「うわあああああ!」


 意識が高い人間は大丈夫と聞いていたのに、悪霊たちは僕に襲い掛かってきた。

 とにかく走って逃げまくる。

 なんということだ。

 エージェンに騙された。

 せっかく、神に選ばれし僕が丁寧に接してやったというのに!

 ふざけるな!

 とはいえ、まずは悪霊どもの対処だ。

 きっと、意識の高さを見せつけてやればいいに違いない。


「こらっ! 僕はギルドマスターまで勤め上げた人間だぞ! 今回の件はアジェンダに上がっていたのか! いや、それよりもイミディエイトボスのコンセンサスは取れているのか!?」

【アアアアアア! アアアアアアアアアアアア!】


 僕の言葉などまるで意に介さず、悪霊たちは壁や床を破壊しながら襲ってくる。

 だ、誰でもいいから僕を助けろ!

 必死になって、逃げて逃げて逃げまくる。

 あちこちを走り回っていると、悪霊が破壊した壁からどうにか脱出することができた。

 外には兵士たちが大勢いる。

 よし、お前ら僕を助けたまえ。

 しかし、兵士たちは悪霊を見ると、絶望の表情で固まった。


「おい、何だよ、あれ! モンスターか!? どうして王宮の中にいるんだ!」

「わ、わからん! それよりもすぐに女王陛下に知らせろ!」

「住民たちの避難も急げ! 急いで戦闘態勢を……ぐああああ!」

【アアアアアアアアア! アアアアアア! アアアアアアアアア!】


 目の前にいた兵士たちが、虫けらのように吹っ飛ばされた。

 悪霊たちは手当たり次第に人間を襲っては建物を壊しまくる。

 一秒経つごとに、どんどん姿を変える王宮。

 辺りには血が飛び散り、あちこちで激しい炎が燃え盛っている。

 四方八方では悲鳴の嵐。

 その光景を見た瞬間、全身の血の気が引いた。


 ――ひょっとしてこれ…………ヤバいんじゃね?


 茫然自失としている間にも、王都では聞こえるはずがない半鐘の音がいつまでも鳴り響いていた。

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