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第3話:あの子は軍団長になっていた

「ミリタル……ずいぶんと大きくなったな……」

「やっぱり先生でしたか! そうじゃないかと思ったんですよ」

「まさかこんなところで会うとは思わなかった」

「それは私のセリフです、先生」


 ミリタルは俺の手を握り、嬉しそうな様子で振り回した。

 普段は冷静沈着な性格だったが、笑うと子どものように無邪気な笑顔を見せる……。

 そういうところも変わっていないな。

 最後に会ったのは十五年も前なのに、不思議とよく覚えている。


「軍団長と知り合いなんてすげえな、あのオジサン」

「有名な鍛冶師なんだろうか」

「知識もたくさんあるみたいだしな」


 群衆たちの言葉に、思わず笑いそうになってしまった。

 あいにくと俺はそんなすごい鍛冶師じゃない。

 地方出身の単なる無銘の鍛冶師だ。

 でも、かつての子どもに出会えたのは素直に嬉しい。

 懐かしさに浸っていたら、兵士たちがおずおずと話しかけてきた。


「「軍団長、そちらの男性は……?」」

「こちらは幼少期、私の面倒を見てくれていた方だ。少し話していくから、お前たちは先に帰ってくれ」

「「御意」」


 ミリタルに命じられ、屈強な兵士たちは去っていく。

 なんかすごい威厳だ。

 15年前彼女は7、8歳だったから、まだ20代半ばだよな。

 俺とは偉い違い……あっ、そういえば。


「さっきから軍団長って呼ばれているけど、ミ、ミリタルってグロッサ軍の軍団長なの?」

「はい。おかげさまで、グロッサ軍を率いる立場になれました」


 ……マジか。


「ものすごい大出世じゃないか……」


 軍団長と言ったら、国軍のナンバー2だぞ。

 昔は一緒に遊んでいたのに……。

 急に彼女がはるか遠くの存在に見えてきてしまった。

 片や俺は無職のオッサン(40)。

 あまりの身分の違いに自信を失い、存在を消されそうになる。


「これは全て、先生が造ってくれた剣のおかげなんです」

「……ん? 剣? どういうことだ?」

「ここで話すのも何なので、お店の中にでも入りましょう」

「あっ、ちょっ、待っ」


 ミリタルは嬉々とした様子で俺の手を引いていく。

 な、何がどうなっている……?


「あのっ、すみませんっ」


 連行されそうになっていたら、俺たちを呼び止める声が聞こえた。

 さっきのお嬢さんだ。

 俺たちの前でペコリとお辞儀する。


「助けていただいて……本当にありがとうございました」

「いや、俺は何もしてないよ。ただ嘘を見過ごすことができなかっただけだから」

「怪我がないようで良かった」


 ミリタルの口調は一転して堅苦しい感じになった。

 俺と話すときは昔のまんまなのに……。

 切り替えの速さに、彼女がすっかり軍人になっていることを実感する。


「わたしはこの近くで宿屋をやっているテルと言います」


 お嬢さんはそのまま立ち去るかと思ったが、意外にも自己紹介してくれた。

 肩くらいまでの赤い髪に茶色の目。

 ミリタルよりちょっと年下かな。


「テルさんは宿屋の人だったんだ。でも、どうしてファルシオンなんかを」

「たまに副業としてモンスターを討伐することがあるんです」

「なるほど……」

「わたしには金属の材質なんてわかりませんから、あのままじゃ泣き寝入りしていました。本当にありがとうございます」


 テルさんは俺の手を握り、改めてお礼を言ってくれた。

 露天商に詰め寄っているときは気が強そうに思えたが、結構礼儀正しい人なんだな。

 まだ若いのに立派だ。

 そして……ミリタルがなんとなくピリピリしているのはなぜだ?


「さて、先生。そろそろ行きましょうか」

「え、どこに? ……うぉっ」


 突然ミリタルが俺の腕を掴み、猛烈な勢いでどこかへ引っ張っていく。

 スラリとしていて細いのにとんでもない力だ。

 ぐんぐん歩かされている後ろから、テルさんの大きな声が聞こえてきた。


「わたしの宿は王都のイースト地区にあります! お礼を差し上げたいので、ぜひ泊まりに来てくださいねー!」

「わかった。後で行……」

「喋ると舌を噛みますよ、先生」


 テルさんに返事しようとしたらミリタルの冷たい声が聞こえ、何も言えなくなってしまった。



□□□



「さあ、先生。お好きな物をお選びください。この店のメニューはどれも素晴らしいですよ」

「そ、そうだな」


 ミリタルに連れて来られたのは、王都の中心にある高そうな(ここ重要)カフェの個室。

 どれもこれも一日の食費が消し飛びそうな値段だ。

 金はそこそこあるものの、急に心細くなる。

 

「お金のことなら心配しないでください。先生に払わせるようなことはしませんので」

「ぇぅぁ……」


 見透かされたように、ミリタルに告げられる。

 情けなくて涙が出そうだ。

 とりあえず、一番安い紅茶を頼んでおいた。


「そ、それにしてもここは良い店じゃないか。ミリタルの行きつけなのか?」

「ええ、国内の良い茶葉が揃っているんです。特に北方の茶葉に関しては国内最高峰かもしれません」

「へ、へぇ~」


 俺とは住む世界がまるで違うのだが。

 最後に紅茶を飲んだのっていつだっけ?

 さっそく話題が尽きそうで冷や汗をかいていたら、さて……とミリタルは姿勢を正して俺を見た。

 軍人モードに入った彼女につられ、俺も緊張感が高まる。


「実は……先生にずっと頼みたいことがあるんです」

「頼みたいこと? 俺に?」


 手紙にもあったが、こんなしがないオッサンになんだろうな。

 ミリタルは暫しの間考えこんだかと思うと、意を決した真剣な表情で告げた。


「先生。グロッサ軍の……専属鍛冶師になっていただけませんか?」


 ミリタルの口から言われたことは、まったく予想だにしないことだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 下心丸出しの「先生」なんか気持ち悪い
2023/07/08 18:34 退会済み
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