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第29話:三人目の子どもが

「みなさま、初めまして。わたくしはグロッサ魔法学院の筆頭教官、イズと申します。どうぞお見知りおきを。デレート様には杖を造っていただき、そのおかげで筆頭教官にまでなれました」


 イズが挨拶すると、兵舎は拍手と歓声で包まれた。

 シーニョンは悪臭のため、センジさんに命じられ外で体を洗っている。

 イズから休暇なのでもうしばらくはここにいますと告げるられると、兵士たちも喜んでいた。


「魔法学院の筆頭教官なんてそう簡単には会えないぞ。これもデレートさんのおかげだな。感謝しなければ」

「筆頭教官の杖まで造ったのか。デレートさんは本当になんでも造れる鍛冶師だ」

「それを自慢しないんだから立派だよな。すごい人格者だと思う」


 兵士や鍛冶師の称賛の声に気恥ずかしくなる。

 俺は別にそんな大したことはしていないんだけどな。

 ミリタルがこそっと話しかけてくる。


「先生は何をしても褒め称えられてしまいますね」

「嬉しいのは嬉しいけど……やっぱり俺には分不相応だよ、こういうのは」

「なにを仰いますか。わたくしは事実を述べただけですわ」


 くぅぅ……周りが良い人過ぎて涙が出る。

 俺は本当に恵まれているな。


「おーい! 銃士隊が帰ってきたぞー!」


 しみじみとしていたとき、兵舎の外から大きな声が聞こえてきた。

 周囲はとたんにザワザワとしたどよめきに包まれる。


「銃士隊の帰還だってよ。北部で発生したスタンピードの鎮圧が完了したのか」

「3か月はかかるだろうって話だったけど、まだ一か月しか経ってないよな」

「隊長が強過ぎたんだろ、いつものことさ。早く行ってみよう」


 兵士たちは慌ただしく外に出て行く。

 ミリタルとイズは残っていたので、彼女たちに聞いてみた。


「みんなどうしたんだろう。というより、銃士隊ってなんだ?」

「先生はリーテンにいらしたので知らなかったですね。近年、新しくできた国軍の特別組織です。その名の通り、剣ではなく銃を扱う部隊です」

「へぇ~、そんな組織ができていたのか。時代も変わったもんだな」


 意図せず、ものすごいオッサン発言をしてしまった。

 気を抜いたらすぐにこれだ。


「先生、ベイオネットが隊長をやってるんですよ」

「彼女もデレート様に会いたいでしょう。さぁ、我々も行きましょう」

「……ベイオネット?」


 って、誰だ?

 と続ける前に、手を引かれ歩きだした。

 そんな人、俺の知り合いにいたっけ。

 いや、なんとなく覚えている。

 おぼろげながら聞き覚えのある名前だ。

 たしか、あの子は……。

 考えていたら、銃を持った兵士たちの前に来た。

 十数人くらいの部隊だ。


「「軍団長閣下! グロッサ銃士隊、ただいま帰還いたしました! スタンピードも無事に鎮圧!」」


 彼らは銃を右肩に構え、一部の隙もないほどに整列する。

 す、すげえ……さすがは国軍。

 先頭に一人でいるのがたぶん隊長だよな。

 女性なんだ。

 と思ったら、彼女はミリタルを見つけると、にぱ~っとした笑顔になった。


「ミリちゃん、ただいま~! モンスター倒して来たよ~」

「……ベイオネット隊長。言葉使いを直せとあれほど言ったと思うが?」

「え~、そんなのいいじゃ~ん。長い付き合いなんだからさ~」


 女性隊長はミリタルにベタベタくっついている。

 濃い紫のショートボブに、同じく紫色の猫みたいな丸い瞳。

 外ハネした髪が活発な印象もあり、本当に猫みたいな娘だった。


「あれ? なんでイズちゃんもいるの?」

「休暇を取ってお邪魔しているんです。こちらにはデレート様もいますよ」

「……え?」


 イズが手の平で示すと、隊長はポカンと俺を見た。

 ただでさえ大きな目がさらに大きくなる。

 その表情を見た瞬間、昔の記憶がブワッと頭の中に流れ込んできた。


「パパ~! 会いたかったよ~! どうして来たことすぐに教えてくれなかったの~!」

「だ、だから、パパ呼びはやめなさいって」


 この娘はベイオネット。

 十五年前、俺が一緒に遊んでいた子どものうちの一人だ。

 まさか、こんなところで再会できるとは思わなかった。


「デ、デレートさんって、ベイオネット隊長の父親だったのか……?」

「マジかよ。すごい繋がりだな」

「あんな美人の娘さんがいらっしゃるなんて羨ましい」


 周りの兵士たちに誤解が広がる。

 これは違くて、と弁明していたら、シーニョンがやってきた。

 なんかまたキレそうだな。


「デレートおおおお! 誰だ、その美人はあああ! なんでお前ばっかりいいいい!」

「パパ~! 変な人がいる~!」


 やはり、シーニョンはキレだしてしまった。

 ベイオネットが俺の後ろに隠れたのを見て、さらにヒートアップする。


「だから、どうしてお前ばかり美女と仲良くしてるんだああああ! おかしいだろおおお!」

「いや、そういうことじゃなくてだな。まずは落ち着いて話を……」

「そうやって僕を騙すつもりなんだろうがああああ! 僕は騙されないぞ! 絶対に何かトリックがあるはずだ! ……ぐあああ!」

「そんなものあるわけないだろうが! お前がモテないのは便所屋さんだからだよ!」


 シーニョンはセンジさんから、もう何度目かのしごきを受ける。

 キレなければいいのに……。

 彼はどうして学ぼうとしないのだ。

 シーニョンがどこかへ連行されていくと、ベイオネットが嬉しそうに話しかけてきた。


「パパが造ってくれた銃で、わたしは隊長になれたんだよ。造ってくれて本当にありがとうね」

「え? そんなの造ったっけ?」

「ほらこれ」


 彼女は笑顔で銃を差し出した。



【神域のマスケット銃:シンケット】

属性:聖

ランク:S

能力:使用者の魔力を魔弾として打ち出すことができる銃。魔弾からは神域が展開され、邪悪なる者を瞬時に浄化する。



 なんだこれは。

 腕くらいの長さの銃身は品のある黒鉄色だ。

 銃床の表面には魔法陣が刻まれていた。

 これだけ大きければそこそこ重いはずなのに、銃としては驚くほど軽い。

 他の隊士の銃と見比べてみたが、明らかにこれだけ様相が違った。


「べ、ベイオネット。この銃はなんだ?」

「パパが造ってくれた銃のおもちゃあったじゃん。あれが進化したの」

「進化……」


 またか。

 思い返せば、ベイオネットにもおもちゃを造ってあげたことがある。

 彼女の言うように銃のおもちゃだ。

 しかし、それがここまで進化するとは……俺にも原理がよくわからん。


「でもね、パパ。最近調子が悪くなってきたの。パパ以外に直せる人がいなかったから、ずっと修理しなかったのも良くなかったんだけど」

「たしかに、ところどころ歪みがあるな。引き金も少し引きにくいし。じゃあ、すぐにでも修理するか」

「やった~! パパ、大好き~」

「だ、だから、くっつくなって」


 さっきからミリタルとイズの表情が硬いんだから、なぜか。

 周りの人たちは温かい目で見てくれているけど。

 ベタベタまとわりつくベイオネットの対処をしていると、突然誰かの大声が轟いた。


「おい、デレート! その銃は僕がリペアする!」


 シーニョンが力強く叫んでいた。

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