第28話:女王陛下にも褒められる
「デレート、今回もお手柄だったな」
「あ、ありがとうございます、女王陛下」
王都に戻った俺たちは、女王陛下に謁見していた。
グロッサ魔法学院の一件の報告と、それに対する賛辞を呈したいとのありがたいお話だ。
しかし、“無能に厳しい……”という言葉がどうしても頭から離れず、俺は終始緊張していた。
「エレナから聞いたが、鍛冶師ならではの視点から解決したそうじゃないか。魔力の余波に目を付けたのは見事だ。褒めて遣わす」
「ありがたき幸せ」
褒められて嬉しいのは嬉しいのだが、もう少し圧力を抑えていただけないだろうか。
こんな人が実の姉だなんて、エレナ先生はすごい。
俺だったら弟に生まれたことを後悔していただろう。
「イズもミリタルもご苦労だった。異常者を捕まえるのは大変だったろう」
「いえ、私は何も問題ございません。国を守るために、当たり前の行動をしたまでです」
「わたくしも右に同じです。大切な生徒たちを守るために全力を尽くしただけでございます」
二人は本当に淡々と答える。
彼女らの方が大人のは明白だ。
俺もミリタルたちみたいな大人になりたかった……。
「しかし、女王陛下。全てはデレート殿のおかげでございます。この方がいなければ、今も杖の出所すらわからなかったでしょう」
「デレート様が鍛冶師の素晴らしい知識を活かしてくださったからこそ、魔法学院の平和は保たれました」
しかも俺の顔を立ててくれた。
なんてできた女性なんだ……。
女王陛下は満足気にうなずいている。
ああ、平和な時間だ。
色々と心にしみていたら、ギリギリという謎の音が聞こえてきた。
……なんだ?
「ぐぎぎぎぎ……」
シーニョンの歯ぎしりだった。
センジさんと衛兵に腕を掴まれながら、“陛下の間”の隅に立たされていた。
めちゃくちゃ憎しみのこもった目で俺を睨んでいる。
こ、こええ。
「シーニョン。無能な貴様もデレートを見習え。弟子たるもの、師匠の背中から学ぶのが当然だろう」
「だ、断固アグリーできません! 僕はこいつのことを師匠だと思ったことは一度も……ぐああああ!」
「こらっ! デレート殿に向かってなんだ、その口の聞き方は! お前なんか、本来なら弟子にすらなれないんだぞ!」
すぐさまセンジさんや衛兵たちにしばかれていた。
血の涙を流しながら頷かされるシーニョン。
そのまま静かになるかと思いきや、またもや騒ぎ出した。
「なんでお前だけそんな美人と一緒にいるんだあああ! 僕はリーテンのギルドマスターだった男だぞおおおお! イケてる僕のそばにいないのはおかしいだろおおおお! ……がああああ!」
「静かにしろと何回言えばわかるんだ! そんなんだからお前はこんな目に遭っているんだよ!」
やっぱり、シーニョンはプライドの塊みたいな性格なんだろうな。
ミリタルとイズは、何も見えない聞こえないという態度でいる。
シーニョンがしばかれる光景を見て、女王陛下はため息交じりに呟いた。
「デレート。あの無能の修行はどうだ? うまくいっているか?」
「え、ええ。シーニョンも根は真面目なので、毎日頑張ってくれています。少しずつではありますが、鍛冶の技術も向上しています」
「ふむ、さようか。まさしく、デレートの指導の賜物だな」
女王陛下は満足気にうなずく。
まぁ、シーニョンも別に腕がめちゃくちゃ悪いってわけではないんだけどな。
謁見が終わったら一段階上の指導をするかぁ……なんて考えていたら、周りの兵士たちの会話が聞こえてきた。
「デレートさんは本当にお優しいな。お忙しいのに便所屋さんの面倒までちゃんと見ているなんて」
「俺だったらぶちギレて終わるわ。クソ無能な上に生意気なだけのオッサンの世話なんて」
「やっぱり、デレートさんは人格者なんだなぁ。俺も見習わなければ」
シーニョンをちらりと見たが、もうとにかく血管が切れそうなほどの青筋が立っている。
本当に切れてしまいそうで心配になってきた。
「な、なぁ、シーニョン。とりあえず落ち着こうぜ? 深呼吸して気持ちを整えてだな……」
「お前ごときが僕に命令するな! 僕はこの世の誰よりも偉い……ぎゃああああ!」
「いい加減にしろ! 女王陛下の前だぞ!」
センジさんたちがシーニョンをぶちのめすのは、もうお馴染みの光景になっていた。
その後すぐに女王陛下との謁見は終わり、俺たちは王宮の外に出る。
日もとっぷり暮れて暗くなっていた。
「じゃあ、俺はそろそろ宿に戻ろうかな」
「デレート様はどちらに泊まってるんですか?」
「イースト地区の宿屋にお世話になってるよ」
「わたくしもそちらに泊まります」
俺たちは宿屋へ向かう。
イズもまたシーニョンの視線が気持ち悪いということで、シーニョンはセンジさんに掴まれ先頭を歩かされていた。
ミリタルはさっきから笑っているが、笑顔がやや引きつっているのはなぜだ。
少し歩き宿屋に着く。
イズの部屋は空いているかな。
「テルさん、ただいま。あの、空き部屋とかって……」
「デレートさん、お帰りなさいっ! 待ちくたびれましたぁ! もぅ! 早く帰ってきてって、いつも言ってるじゃないですかぁ!」
ドアを開けるや否や、テルさんが思いっきり飛びついてくる。
瞬時に硬い表情になるミリタルとイズ。
「……デレート様? そちらの女性は?」
「え、え~っと、宿屋のテルさんです」
「なるほど……わたくしもこちらに泊まりたいのですが、空き部屋はありますか?」
「ええ、ありますよ。さあ、中へどうぞ」
「私も今日はこちらに泊まる」
「承知いたしました。軍団長閣下」
流れるように、ミリタルとイズも一緒に泊まることになった。
そして、後ろの方からぐぎぎぎ……という音が聞こえる。
「なんで……」
シーニョンだ。
「なんでお前だけ良い思いしてんだよおおお! ずるいだろおおおお! どうしてお前ばかりそうなんだあああ!」
「い、いきなりどうした?」
なんかよくわからんが、突然キレだした。
そういえば、この前も同じようなことでキレてたような。
「僕の方がモテるに決まってるだろおお! おい! 僕もここに泊めろ!」
「空き部屋はありませんのでお引き取りください」
センジさんがしばく前に、テルさんがピシャリと告げた。
「今空いてただろ!」
「今ので満室になりました。さようなら。どちらにしろ、オジサンみたいな臭くて汚い人は迷惑なのでお断りです」
テルさんは俺たち三人を宿に入れると、何の躊躇もなくドアを閉める。
窓から取り残されたシーニョンたちが見えた。
「さっさと来い、シーニョン! お前の宿は馬小屋だよ!」
「もっと良い宿を用意しろ!」
「するわけないだろ! 馬小屋でももったいないくらいだ!」
シーニョンはどつかれながら連行されていく。
かわいそうに……。
「デレートさん、ご飯できてますよ~」
「先生、早く食べないと冷めますよ」
「今すぐ席についてください」
「あ、ああ、そうだな。すまん」
なぜかピリピリした様子のミリタルとイズの間に座る。
嫌いな物があるのかなぁ? と思いながら、温かいスープを口にした。
◆◆◆(Side:シーニョン⑤)
「おらぁっ! 今日も馬たちに感謝するんだな!」
「だから押すのはやめろ!」
センジに突き出され、馬小屋の地面にへばりついた。
一瞬で糞尿まみれになる。
「おい! 服が汚れただろ! 弁償しろ!」
「知るか! 宿代払え!」
おまけに、なけなしの銀貨まで奪われた。
もう僕の尊厳は地の底だ。
「逃げだしたら火あぶりにするからな」
吐き捨てるように言うと、センジはさっさと出て行った。
僕は一人取り残される。
周りの馬たちは、またこいつかよ……という表情で僕を見ていた。
「な、なんだ、その目は! もっと僕を崇め奉れ! 僕は人間様だぞ……こ、こら、やめろ!」
馬たちは後ろを向くと、足で糞を飛ばしてくる。
今こうしている間にも、デレートは美女3人とお楽しみ中だろう。
朝まで。
一方で僕は糞まみれ。
そう思った瞬間、何かがプツンと切れた。
「……デレートおおおお! お前だけは絶対に許さないぞおおおおお!」
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