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第25話:尾行の先には

「そろそろ時間のはずだ……」

「ええ……」

「緊張してきました……」


 その日の夕刻。

 俺たちはあの鍛冶屋の近くに戻ってきていた。

 辺りの人通りは少なく、一日が終わりに近づいていることを実感する。

 そのまま息を殺すこと数分。


 ――出てきた……!


 店から主人と思われる男が出てきた。

 暗くなってきて良く見えないが、たぶん初老の男性だ。

 その手には長い棒を抱えている。


「デレート様っ……」

「ああ、きっと杖だな。どこに持っていくんだろう」

「追いかけましょう……」


 俺たちはそっと歩きだした。

 男性は一人のようだ。

 昼間の女性店員の姿はないが、警戒に越したことはないので十分注意しながら後を追う。 

 町はずれの方向に進み、やがて森の中に入った。

 音を立てないよう、俺たちも慎重に進む。

 進むにつれて、辺りは鬱蒼としてきた。


 ――おあつらえ向きって感じだな……。


 なおも歩を進めると、ぽっかり開いている広場みたいな空間に出てきた。

 ちょうど月明かりが差し込み周囲が明るくなる。

 人影が集まっているのが見え、俺たちは木陰に身を隠した。

 何やら声が聞こえるが……。


「おい……きちんと人数分持ってきたんだろうな……」

「「あ、あれは……バイヤー教頭……!?」」


 生徒たちの中央にいるのはバイヤーだった。

 鍛冶師から杖を受け取っては生徒に配っている。

 どれも学院の地下倉庫にあったのと同じような物だ。

 そして、杖の先端にある宝玉では黒いもやが小さくうごめいていた。


「球の中になんか入っているな。なんだろう」

「おそらく、闇魔法の力を収めた宝玉です。生徒たちの使っていた杖が暴走したとき、あのようなもやが膨れ上がったのを覚えています」

「じゃあ、あれが問題の杖で間違いないわね」

「直接確かめた方が良さそうだな」


 ミリタルとイズを見ると、二人とも静かにうなずいている。

 俺たちはすっと木陰を出て、彼らの元に歩きだした。

 真っ先にイズが話す。


「バイヤー教頭、そこで何をやっているのですか?」

「イ、イズ筆頭教官! なぜここに! それに、ミリタル殿とクソ鍛冶師まで!?」


 ギョッとした顔でバイヤーは俺たちを見る。

 尾行されていることにまるで気づいていなかったらしい。

 まぁ、こっちにはプロがいるから当然っちゃ当然だけどな。


「わたくしたちはずっと杖の件を調べていました。その過程で、デレート様が杖の製造元と思われる鍛冶屋を見つけてくれたのです」

「俺たちはそこにいる鍛冶師の後をつけて、ここまで来たってわけだ」

「……なに? 貴様ぁ、尾行には気を付けろと言っただろうが!」


 バイヤーは鍛冶師の男を睨む。

 だが、当の本人は少しも取り乱していない。


「俺はただ持ってこいと言われた杖を持ってきただけだ。いちいちお前の言うことなんか覚えてねえよ」

「なんだとぉ!?」


 どうやら、二人は良い関係ではないようだ。

 イズは彼らを注意深く見ながら言葉を続ける。


「バイヤー教頭、あなたが闇魔法の杖をばらまいていたのですか?」

「ああ、そうだ。見ればわかるだろうが。くくく、生徒どもの口止め魔法が功を奏したようだな」

「なぜこんなことをしたのです。苦しんでいる生徒たちが何人も出ているんですよ」


 淡々とイズは話しているが、言葉の節々から静かな怒りが伝わってきた。

 バイヤーはバイヤーで意味ありげにニヤニヤとしている。


「簡単には話せんなぁ。そうだ、ワシの部屋に来たら教えてやる。ワシの部屋に来なさい、ワシの部屋に来なさい、ワシの部屋に来なさい」

「もういいです。あなたとまともな話し合いができないことはよくわかりました。捕らえた後、じっくりと聞かせてもらいましょう」

「ふんっ、できるものならやってみろ! 貴様ら! イズ筆頭教官を攻撃しろ! 見事倒した者には点数を与えるぞ!」


 その言葉を聞いて、俺たちは緊張に包まれた。

 見たところ、生徒は5、6人ほどいる。

 全員が闇魔法を駆使したら、いくらイズでも対処が厳しいかもしれない。

 ミリタルも剣を構え、硬い表情で注視している。

 だが、生徒たちは誰も動こうとしない。

 バツが悪そうな顔で下を向くばかりだ。


「おい、どうした! 点数が欲しいんじゃないのか!」

「「イ、イズ先生を傷つけるなんてできません。こんなに生徒想いの先生を傷つけるなんて……」」

「みなさん……」


 生徒たちの心まで闇に売ることはできなかったようだ。

 予想通りに行かないのが不愉快なのか、バイヤーはプルプルと震えている。


「ええい、お前たちがやらんのならワシがやってやる!」

「やめなさいっ! バイヤー!」


 突然、バイヤーは生徒から杖を奪った。

 構えて宝玉をこちらに向ける。


「この世に蔓延りし、闇の精霊よ。ワシに力を貸せ……<ダーク・コンティネスショット>!」

「「……っ!」」


 黒い光線が何発も飛んでくる。

 すごい魔力の塊だ。

 当たったら大怪我では済まされないだろう。


「大丈夫です、お二人とも。<セイント・シールド>」


 イズが唱えた瞬間、白いバリアが俺たちを覆った。

 黒い光線は当たるだけでいとも簡単に消えてしまう。

 無論、怪我どころか被害はゼロだ。


「な、なに!? ワシが使っているのは強力極まりない闇魔法だぞ! こ、こんな簡単に防がれるなんて」

「観念しなさい、バイヤー。そもそも杖の質が違います。あなたの悪事もここまでです! <セイント・ロック>!」

「ぐぉっ! や、やめろ!」


 白い光の縄がバイヤーを捕らえる。

 あっという間にぐるぐる巻きにして動きを封じ込めてしまった。


「ク、クソッ! 離せ、イズ筆頭教官! このワシにこんなことをしてタダでは済まないぞ! 個人指導が必要だ! ワシの部屋に来なさい、ワシの部屋に来なさい、ワシの部屋に来なさい」

「離すわけがないでしょう……」


 バイヤーの喚き声に、イズはもはや呆れ顔だ。

 そして鍛冶師はというと、逃げるでもなく抵抗するでもなく、ただただ立っているだけだった。


「あなたも一緒に来てくれますね? どうしてこんな杖を造ったのですか」

「俺はただ……自分の造った製品が評価されたかっただけだ」


 鍛冶師は力なく呟く。

 嘘を吐いているとは思えない。


「どういうことだ」

「あんたら、昼間店に来たよな。だったら繁盛していないとわかるだろ。俺は腕には自信があるが口下手でな。客が全然つかなかったんだよ」

「でも、感じのいい店員がいただろ。接客は彼女に任せておけばいいんじゃないか?」


 あんなに笑顔で対応できる店員がいれば、客もたくさん来そうだが。


「あれは俺が造ったゴーレムだよ。でもな、客は一度離れると二度と戻ってこねえ。製品の質より口の上手さや店主の人柄が評価されるなんて……やってられるか!」


 そうか、あの女性はゴーレムだったのか……。

 鍛冶師は話ながらもドカッと小石を蹴り上げる。

 その仕草からも態度からも、客商売がうまくいかないことに苦しんでいることがよくわかった。


「だから、闇魔法を収めた杖を造っていたんだな。評価を得るために」

「ああ、そうだよ。なぁ、あんたも鍛冶師ってんならわかるだろ? 必死に造った製品が見向きもされない辛さをよ!」


 鍛冶師は必死に訴える。

 俺もそういう辛い経験がなかったわけではない。


「……その気持ちはよくわかるよ。俺も自分が造った品がいつまでも売れ残るのは辛いからな」

「じゃ、じゃあ……!」

「でもな、それ以上に」


 たしかに気持ちはわかるが、だからといってダメなことはダメなんだ。


「鍛冶師は人々の幸せを考えて物を造らなきゃならん。せっかく使ってくれる人を傷つけるような、しかも危険な闇魔法を収めた杖なんか造っちゃダメだろ……違うか?」

「そ、それは……」


 鍛冶師はうなだれる。

 彼も本当はわかっていたはずだ。


「努力していれば必ず報われるよ。罪を償ってから、また一歩ずつ歩いていこう」

「……ああ、そうだな」


 背中に手を当てながら言うと、鍛冶師は硬い表情ながら前を向いてくれた。

 片やバイヤーは、ずっと何かを喚いている。


「イズ筆頭教官! 立場が上であるワシに向かって、このような仕打ちはとうてい許されないぞ! 個人指導が必要だ! ワシの部屋に来なさい、ワシの部屋に来なさい、ワシの部屋に来なさい」

「意味の分からないことを言わないでください」


 バイヤーは「ワシの部屋に来なさい」を繰り返しながらイズに連行されていく。

 ミリタルは杖を造った鍛冶師を捕らえながら歩いていた。

 俺はその後をホッとしながらついていく。

 生徒にこれ以上の被害は出なさそうで良かった。

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