第24話:3軒目の鍛冶屋
「ここが3軒目か。見た目はいたって普通の鍛冶屋だな」
「でも、先生。お客さんは一人もいないみたいですよ」
「ちょうど空いている時間帯なんでしょうか」
五分ほど歩き、俺たちは目的地へ着いた。
店主が一人でやっているような、一軒目と同じような雰囲気だ。
ここでも手がかりが見つけられなかったら、それこそ振り出しに戻ってしまう。
「何はともあれ、まずは店内に入ろう」
店内に客はいない。
俺たちだけだ。
警戒していることを気づかれないように、慎重に声をかける。
「ちょっと商品を見せてくれないか?」
「は~い、いらっしゃ~い。どうぞ、どうぞ~」
カウンターから出てきたのは、ニッコリと笑う柔和な雰囲気の女性だ。
茶色の髪に茶色の瞳。
広さは一軒目と同じくらいだが、日用品より武器の方が多かった。
剣や盾、斧やナイフなどが壁面にズラリと飾られている。
「じゃあ、武器を見せてもらうな」
「どうぞ、どうぞ~」
三人で壁の前に行くが、ふと店内の異変に気づいた。
いや、異変というほどではないかもしれない。
ただ、そこかしこが汚れているのだ。
店の中はなんとなく薄汚れていて、商品や棚の上にも薄っすらと埃が積もっている。
単に掃除が行き届いていないだけなのか? とも思ったが、それにしては汚れてるよな。
傍らのミリタルたちも同じようなことを感じたらしい。
「……先生、なんだか汚い店ですね。あまり繁盛していないのでしょうか」
「お客さんもわたくしたち以外にいませんし……」
「しかし、鍛冶の腕は良いみたいだ」
棚には低ランクの品から高ランクの品まであったが、どれも明らかに他とは一線を画していた。
【シーレイピア】
ランク:S
属性:水
能力:斬撃が切れ味鋭い水の刃となって敵を襲う。
【フレイミングナイフ】
ランク:A
属性:炎
能力:魔力を込めると炎属性に変換し、刀身に強力な炎の力を宿す。
【ドラグーンランス】
ランク:S
属性:無
能力:ドラゴンブレスの力が宿っており、突くたびに波動の衝撃を喰らわせる。
特にこの三つはどれもなかなかの逸品だ。
このレベルの品を造るには、相応の集中力や魔力が必要に違いない。
肝心の黒ずみはあるだろうか。
緊張しながら武器の表面を見る。
渦巻の黒ずみは…………あった。
堂々と武器たちの表面に浮き出ている。
「……あった! あったぞ、二人ともっ」
「やりましたね、先生っ」
「諦めなくて良かったですっ」
俺たちは小声で喜ぶ。
とうとうあの杖の出所に繋がる手がかりを見つけたのだ。
黒ずみは研磨すれば消えるだろうが、隠そうとする気は少しも感じられない。
むしろ堂々とした風格だ。
しかし、その姿勢に何かしらの意図を感じるような気がするが……気のせいだろうか。
「槍をお探しだったんですか~?」
「……っ!」
いきなり背中から声が聞こえドキリとする。
知らないうちに店員の女性が真後ろにいた。
変わらずニコニコと俺たちを見ている。
「あ、ああ。冒険者に転職しようと思って、強そうな武器がないか探していたんだ」
「でしたら、槍みたいな長物よりナイフや片手剣の方が扱いやすいですよ。これとかどうでしょうか~」
そう言うと、店員の女性は棚からやや大ぶりなナイフを手に取った。
【ダガーナイフ】
ランク:C
属性:無
能力:同ランク以下のモンスターであれば十分に倒せる強度のナイフ。食事の用意など日常使いにも向いている。
もちろん、これにも渦巻の黒ずみは出ている。
杖に残っていることを知らないのか、それとも隠す気がないのだろうか。
俺は心の中で疑問に思っていたが、店員は気にせず説明を続ける。
「モンスターの中には属性魔法を吸収して、パワーアップするモンスターもいます~。なので、慣れないうちは無属性の武器をお勧めします~」
「そ、そうか。アドバイス助かるよ」
店員からは悪意の感情は少しも感じない。
それどころか、本当に親切心で言ってくれているようだ。
「しかし、どれも素晴らしい品だな。ここにあるのはあんたが造っているのか?」
「いいえ、違います~。私は店員です~。鍛冶師は別にいます~」
店員はカウンターの方を指す。
そういえば、奥から槌を振るうような金属が叩かれる音が聞こえる。
きっと、今も武器を造っているのだろう。
「武器を造った鍛冶師に会えないか?」
「すみません~、それはできません~」
この店員なら会わせてくれるかと思ったが、意外にも断られた。
もうちょっと食い下がってみよう。
「どうしてもダメかな? どんな人が造っているのか知りたいんだが」
「ダメです~」
しかし、またしても断られてしまった。
温和な雰囲気ではあるが、結構意志が強い人のようだ。
どうしようかなと思っていたら、ミリタルに袖をくいっと引っ張られた。
彼女らも目でどうしますか? と聞いている。
――……あまりゴネても怪しまれそうだしな。ここは潔く引き下がろう。
「わかった。無理を言って悪かったな。では、このナイフだけ買おう」
「ありがとうございます~」
銀貨を数枚払い【ダガーナイフ】を買い店を出る。
去り際さりげなく看板を見て、閉店時間を確認しておいた。
店から十分離れると、三人で相談を始める。
「とりあえず、あの店に手がかりがあるのは間違いなさそうだな」
「でも、鍛冶師には会えませんでしたね」
「音がしたのでいるはずなんですが……」
俺たちが調査していることはまだ気づかれたくない。
逃げられでもしたら大損だ。
「店が閉まるタイミングを狙ってまた来よう。鍛冶師の後をつけるんだ。ちらりと」
「尾行ということですね。私の得意分野です、任せてください」
「わたくしも精一杯頑張りますわ」
俺たちは一度、学院へ戻ることにした。
わずかな手がかりかもしれないが無駄にはできない。
お忙しい中読んでいただきありがとうございます
少しでも
・面白い!
・楽しい!
・早く続きが読みたい!
と思っていただけたら、ぜひ評価とブックマークをお願いします!
評価は広告下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にタップしていただけると本当に嬉しいです!
ブックマークもポチッと押すだけで超簡単にできます。
何卒応援よろしくお願いします!