表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/38

第23話:調査

「二人とも、準備はいいか?」

「はい、私は大丈夫です」

「わたくしも問題ありません」


 その後、俺たちはジッカの街中にある広場に来ていた。

 鍛冶屋を調査するためだ。

 ミリタルとイズは目立ってしまうので、帽子を被ったりフードを被ったりして変装している。


「たしか、ジッカの街に鍛冶屋は3軒あるんだよな」

「ええ、どれも古くからある由緒ある鍛冶屋さんです。杖の修理などで、学院との関わりもありますよ」

「みんな良い人ばかりだと信じたいけど……その中に杖を造った鍛冶師がいる可能性は十分あるわね」


 ちょうど広場の向かい側に、そのうちの一軒があった。

 規模としては店主が一人でやっているような大きさだ。

 しかし、住民たちの人気は高いようで、ついさっきも家族連れが入っていった。


「じゃあ、さっそく調査に行ってみるか。余波の証は俺がチェックするから、二人は客のフリをしていてくれ」

「「わかりました」」


 緊張しながら店に入る。

 カランという呼び鈴が鳴り、すぐに店主がこちらに気づいた。

 赤茶色のチリ毛を伸ばしたふくよかな女店主だ。


「いらっしゃい!」

「ちょっと失礼するよ。品物を見させてくれ」

「ああ、好きなだけ見て行きな」


 見た目通りの快活な声と表情だった。

 店内の品は日用品が主らしい。

 鍋や食器といった製品がほとんどを占めている。

 ざっと見た感じ、どれもCやDなどの低ランクの素材だな。

 魔力の余波は出ていなさそうだ。

 剣や杖はどうだ?

 探したところ、店内の片隅に一本ずつあった。


「おばちゃん、ちょっとあの武器を見せてもらってもいいか?」

「もちろん、いいよ。別にいちいち聞かなくていいからね」

「ありがとう。たくさん商品があるけど、全部おばちゃんが一人で造ってるのかい?」

「そうだよ。亭主が生きていたときは二人でやっていたけどね。もう何十年もあたし一人でやってるのさ」


 そうだったのか、と答えて武器を見る。

 やはり、店主一人の店らしい。

 剣は一般的なロングソードで、杖も初心者が使うような代物だ。



【メニーソード】

ランク:B

属性:無

能力:両刃のロングソード。成人男性が無理なく振れる重さと長さ。



【ビギナーロッド】

ランク:C

属性:無

能力:初心者向けの杖。持ち主の魔力をそのまま魔法に変換する。



「……どうでしょうか、先生」

「渦巻模様はありますか……?」

「ここを見てくれ」


 さりげなく、二人に剣と杖を見せる。

 魔力の余波は、どちらも黒色の丸型として隅っこの方に現れていた。

 よく見る形だ。


「渦巻ではないな」

「となると、ここではないのでしょうか」

「でも、あの人が嘘を吐いている可能性も……」

「お目当ては見つかったかい?」


 いきなり後ろから声をかけられ、俺たちはビクリと振り返る。

 気が付いたら、店主が後ろに立っていた。

 剣と杖を戻し、傍らの棚にあるスプーンを取る。


「あ、ああ、そうだな。このスプーンをいただこうか」

「はいよ、まいどあり」


 金を払って俺たちは店を出る。

 広場の反対方向へ行き、店の視界から離れた。

 ベンチに座ると、どっと疲れが出てくる。


「……ふぅ、結構疲れるな。二人は大丈夫か?」

「私は平気です。潜入任務などで慣れていますので」

「わたくしも大丈夫です。こう見えて、意外と体力があるんです」


 ……マジか。

 どうやら、疲れているのはオッサンだけのようだ。

 若さというものを目の当たりにして心が辛くなる。


「でも、先生。わざわざ商品を買う必要があったんですか?」

「まぁ、怪しまれない方がいいからな。それに、店主の境遇を考えると何か買ってあげたくなったのさ」

「やっぱり、デレート様はお優しいですね」


 店主が嘘を吐いている可能性もあるが、こういう時だからこそ信じたくなるのは人の性かもしれない。


「さて、次の鍛冶屋に行ってみるか」


 地図を見ながら街中を歩く。

 2軒目は町はずれにある大きな鍛冶ギルドだった。

 規模はリーテンのと同じくらいか。


「デレート様、ここがジッカの街で一番大きな鍛冶屋さんです」

「たしかに、なかなかだな。繁盛してるじゃないか」

「入ってみますか、先生?」

「ああ、入ろう」


 中に足を踏み入れる。

 すでに住民や冒険者と思われる客でいっぱいだった。

 店主たちも忙しそうで、俺たちなど気にも留めていない。

 傍らのイズがこそっと話してきた。


「これならじっくり調べられそうですね」

「そうだな。でも、十分に注意して調べよう」


 鍛冶ギルドというだけあって、さっきの店より武器類が多い。

 長剣、短剣、斧や盾に杖……選り取り見取りだ。

 その中でも、高価な素材を使っている武器の元へ行く。



【ガイアシールド】

ランク:A

属性:土

能力:周囲の土を表面に集め、敵の攻撃を防ぐことができる大楯。



【ウインドアックス】

ランク:S

属性:風

能力:風属性の魔力が宿った斧。空気の刃を作り出し、どんな強靭な敵も簡単に倒してしまう。



 見たところ、この二品が特に加工が大変そうな武器だ。

 他の客と同じようにじっくりと全体を見る。

 みんな真剣に選んでいるから別に怪しまれることはないだろう。


「ど、どうでしょうか、先生」

「渦巻の印はありますか?」

「いや……」


 どちらも四角だったり星型だったりで、渦巻ではない。

 念のため、手分けして他の武器も全てチェックした。

 だが、渦巻状の黒ずみは見つらなかった。

 今回は特に何も買わず、外のベンチへと引き上げる。

 なかなか手がかりが掴めず、俺たちの間には暗い空気が漂っていた。


「二人とも、最後の鍛冶屋へ行く前にちょっと休憩しようか。ほら、ちょうどアイス屋があるぞ」


 ベンチの前には、これまたいい具合にアイスを売っている屋台がある。


「いいですね。私もさすがに疲れてきました」

「わたくしもいただきたいです。……あっ、でもお財布を忘れてしまいました」

「俺が奢ってやるからいいよ」


 二人を引き連れてアイス屋へ向かう。

 ここで大人の男を見せないでいつ見せるのだ。


「いらっしゃい、色々あるよ」


 ……結構高えな。

 アイス一個で俺の昼食代の1.5倍くらいはある……。

 だが、奢ると言った手前、今さら引き下がることはできなかった。


「私はチョコを」

「わたくしはオレンジを」

「お、俺はバニラを」


 値段の高さに気が引けたが、どうにかアイスを三人分買えた。

 財布の中には、お金はまだどうにかたくさん入っている。

 ……安心したぞ。

 ベンチに戻りみんなで食べる。


「「いただきま~す……おいし~い!」」


 甘味が老体に染み渡る。

 たかがアイスでこんなに癒されるとは……。

 否が応でも加齢を感じた。

 しばらく食べた後、ミリタルが呟いた。


「先生、ジッカの鍛冶師が関係なかったら振り出しに戻ってしまいますね。もしくは完全に隠されているとか」

「もしそうなったら、どうすればいいのでしょう」


 呼応するようにイズも力なく話す。

 たしかに、状況は何も変わっていない。

 でも、まだできることはあるはずだ。


「なに、考えていても始まらないさ。まずはできることを精一杯やろう。三軒目はちょうど反対方向だ」


 そう言うと、二人は徐々に元気を取り戻してくれた。


「……そうですね。くよくよするのが一番ダメですよね」

「なんだか、わたくしも元気が出てきました」


 俺たちはすっくと立ち上がり、最後の鍛冶屋へと足を踏みだした。

お忙しい中読んでいただきありがとうございます


少しでも

・面白い!

・楽しい!

・早く続きが読みたい!

と思っていただけたら、ぜひ評価とブックマークをお願いします!


評価は広告下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にタップしていただけると本当に嬉しいです!

ブックマークもポチッと押すだけで超簡単にできます。


何卒応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
i000000
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ