第23話:調査
「二人とも、準備はいいか?」
「はい、私は大丈夫です」
「わたくしも問題ありません」
その後、俺たちはジッカの街中にある広場に来ていた。
鍛冶屋を調査するためだ。
ミリタルとイズは目立ってしまうので、帽子を被ったりフードを被ったりして変装している。
「たしか、ジッカの街に鍛冶屋は3軒あるんだよな」
「ええ、どれも古くからある由緒ある鍛冶屋さんです。杖の修理などで、学院との関わりもありますよ」
「みんな良い人ばかりだと信じたいけど……その中に杖を造った鍛冶師がいる可能性は十分あるわね」
ちょうど広場の向かい側に、そのうちの一軒があった。
規模としては店主が一人でやっているような大きさだ。
しかし、住民たちの人気は高いようで、ついさっきも家族連れが入っていった。
「じゃあ、さっそく調査に行ってみるか。余波の証は俺がチェックするから、二人は客のフリをしていてくれ」
「「わかりました」」
緊張しながら店に入る。
カランという呼び鈴が鳴り、すぐに店主がこちらに気づいた。
赤茶色のチリ毛を伸ばしたふくよかな女店主だ。
「いらっしゃい!」
「ちょっと失礼するよ。品物を見させてくれ」
「ああ、好きなだけ見て行きな」
見た目通りの快活な声と表情だった。
店内の品は日用品が主らしい。
鍋や食器といった製品がほとんどを占めている。
ざっと見た感じ、どれもCやDなどの低ランクの素材だな。
魔力の余波は出ていなさそうだ。
剣や杖はどうだ?
探したところ、店内の片隅に一本ずつあった。
「おばちゃん、ちょっとあの武器を見せてもらってもいいか?」
「もちろん、いいよ。別にいちいち聞かなくていいからね」
「ありがとう。たくさん商品があるけど、全部おばちゃんが一人で造ってるのかい?」
「そうだよ。亭主が生きていたときは二人でやっていたけどね。もう何十年もあたし一人でやってるのさ」
そうだったのか、と答えて武器を見る。
やはり、店主一人の店らしい。
剣は一般的なロングソードで、杖も初心者が使うような代物だ。
【メニーソード】
ランク:B
属性:無
能力:両刃のロングソード。成人男性が無理なく振れる重さと長さ。
【ビギナーロッド】
ランク:C
属性:無
能力:初心者向けの杖。持ち主の魔力をそのまま魔法に変換する。
「……どうでしょうか、先生」
「渦巻模様はありますか……?」
「ここを見てくれ」
さりげなく、二人に剣と杖を見せる。
魔力の余波は、どちらも黒色の丸型として隅っこの方に現れていた。
よく見る形だ。
「渦巻ではないな」
「となると、ここではないのでしょうか」
「でも、あの人が嘘を吐いている可能性も……」
「お目当ては見つかったかい?」
いきなり後ろから声をかけられ、俺たちはビクリと振り返る。
気が付いたら、店主が後ろに立っていた。
剣と杖を戻し、傍らの棚にあるスプーンを取る。
「あ、ああ、そうだな。このスプーンをいただこうか」
「はいよ、まいどあり」
金を払って俺たちは店を出る。
広場の反対方向へ行き、店の視界から離れた。
ベンチに座ると、どっと疲れが出てくる。
「……ふぅ、結構疲れるな。二人は大丈夫か?」
「私は平気です。潜入任務などで慣れていますので」
「わたくしも大丈夫です。こう見えて、意外と体力があるんです」
……マジか。
どうやら、疲れているのはオッサンだけのようだ。
若さというものを目の当たりにして心が辛くなる。
「でも、先生。わざわざ商品を買う必要があったんですか?」
「まぁ、怪しまれない方がいいからな。それに、店主の境遇を考えると何か買ってあげたくなったのさ」
「やっぱり、デレート様はお優しいですね」
店主が嘘を吐いている可能性もあるが、こういう時だからこそ信じたくなるのは人の性かもしれない。
「さて、次の鍛冶屋に行ってみるか」
地図を見ながら街中を歩く。
2軒目は町はずれにある大きな鍛冶ギルドだった。
規模はリーテンのと同じくらいか。
「デレート様、ここがジッカの街で一番大きな鍛冶屋さんです」
「たしかに、なかなかだな。繁盛してるじゃないか」
「入ってみますか、先生?」
「ああ、入ろう」
中に足を踏み入れる。
すでに住民や冒険者と思われる客でいっぱいだった。
店主たちも忙しそうで、俺たちなど気にも留めていない。
傍らのイズがこそっと話してきた。
「これならじっくり調べられそうですね」
「そうだな。でも、十分に注意して調べよう」
鍛冶ギルドというだけあって、さっきの店より武器類が多い。
長剣、短剣、斧や盾に杖……選り取り見取りだ。
その中でも、高価な素材を使っている武器の元へ行く。
【ガイアシールド】
ランク:A
属性:土
能力:周囲の土を表面に集め、敵の攻撃を防ぐことができる大楯。
【ウインドアックス】
ランク:S
属性:風
能力:風属性の魔力が宿った斧。空気の刃を作り出し、どんな強靭な敵も簡単に倒してしまう。
見たところ、この二品が特に加工が大変そうな武器だ。
他の客と同じようにじっくりと全体を見る。
みんな真剣に選んでいるから別に怪しまれることはないだろう。
「ど、どうでしょうか、先生」
「渦巻の印はありますか?」
「いや……」
どちらも四角だったり星型だったりで、渦巻ではない。
念のため、手分けして他の武器も全てチェックした。
だが、渦巻状の黒ずみは見つらなかった。
今回は特に何も買わず、外のベンチへと引き上げる。
なかなか手がかりが掴めず、俺たちの間には暗い空気が漂っていた。
「二人とも、最後の鍛冶屋へ行く前にちょっと休憩しようか。ほら、ちょうどアイス屋があるぞ」
ベンチの前には、これまたいい具合にアイスを売っている屋台がある。
「いいですね。私もさすがに疲れてきました」
「わたくしもいただきたいです。……あっ、でもお財布を忘れてしまいました」
「俺が奢ってやるからいいよ」
二人を引き連れてアイス屋へ向かう。
ここで大人の男を見せないでいつ見せるのだ。
「いらっしゃい、色々あるよ」
……結構高えな。
アイス一個で俺の昼食代の1.5倍くらいはある……。
だが、奢ると言った手前、今さら引き下がることはできなかった。
「私はチョコを」
「わたくしはオレンジを」
「お、俺はバニラを」
値段の高さに気が引けたが、どうにかアイスを三人分買えた。
財布の中には、お金はまだどうにかたくさん入っている。
……安心したぞ。
ベンチに戻りみんなで食べる。
「「いただきま~す……おいし~い!」」
甘味が老体に染み渡る。
たかがアイスでこんなに癒されるとは……。
否が応でも加齢を感じた。
しばらく食べた後、ミリタルが呟いた。
「先生、ジッカの鍛冶師が関係なかったら振り出しに戻ってしまいますね。もしくは完全に隠されているとか」
「もしそうなったら、どうすればいいのでしょう」
呼応するようにイズも力なく話す。
たしかに、状況は何も変わっていない。
でも、まだできることはあるはずだ。
「なに、考えていても始まらないさ。まずはできることを精一杯やろう。三軒目はちょうど反対方向だ」
そう言うと、二人は徐々に元気を取り戻してくれた。
「……そうですね。くよくよするのが一番ダメですよね」
「なんだか、わたくしも元気が出てきました」
俺たちはすっくと立ち上がり、最後の鍛冶屋へと足を踏みだした。
お忙しい中読んでいただきありがとうございます
少しでも
・面白い!
・楽しい!
・早く続きが読みたい!
と思っていただけたら、ぜひ評価とブックマークをお願いします!
評価は広告下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にタップしていただけると本当に嬉しいです!
ブックマークもポチッと押すだけで超簡単にできます。
何卒応援よろしくお願いします!