第21話:ムカつく鍛冶師と女(Side:バイヤー①)
「チッ! あのクソ鍛冶師め。ワシの高貴で美しい腕を思いっきり握りおって。傷がついたらどうする。芸術品と同じ価値があるんだぞ」
教頭室に戻ったワシは、イズが連れてきた鍛冶師にずっと悪態を吐いていた。
見るからに田舎者のみすぼらしくて冴えない男。
たしか、デレートとか言ったな。
ワシの右腕を赤くしおって……許せん。
絶対に復讐してやるぞ。
一度怒りの感情に囚われると、次から次へと怒りが湧いてくる。
しかも、あのデレートは軍団長のミリタルまで連れていた。
本来なら、あいつのポジションはワシであるべきなのに。
「ワシを差し置いて許さんぞ、デレート! イズもイズだ! ワシの誘いを断りおってええ! ……ぬあああああ!」
あの女には、入学時点からずっと目をつけていた。
そよ風になびくさらさらの黒髪に宝石みたいな瞳。
他の女とは明らかに一線を画している。
だから、ワシは特別目にかけてやっていた。
なのに……。
「なぜワシの部屋に来ないのだあああ! これだけ素晴らしい男であるというのにいいい! おかしいだろおおお!」
というより、この学院の女どもは一人もワシを相手にしていない。
教官も生徒もだ。
グロッサ魔法学院の教頭といったら垂涎の的!
なのに、なぜ誰の一人も言い寄って来ない!
ストレスで奇声を上げていると、ふと後ろに気配を感じた。
「ご乱心のようですね、バイヤー様」
「エージェンか! ちょうどいいところに来た!」
後ろにいたのは、これまた黒髪の美人。
表情が希薄なのがややもったいないが、それでもイズたちに負けぬ劣らぬの美女。
この女はエージェン。
つい最近、ワシの秘書になった。
だが、グロッサ魔法学院とは何の繋がりもない。
元は完全な部外者だった。
それなのに雇った理由は……。
「バイヤー様の良さがわからないとは、あの女たちの目は曇っていますね。こんなにも素晴らしい殿方は二人といませんのに」
「お前もそう思うか! さすがはエージェンだ!」
「バイヤー様は何も間違っていません。むしろ、間違っているのは世の中なのです」
「そうだ! 間違っているのは世の中だ!」
こいつはワシの価値をわかっている!
美人な上に聡明な女と来たら、秘書に最適だろう。
そう、美人な上にな。
未だかつて、こんなに理想の女と出会ったことはない。
とうとうワシのことをわかってくれる女と出会えたぞ。
「さぁ、ベッドに来なさい。ベッドに来なさい。ベッドに来なさい」
エージェンの腰を掴もうとしたが、さりげなく躱された。
ワシの手は空を切る。
「少々お待ちください、バイヤー様」
「なにぃ!?」
ワシの価値がわかると言いながら、こいつは肝心なところで逃げる。
いい加減にしろ。
翻弄されているようでイライラするではないか。
「あの件が無事達成された場合は、この身はバイヤー様に捧げますゆえ。それに、お楽しみは後に残しておいた方がより期待が膨らみますよ」
「ほぅ……」
たしかに、エージェンの言うことには一理ある。
楽しみは残しておいた方が、後々倍増するからな。
ワシが見つけた真理だ。
それに、襲おうと思えばいつでも襲える。
華奢な女など、ワシの手にかかれば一捻りだ。
「では、あの件を先に優先するとしよう」
「さすがは、グロッサ魔法学院の偉大なる教頭バイヤー様ですね。理解がお早い」
褒め称えられて気持ちが盛り上がる。
そうだ、こんな反応をずっと待っていたのだ!
イズとミリタルに聞かせてやれないのが残念だなぁ。
「そして、バイヤー様。デレートのことでございますが……」
「なんだ? 貴様もあの男が気になるのか?」
せっかく忘れかけていたのに、エージェンの一言で思い出してしまった。
ワシより1000億倍も冴えないくせに、美女に囲まれたオッサン。
ぬうう、許さん。
なぜワシじゃないのだ。
「いえ、そうではございません。私はバイヤー様にしか興味がありませんので」
「だったら先にそう言わんか。心配になってしまったぞ」
そうかそうか。
お前はワシにしか興味がないのか。
それにしても素晴らしいセリフだ。
これからは毎日言わせることとしよう。
「あの件で、デレートも一緒に始末させたいのです」
「ああ、それは良い案だ。あいつも殺してしまうか」
「私のバイヤー様に恥をかかせた罪は重くございます。死を持って償っていただきましょう」
す……素晴らしい。
たったそれだけの言葉で、この女がどれだけワシを大事に想っているかが伝わってくる。
イズも見習え。
この心意気がワシの女である最低条件だ。
個人指導で教え込まないといけないな。
「では、早急に準備の方を進めておけ」
「はっ、承知いたしました」
そう言うと、エージェンは闇へ溶け込むように消えた。
この女は本当に神出鬼没だ。
しかし、そんなことはどうでもいい。
――デレートめ。ここに来たのが運の尽きだ。今に亡き者にしてやるぞ。
そして、お前が自慢げな顔で連れているイズとミリタルをワシの物にする。
まぁ、本来ならワシの物だから、所有権が元の持ち主に戻るだけだがなぁ。
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