第20話:魔法学院
「お疲れ様でした。魔法学院に着きましたよ」
「「……っ」」
白い光に包まれたと思ったら、見知らぬ土地に来ていた。
俺たちは庭園のような広い敷地の中央にいる。
目の前には、横に大きく広がる五階建ての建物。
オフホワイトの壁に、濃いブルーの屋根がオシャレ。
壁はレンガかと思ったが、魔石の塊だった。
すげえ……。
規模の違いに圧倒されるばかりだ。
「へぇ~、ここがグロッサ魔法学院か。初めて来たけど、すごい立派な建物なんだな。いや、まぁ当たり前なんだろうけど」
ちなみに、ほのかに心配していた内臓がフワッとする感じはなかった。
少しばかし安心したのは、二人には内緒だ。
「国軍の施設でも、こんなに立派なのはなかなかありませんね」
「さすが魔法学院だな。まさしく圧巻の風格だ」
ミリタルと一緒に、はぁ~と感嘆していたらイズも微笑みを浮かべながら話してくれた。
「状況が状況ではありますが、ここは美しい学校です。この庭園も、日々の疲れを癒してくれる大切な場所です」
「こんな学校で勉強できるなんて羨ましいよ。生徒たちのモチベーションも上がるだろうな」
「私も一度くらいはこんな学校に通ってみたかったですね」
「おっしゃる通り、教育機関としての素晴らしさもそうですが、校舎の美しさも入学理由の大きな理由になっているんですよ。まずは学院長先生の元にご案内します。デレート様の件はすでに伝えてありますので」
イズに案内されて歩みを進める。
彼女は手際もいいんだろうな。
俺も見習わなければ……。
きちっと整備された花壇の間を通り、校舎の正面玄関に入る。
中もこれまた美しい。
屋根と同じ濃いブルーの床は磨きあげられ、廊下の両脇には金色の文字が描かれている。
魔法の呪文かな。
そんなことを思っていたら、立派な部屋の前に着いていた。
言われなくてもわかる。
ここが学院長のいる部屋だ。
「失礼いたします、学院長先生」
イズは何の緊張もなくドアを叩く。
隣のミリタルをチラッと見たが、彼女も涼しい顔をしていた。
どうやら、緊張しているのは俺だけのようだ。
「どうぞ、お入りなさい」
鈴が鳴るような美しい声が聞こえ、扉が自然に開く。
さすがは魔法学院。
全部自動だ。
「学院長先生、デレート様をお連れいたしました」
「そなたがイズの杖を造った鍛冶師ですか。あら、軍団長のミリタルさんもいらっしゃったのですね。私は学院長を務めているエレナ・グロッサと申します。どうぞよろしく」
「よ、よろしくお願いします」
大きな椅子がくるりと回転してこちらを向く。
ふんわりと座っていたのは、なんかすごい美女の人だった。
トゥルントゥルンの銀髪に、髪と同じ銀色の瞳。
はぁーっ、まさしく精霊みたいだ。
……あれ、どこかで見たような……って、女王陛下じゃね?
「学院長先生は女王陛下の妹君でいらっしゃいます」
「い、妹!? 君でいらっしゃるのですか。これはまた……」
どうりで似てると思ったわ。
まさか双子の姉妹だとはな。
……ちょっと待て。
「と、ということは有能に優しく……」
「無能に厳しい運営をしております」
緊張感が飛躍的に上昇する。
「デレート様なら杖から手がかりを見つけてくださるはずです」
「良い成果を期待していますよ」
壁にはさりげなく鞭が飾ってある。
なるほど、こいつは想像以上の大仕事だ。
「では、わたくしたちがこれにて失礼いたします」
お辞儀をして俺たちは部屋を出る。
挨拶だけでどっと疲れた。
「さっそくですが、問題の杖を保管している地下倉庫へ行きましょう。わたくしについてきてください」
「ああ、よろしく頼む」
「気を引き締めて行かないといけませんね」
俺たちは廊下の先にある階段へと向かう。
あと数十歩というところで、後ろから甲高い男の声が響いてきた。
「待ちたまえ、イズ筆頭教官! その男は何者かねぇ!?」
「バ、バイヤー教頭!」
イズはびくりとして振り返る。
声がした方を見ると、体積大きめな男性が立っていた。
七対三で分けたと思われる髪型に大きな丸メガネ。
右手は腰に当てて、左手はしきりに口髭の先っぽをいじくりまわしている。
重ねて言うが、全体的に体積が大きめな人だ。
「許可なく学院内に不審者を招き入れるとは、筆頭教官の自覚がないと思われる。やれやれ、仕方がない。個人指導が必要と思われる。さぁ、ワシの部屋に来なさい」
「この方は国軍の専属鍛冶師のデレート様です。杖の件でお越しいただきました。学院長先生もご存じのはずです」
「そんな小汚いオッサンが専属鍛冶師なわけないだろう。さぁ、ワシの部屋に来なさい」
「きょ、教頭先生のお部屋には行きませんわ」
やたらと部屋に来いを繰り返す人だな。
下心が丸見えでこちらの方が恥ずかしくなる。
あと言わせてもらうが、あんたも十分オッサンだぞ。
なんかシーニョンと同じ匂いがするな、と思っていたらミリタルがスッと前に出た。
「バイヤー教頭、デレート殿の腕前は私が保証する。前言撤回していただきたい」
「これはこれは軍団長閣下! 本日も見目麗しいことで何より! このバイヤー、恐悦至極でございます!」
ミリタルを見るや否や、打って変わってゴマすりモードに入るバイヤー。
どうやら、人によって態度を変えるタイプのようだ。
まぁ、今さらそんなことで何も感じないけどな。
「とはいえ、イズ筆頭教官! ワシの言うことが聞けないなんて個別指導が必要だ。さぁ、ワシの部屋に来なさい。ワシの部屋に来なさい。ワシの部屋に来なさい」
「ぃ、ぃやっ!」
バイヤー教頭はイズの手を掴み、無理やり連れ去ろうとする。
ので、彼の腕を掴んで止めた。
「んんん? なんだね、君はぁ? グロッサ魔法学院の英知を結集した存在であるこの私に歯向かおうというのかねぇ?」
「嫌がっているじゃないですか。やめてくださいよ」
「くっ……このっ……!」
バイヤーの腕は脂肪が分厚く、握ると指が沈み込む。
汗が滲んで気色悪いのだが、またイズを襲いそうで離すに離せなかった。
「あなたは色々と横暴過ぎますよ。教頭だからって何をしてもいいわけではないでしょうに」
「は、早く離したまえっ。ワシはグロッサ魔法学院の地位と名誉が具現化した存在である教頭だぞっ。恥を知れっ、田舎者」
「イズを襲うことはやめますか?」
埒が明かないので少し強めに力を加える。
教頭はなおも、ああだこうが喋っていたが、やがて観念したように言った。
「……チッ! わかったから離せ。それと襲うなんて人聞きの悪いことを言うな。ワシは個人指導を勧めているだけだ」
手を離すと、教頭は捨て台詞を吐きながら引き返して行く。
廊下を曲がったところを見届けると、イズがバッと頭を下げた。
「騒がしくて申し訳ありません、デレート様、ミリタルさん」
「いや、全然気にしていないから大丈夫だ。むしろ、大変だったのはイズの方だろう」
「あんな気持ち悪い人に迫られて辛かったでしょう」
「……ありがとうございます、お二人とも。わたくしは大丈夫です。まぁ、慣れてますので」
慣れてるというイズの顔には、小さな暗い影が差していた。
日頃から絡まれてしまっているのかもしれない。
ついでに反省させらればいいのだが。
なんか……あんなヤツってどこにでもいるんだな。
グロッサ魔法学院なんて立派な学校にもいるとは。
そう思っていたら、さて、とイズは敢えて明るく言った。
「何はともあれ、まずは問題の杖をお見せします。わたくしについて来てください」
彼女に案内され、俺たちは杖が保管されているという地下倉庫へと向かって行った。
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