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第19話:頼み

「忍び寄る危機って、魔法学院は危ない状況にあるのか? 詳しく教えてくれ」

「私にも教えてちょうだい、イズ」


 彼女から告げられたのは、学院の危機という言葉。

 しかも、忍び寄るという表現が不気味な耳障りとなって残る。

 教えてくれと俺たちが言うと、イズは静かに笑って話し出した。


「……ありがとうございます。まずは、学院のことからお話します。ご存知の通り、グロッサ魔法学院は魔力の才がある者しか入れません。教官はもちろん、生徒たちもみな優秀な人ばかりです」

「俺はそんなところに縁はないが、話には聞いたことがある。国を導いていけるような人ばかりだって」

「国軍の中にも学院出身者は多数いますよ」


 国内に魔法学院はいくつかあるが、その中でも随一らしい。

 筆頭教官を務めるイズのすごさを改めて感じるわけだ。

 イズは説明を続ける。


「魔力の才は相性がよい杖を持つことにより、何倍にも底上げできるのです。なので、必然と貴族出身者が多くなります。わたくしは力もお金もない庶民の娘でしたが、この杖のおかげで教官までなれました」

「そうだったんだ……。すまないな、初めて聞く話だ」

「イズも先生の素晴らしい力を享受していたなんて。やっぱり、先生の造る武器はすごい性能をしていますね」


 彼女が持っている杖も……元はおもちゃだよな?

 なぜSランクの武器にまで進化するのかまるでわからんが、人の役に立っているようで安心した。


「そして、本題のお話ですが……。危機というのは、学院に蔓延る杖のことなのです」

「「杖?」」


 俺たちは揃って疑問に思う。


「ここ最近、学院の生徒が闇魔法に囚われる事件が多発していまして……。調査した結果、みな同じような杖を持っていたんです」

「闇魔法か……それは結構大変な事件だな」

「私も最後に見たのは魔族四天王と戦ったときかも」


 闇魔法は魔族だけが使う魔法とされている。

 人間でも使えなくはないが、身体と精神への負担が大きいらしい。

 使用後はしばらく身体が動かなくなったり、具合が悪くなることもあるそうだ。


「杖の出所はわかっているのか?」

「生徒に尋ねたところ、みな黒フードの人物から買ったと言っています。ですが、他人に話せない呪いがかかっているようで、それ以上の調査は難航しています。魔法で杖を調べても手がかりが見つからない上に、わたくしたちも生徒の治癒に手いっぱいで……」

「なるほど、どうしたもんかな」

「イズでも簡単に解決できないのね」


 生徒ですら大変に優秀なのだから、イズたち教官はさらに優秀なのだろう。

 それでも対応が後手に回っていることから、事の重大さがよくわかる。


「そして、さらに状況が悪いことに、その杖を買ってしまう生徒が後を絶たないのです」

「マジか、どうして……。学院で禁止できないのか?」

「グロッサ魔法学院は素晴らしい教育機関ですが、その分生徒間の競争が激しいです。そのため、強力な杖をどうしても求めてしまい……。このような悲しい事件が起きているのだと思います」

「きっと杖を売っている人物も、学院の事情を利用しているんでしょうね」


 その後もイズは、学院のそういった内部事情を詳しく教えてくれた。

 生徒たちは期待をかけられている分、常にプレッシャーを感じていること。

 特待生以外は学費も高く、生徒たちは落第をとても恐れていること。

 生徒間の関係もピリピリしており、互いに蹴落とし合うような雰囲気であること。

 そういった環境を利用しているであろうことは明白だった。


「おそらく裏には大きな組織があると、わたくしは予想しています。……そこで、デレート様にお願いがあります」


 イズは姿勢を正すと、真剣な面持ちで俺を見た。


「杖に関して、鍛冶師の視点から何か手がかりを見つけていただけませんか?」

「……なるほど、鍛冶師の視点か」

「デレート様の卓越した観察眼ならば、何かしら見つけてくださると思うのです」


 魔法の分野から問題が見つからないようであれば、武器としての分野から探す。

 幼い頃から聡明だったイズらしい考え方だ。


「ああ、俺でよければもちろんやるよ。そんなことが思いつくなんて、やっぱりイズは賢いな」

「私も行くよ。幸いなことに、王国の治安は安定しているし侵略の危機もないからね」

「ありがとうございます……お二人とも。お優しいのも昔から変わっていないのですね」


 イズは静かに笑いながら答えた。

 その目には薄っすらと涙が浮かんでいる。


「なに、困っている人を助けるのは当たり前のことだよ。それが昔の大事な人ときたらなおさらだ」

「大事な友達のためだもの。私も精一杯頑張るわ」

「ありがとう……ございます。お二人と再会できて……デレート様に出会えて本当に良かったです」


 どちらともなく俺たちは手を取り合う。

 ギュッと握ったイズの手は微かに震えていた。

 それだけで、生徒を大事に想う彼女の優しさが伝わってくる。

 俺も頑張らないとな。

 そう、心の中で決心した。



「みんな、ちょっと聞いてくれ。俺はしばらくグロッサ魔法学院に行ってくる。その間、鍛冶場の留守を頼む」

「「わかりました! お気を付けて!」」


 鍛冶場に戻り準備を済ます。

 数日か数週間か不在にするわけだが、ここの鍛冶師は優秀だ。

 俺がいなくても大丈夫だろう。

 というか、急ぎの仕事はすでに全部片付けてしまっていた。

 後はあいつだ。


「センジさん、シーニョンを頼みます。鍛冶の方は金属板の整形をお願いします」

「わかりました! 任せてください!」


 センジさんはドンッ! と胸を張る。

 彼がついていれば安心だ。

 と、思ったが、シーニョンはまたもやキレだした。


「だから、なんでお前だけ美女に囲まれているんだよおおおお! 僕も連れていけよおおおおお!」

「お前を連れて行くわけないだろうが、便所!」

「ああああ!」


 当然のようにしばかれるシーニョン。

 もはや、彼の意識の高さは微塵も残さず消え去っていた。

 そのままどこかへ連行される。

 いい加減学習すればいいのに。

 何はともあれ、今はイズの問題に集中だ。


「さて、魔法学院に行こうか。でも、歩くと結構時間かかるよな」

「国軍の馬車を手配しましょうか?」

「いいえ、それには及びません。わたくしの転送魔法で行きましょう」

「「ああ~」」


 そうだ、彼女は魔法学院の筆頭教官なのだ。

 魔法使いの移動手段は、古今東西、転送魔法と相場が決まっているじゃないか。


「この世を統べる偉大なる精霊たちよ。我が身にその力を貸し与え給え……<テレポート>!」


 イズが呪文を唱え、周囲が白い光に包まれていく。

 年甲斐もなくワクワクする。

 そういえば、転送魔法ってどんなだろう。

 内臓が浮く感じとかするのかな。

 俺、あれが苦手なんだよなぁ。

 そんなことを思っていたら、目の前が真っ白になった。

お忙しい中読んでいただきありがとうございます


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