第18話:2人目の子どもが
「デレ―ト殿に迷惑をかけるな! こんな素晴らしい鍛冶師の指導を受けられるなんて、普通はありえないんだぞ!」
「だから、真面目にやってるだろうが! ぐあああ!」
その後も、俺は兵士の武器を修理したり製造したり、シーニョンの修行を見る日々を送っていた。
懸命に教えた成果もあってか、シーニョンは何とか怪我しないくらいに槌を振れるようになっていた。
「このクソが人間に戻りつつあるのも、全てはデレ―ト殿のおかげですよ」
「あ、いや、シーニョンも努力していると思うので……」
センジさんは笑顔で告げる。
というか、この人がスパルタ過ぎるんだよなぁ。
実は、私にもその素晴らしい技術を教えてください、と言われたので、センジさんにも鍛冶を教えていた。
マジで筋が良い。
今では俺の代わりにシーニョンを指導することもあった。
「デレ―ト殿は優しすぎます」
「いえ、ほんとそんなことはないですから」
「デレ―ト様はこちらにいらっしゃいますか?」
センジさんと話していたら、兵舎の出入り口から凛とした硬い声が聞こえてきた。
誰かが立っているが、逆光で良く見えない。
シルエット的には女性っぽい。
「あ、ああ、デレートは俺だが」
「良かった……ようやく会えてホッとしました」
女性が兵舎に入ってくる。
黒くて長い上品な髪に、落ち着いた黒曜石のように黒い瞳。
右手には長い杖を持ち、地位が高い魔法使いのような格好をしている。
お淑やかを形にしたような、なんかすごい美人だ。
魔法使いの人かな? と思っていたら、彼女の後ろからミリタルが出てきた。
「デレート殿。こちらはジッカの街にある、“グロッサ魔法学院”の魔術科筆頭教官……イズ殿です」
「魔法学院の先生ってこと? ……ですか? しかも筆頭教官なんて」
「はい。あなた様のおかげで、わたくしは魔術を導く存在になれました」
黒髪の女性は静々と歩いてくる。
清楚すぎて緊張するほどだ。
ってか、こんな偉い人と知り合いだったっけ。
まるで記憶にない。
別の意味で緊張しつつ、女性の顔を見たら過去の記憶がぶわっと蘇った。
「もしかして……あのイズか? 昔一緒に遊んでいた……」
「覚えていてくれましたか。はい、お世話になったイズです」
「そうだったのか。立派になったな……」
イズ。
それは十五年前、おもちゃを造っていた近所の子どもたちの一人だ。
確か、この子には杖を造ってあげた気がする。
「わたくしはデレート様に造っていただいた杖によって、筆頭教官になれたんですよ」
「俺の造った杖……?」
そう言うと、イズは持っている杖を見せてくれた。
【大魔導師の杖:ダイウォンド】
ランク:S
属性:聖
能力:持ち主とともに長い時間を過ごすことで、その者の魔力を何十倍にも増幅する。術者が放つ魔法には全て聖属性が付与され、無詠唱魔法が可能となる。
なんだこれは。
本体の部分はユグドラシルの枝。
全体的に教会の飾りみたいな、複雑な装飾が取り巻いている。
杖の先端には、白っぽい宝玉がくっついていた。
イズは俺が造ったと言ったが、こんな杖見たこともないぞ。
「魔法学院の筆頭教官と、知り合いなだけですごいのに。その杖まで造ったのか。デレートさんは、本当にとんでもない鍛冶師だな」
「剣や鎧に始まって杖まで造れるなんて、隙の無さが素敵だわ」
「どっかの便所屋さんとは大違いだぜ!」
実感の湧かない俺を取り残し、兵舎はおおお~! と湧きたつ。
意外にも、鍛冶師が魔法使いの杖を造ることは、そこまで珍しいわけではない。
良質な木材だけじゃなく、金属の装飾によっても魔法の質は変わるからだ。
俺が信じられない気持ちで眺めていたら、イズが照れながら言った。
「デレート様に昔いただいた杖が進化したんですよ。ずっと肌身離さず大切にしてきました」
「なるほど……?」
マジかぁ。
また進化かぁ。
ミリタルのときと同じかな?
どうして俺が造ったおもちゃは進化するんだ。
「なんで……」
みんなで仲良く話していたら、ふいにシーニョンが呟いた。
「ん? どうしたシーニョン」
「なんで…………なんで、お前ばっかり美人が集まってくるんだよおおお!」
「は、はぁ?」
いつかと同じように、突然キレだした。
ドン引きするみんな。
こ、こいつはいったい何なんだ。
「静かにしろ! ……すみません、デレート殿! すぐに静かにさせますんで! おい、こっちに来い!」
「なんで僕には女の子との出会いがないんだあああ!」
「便所屋さんだからだよ!」
わあわあと泣き叫ぶシーニョンは、センジさんにズルズルとどこかへ引きずられていく。
その光景を見て、傍らのイズはポカン……としていた。
お淑やかな彼女には刺激が強すぎたらしい。
「さ、騒がしくてすまんな」
「い、いえ、ビックリしただけです……あっ、そうでした。今日はデレート様に相談があって参りました」
「相談? じゃあ、ちょっと場所変えるか」
ということで、俺とイズ、そしてミリタルは兵舎の会議室に移動した。
ぱたりと扉が閉まると、さっそくイズが口を開いた。
「デレート様は色んな方々に慕われているのですね。昔と変わらなくて安心しました」
「いや、周りの人たちが優しいだけだよ。専属鍛冶師になれたのもミリタルのおかげだからな」
「謙遜されるところも、先生は昔から変わりませんね」
ミリタルやイズと話しているとやっぱり懐かしいな。
別れてから十五年も経っているのにまた会って話をしてくれるなんて……俺は本当に良い人たちに恵まれた。
彼女らのためにできることがあったら、喜んで力になりたい。
「それで、イズ。相談ってなんだ?」
「ええ……」
俺が言うと、イズは姿勢を正した。
お淑やかな雰囲気は消え、代わりに冷静沈着な魔導師の姿が現れる。
「こんなことが頼めるのはデレート様以外にいません。……魔法学院を忍び寄る危機から救ってほしいのです」
イズは至極真剣な表情で告げた。
第二章開始です!
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