第17話:国宝の剣を直そう
「あなたがデレ―トさんですか! いやぁ、お会いできて光栄です!」
「ぜひ、色々と教えてください! 精一杯がんばりますので!」
「あんたみたいな男の下で働けるなんて、鍛冶師としては最高だよ!」
翌日、国軍の本拠地へ行った俺は、たくさんの鍛冶師に囲まれていた。
ナナヒカリが追い出した人たちが戻ってきたようだ。
みんな快活で感じが良く、握手しただけで優秀な鍛冶師だとわかる。
タコがたくさんできているからな。
何はともあれ、歓迎してくれて良かった。
みんな良い人ばかりでホッとする。
仕事の合間に来ているミリタルも笑顔だ。
「やっぱり、先生がいらっしゃってみんな喜んでいますね。私も嬉しいですよ」
「俺にはもったいないくらいだよ」
そして、部屋の隅にはシーニョンがいるわけだが、彼は歓迎されていないらしい。
「おい、あいつだろ? 国宝を破壊したエセギルドマスター」
「30年鍛冶ギルドにいて、槌すら握ったことがないんだって。冗談キツイぜ」
「今まで何やってたんだろうな」
こいつが国宝の剣を折ったことは、すでに周知の事実だった。
センジさんがウザそうな顔でシーニョンを紹介する。
「この男はシーニョン。国宝の【アマツルギ】を折った張本人です。……ほら、早く挨拶しろ、ゴミ」
「……よろしく」
意識の高さは微塵もなく、至って普通に挨拶した。
……のだが、なんかシーニョンはめっちゃ臭い。
体中茶色いのだが、どうした?
そういえば、馬小屋に泊まるって言ってたな。
ということは……馬糞?
馬小屋で寝泊まりしたらそうなるだろうよ。
案の定、鍛冶師や装備の修理に来ている兵士たちもドン引きしていた。
中でも女性陣は苦虫を噛み潰したような顔だ。
「なに……あのオッサン。死ぬほど臭いんですけど」
「あれがほんとのクソ野郎だな。便所屋さんって呼ぼうぜ」
「排泄物の面倒を見なきゃいけないなんて、デレ―トさんも大変だな……」
シーニョンは下を向いてプルプルと震えている。
臭い、ということで、大窓の前が彼の席になった。
「では、先生。そろそろ【アマツルギ】の修理の方をお願いします」
「ああ、そうだな。さっさとやっちまおう」
ミリタルから折れてしまった【アマツルギ】を受け取る。
見れば見るほど美しい剣だ。
こんなのを本当に俺が造ったのかよ。
すげえな、昔の俺。
道具を整えながら椅子に座る。
ふと、わずかな不安が脳裏をよぎった。
――過去の自分を……超えられるだろうか。
別に仕事をサボっていたわけではないが、このような一品を造れるかなと思ってしまった。
しかし、次の瞬間には一つの強い気持ちがあふれてくる。
――いや、超えるんだよ。
剣が進化したように、俺も進化しなければ。
鍛冶師たるもの、成長が止まったらそこで終了だ。
まずは素材を整理しよう。
元々いた鍛冶師たちと一緒に素材も帰ってきた。
ナナヒカリに使われないように、守ってくれていたみたいだ。
【スチール鉱石】
ランク:A
属性:無
説明:自然に存在する鋼。純度が高く、特殊な加工をしなくても強靭な武器を造れる。
【硬虫化石】
ランク:B
属性:無
説明:硬虫と呼ばれる硬い外殻を持った虫の化石。光の屈折により色が変わる。
【アクア石】
ランク:A
属性:水
説明:内部に水の魔力が封じ込められている鉱石。割ると水が出てくる。
【ラーバ岩石】
ランク:A
属性:炎
説明:バーフィ山脈の溶岩が固まった鉱石。噴火のパワーが詰まっている。
【ハーデン魔石】
ランク:S
属性:無
説明:恐ろしく頑強な鉱石。その分強い衝撃を加えるほど硬くなるので、加工が非常に困難。
十分過ぎるほど良い素材が揃っている。
鍛冶師たちに感謝だな。
「「デレ―トさん、修理を見学させてもらってもいいでしょうか?」」
「ん? ああ、もちろんいいよ」
気が付いたら、周りには兵士や鍛冶師たちが集まっていた。
みな、興味津々といった様子だ。
そんなに注目してくれるなんてありがたいな。
感謝の気持ちを込めながら作業を開始する。
まずは刀身を柄から抜き出す。
せっかくだから、教えながら作業するか。
「基本的に、折れた剣は接着できないんだ。間に別の金属を入れるにしても、火を通すと組成が変わっちまうからな。だから、思い切って作り直す方がいい」
「「なるほど……」」
みんな真剣な面持ちでメモを取っているのだが、きっとこれくらい知っているよな。
わざわざ言わなくても良かったか。
いかんな、年を取ったせいかどうしても説教臭くなってしまう。
必要な情報だけ伝えるように意識しなければ。
「強度は【スチール鉱石】と【ハーデン魔石】を使えば十分だろう。この二つから造った合金は相当頑丈なはずだ」
「「はい」」
まずは【スチール鉱石】と【ハーデン魔石】をぐつぐつに溶かす。
両者を混ぜて合金に。
ここまでは【カミナ】を造ったときと同じ感じだな。
「さて、これから加工を始めるわけだが、この合金には【ハーデン魔石】が混ざっているからな。普通に叩くだけではダメだ。そこで、対角線上に優しく槌を振るっていく」
「「対角線上……」」
コツコツコツ、と斜めに優しく叩いていく。
【ハーデン魔石】はこの方向に叩けば延びやすいと、文献で読んだことがあるが本当だな。
勉強しといて良かったぜ。
刀身の素体が完成したら、次は残りの鉱石を加工する。
「【アクア石】と【ラーバ岩石】を使って、聖属性の元となる魔力を与えるんだ。【アクア石】は砕いた後冷やせば、【ラーバ溶岩】はそのまま熱せれば剣に溶け込む」
「「勉強になります」」
いい感じで鍛錬できているぞ。
粛々と作業していたら、、鍛冶師の一人に聞かれた。
「あの、すみません。聖属性なんて、どうやったら付与できるんですか?」
「……ん?」
聖属性の付与……?
答えに窮する質問だ。
思わず思考が止まる。
――た、確かに、聖属性ってどうやって付与するんだ?
思い返せば【シンマ】のときもそうだったが、自覚が無さ過ぎてわからん。
というか、聖属性の素材なんて使ってないし。
考えられるとしたら……気合?
「ほ、本気の想いを込めるのがコツかな」
「「なるほど……」」
鍛冶師たちは勢いよくメモを取る。
なんか申し訳ない気がしたが、本当にそれしか言えないんだ。
「最後、【硬虫化石】は砕いて粉状にする。これで磨けばあの美しさが戻るだろう」
研磨したら、見事な宝剣が姿を現した。
【天使の宝剣:アマツルギ改】
ランク:S
属性:聖
能力:天界の存在を降臨させ、その身に宿すことができる。現世と天界を繋ぐことができる至高の宝剣。
折れてた【アマツルギ】とほぼ同じ剣ができたな。
これで無事に修理は完了だ。
「すげえええ! あっという間に治っちまった!」
「さすが稀代の鍛冶師、デレ―トさん! 便所屋さんとは大違いだぜ!」
「私にも鍛冶を教えてください! 手取り足取り!」
わあわあわあ、と兵士や鍛冶師に囲まれる。
【アマツルギ】を作業台の上に置くと、みんな大歓声を上げながら褒め称えていた。
ミリタルが耳元でこそっと話しかけてくる。
「やっぱり、先生は稀代の天才鍛冶師ですね。こんな人に武器を造っていただいて、私も誇らしいです」
「大袈裟だよミリタル。俺は本当にただの鍛冶師なんだ」
「これからもずっと一緒にいてくださいね」
ミリタルはさりげなく俺の手を握ってくれた。
なんだか昔を思い出すな。
彼女のおかげで新しい居場所ができた。
感謝しなければ。
あっ、そういえばシーニョンは……。
後ろを見たら、彼は憎しみのこもった目で俺たちを見ていた。
えええ、こわぁ。
とはいえ、あいつにも鍛冶を教えないと。
女王陛下の命令だし。
「シーニョン、まずは槌の振るい方から勉強しようか。ちょうど、ここに余りの金属板がある。これを打って平たくするんだ」
「偉そうに命令するな……ぐあああ」
「デレ―ト殿が教えてくださるんだぞ、ありがたくしろ!」
口答えしようとした瞬間、シーニョンはセンジさんに叩かれていた。
す、すごいスパルタだ。
だが、彼のためを思えば我々も心を鬼にしなければならない。
「自分の指を打たないように気を付けてな」
「ケッ……」
センジさんに聞こえないように悪態を吐きながら、シーニョンは槌を振り上げる。
勢いよく振り下ろした瞬間、彼は自分の親指をしたたかに打ちつけてしまった。
「うわあああああ!!」
響き渡る絶叫。
のたうち回るシーニョン。
さすがに俺も心配になった。
「お、おい、大丈夫かよ。すぐに回復薬を……」
「こっちに来るな! お前のシンパシーなどいらん!」
「うおっ」
シーニョンが手を振り回して俺を攻撃する。
何かの汁が飛んできて汚いので、慌てて避けた。
「おいおい便所屋さん、自分で自分の指打ってるぜ。マジで槌を振るったことすらなかったんだな」
「せっかく、デレ―トさんがマンツーマンで指導してくれているのに、何なのあの態度。あのまま死んでくれないかしら」
「デレ―トさんの苦労を思うと泣けてくるぜ。本当にお優しい方だ」
兵士や鍛冶師たちは、しきりに俺を称賛してはシーニョンを罵倒していた。
いくらシーニョンでもいたたまれない気持ちになる。
「俺は大丈夫なんで、それくらいに……」
「ぼ、僕を馬鹿にするなああああ! 僕はギルドマスターだったんだぞおおお! くらえええ、シーニョンタイフーン!」
「「うわぁ! 汚ねえ!」」
俺にしたように、シーニョンは手を振りまして汁を飛ばしてくる。
こ、こいつはいったい何がしたいんだ。
そんなことをしても自分の立場が悪くなるだけだろうに。
「おい、何してんだよ! すみません、皆さん! ちょっと教育してきます! 迷惑かけてんじゃねえ、おらぁ!」
「ぐああああ!」
シーニョンはセンジさんにしばかれながら連行されていく。
なんか……思ったより前途多難っぽいな。
彼は改心してくれるのだろうか。
兵舎を掃除しながら、俺はそんなことを思っていた。
お忙しい中読んでいただきありがとうございます
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