第15話:……弟子?(Side:シーニョン③)
「おい、離せ! 僕を誰だと思っている! 僕の人脈を駆使すれば、貴様らなんか一瞬で牢屋行きだぞ!」
「お前の人脈なんか知らねえよ! さっさと歩け!」
リーテンで馬車に押し込められた僕は王宮に来ていた。
今はセンジたちに抱えられるようにして歩いている。
どうやら、このまま女王陛下の元へ連れていくらしい。
「いいか!? 僕をこんな目に遭わせてタダで済むと思うな! ネゴシエーションに応じない貴様らはゴミだ!」
「だから、何言ってんのかわかんねえよ!」
このクソどものせいで、僕の服はしわくちゃになってしまった。
覚えてろ、あとで訴えてやるからな。
そのうち、重厚な扉の前に着いた。
ふーん、ここが“陛下の間”か。
ズズズ……と扉が開かれる。
ケッ、女王陛下がなんだ。
僕はリーテンの偉大なるギルドマスターだぞ。
むしろ、僕の方が偉いと言っても過言ではない。
「女王陛下、失礼いたしますっ!」
「待ちくたびれたぞ、センジ。……ん? その男は誰だ?」
「リーテンの鍛冶ギルド、シーニョンでございます。おらっ! 前に出ろ!」
押し出されるように玉座の前に連れて行かれる。
この僕にこんな扱いをするなんて……後でぶちのめしてやる。
だが、まずは女王陛下だ。
ギルドマスターの威厳に跪け。
怒鳴りつけようと女王陛下を見た瞬間、僕は固まってしまった。
――な……なんと美しいお方だ……。
長い白銀の髪は幻想的に輝き、同じく銀色の瞳は見る者を引き込んでしまう。
そのお顔だって、一度見たら忘れないくらいだ。
まさしく、僕の運命の人……。
赤い糸で結ばれている人と出会ったら、呼吸が荒くなるってホントだな。
「はぁ……はぁ……」
「……センジ。この気色悪い男を連れてきた理由を申せ。理由によっては貴様を処罰せねばならん」
「はっ! デレ―ト殿を探しにリーテンへ向かったところ、この男に【アマツルギ】を折られてしまいました!」
……は?
おい、使者。
お前は何を言っているんだ?
だから、あれは事故だろ!
そんな言い方をしたら僕が悪者に聞こえるじゃないか。
センジは予期せぬ事故により折れてしまった【アマツルギ】を差し出す。
それを見ると、女王陛下は恐ろしい顔になった。
「……詳しく話せ」
ほら、女王陛下も怒っているだろ!
そりゃそうだ。
自分の伴侶となるべき男が悪く言われたのだから。
さ、きっちり弁明してもらおうか。
「リーテンにデレ―ト殿はおらず、私は混乱しました。そこで現れたのが、このシーニョンです。ギルドマスターだからすぐに直せる……という、この男の甘言に騙されてしまいました。誠に申し訳ございません」
センジはうなだれながら告げる。
おいおいおい、何言ってるんだ。
「聞いた話だと、30年ギルドに勤めながら一度も槌を持ったことすらないとか。無能を見抜けなかった私の責任でございます……」
だ、だから、それは言うなよ!
護衛たちに抑え込まれているとき、つい口を滑らして言ってしまったのだ。
「ふむ……センジよ。貴様は有能だが、今回の件に限っては無能だったな」
「申し訳ございません、女王陛下。覚悟はできております」
女王陛下は別の使用人から何かを受け取る。
鞭だ。
そして、センジは四つん這いになる。
な、なんだ?
「わらわは無能が嫌いだと知っているだろう!」
「ああああ!」
パァン! とセンジは鞭で叩かれた。
そのまま、ズパパパパ! と尻を重点的に叩かれる。
な、なにが起きているんだ。
そして、センジはなぜか嬉しそうだ。
こ、この男はいったい何者……。
「さて、シーニョン。貴様のようなホラ吹きは見たこともない」
女王陛下はすぅぅ……と僕を見る。
先程までの美しいという感情は消え去り、もはや恐怖しかなかった。
「国宝の剣を折るギルドマスターなど聞いたこともないわ! このたわけ!」
「ああああ!」
鞭で全身を叩かれる。
激しい痛みでおかしくなりそうだ。
な、なぜ、こんなことになった……。
いくら考えてもわからん。
「タイミングの良いことに、今日はデレ―トを呼んでいる。もうじき、この場に来るだろう」
「デ、デレ―トが……?」
息も絶え絶えに呟く。
なんであの無能が。
まるで信じられん。
「つい先日、デレ―トを国軍の専属鍛冶師に任命した。このレベルの武器を造れる者はそうそういないからな」
「…………え?」
女王陛下の口から、ありえない言葉が出てきた。
国軍の専属鍛冶師なんて言ったら、国内最高峰の地位だ。
リーテンのギルドマスターなど足元にも及ばない……。
「そして、貴様はリーテンのギルドマスターを解任する。己の無力さを反省しろ」
さらに告げられたのはクビ宣言。
ギルドマスターを解任……?
あんなに根回しを頑張って出世したのに?
おじゃんになった?
一番大切な地位を奪われて、精神に大きなヒビが入る。
「なんでええええ!」
「おい、この大馬鹿者を静かにしろ!」
「「こらっ! 女王陛下の前だぞ!」」
「ぐああああ!」
すぐさま屈強な護衛たちがのしかかってきて動きを封じられた。
肺が圧迫される。
く、苦しいだろうがよ。
「ちょうどデレ―トが来たようだ。このたわけは部屋の隅に置いておけ」
女王陛下の一言で、ズルズルと引きずられていく。
クソッ、クソッ!
怒りの矛先をどこに向ければいいのかわからず、悪態を吐くしかなかった。
精神がぐちゃぐちゃになっていると、デレ―トが入って来た。
「よく来たな、ミリタル。そして、デレ―ト。わらわもそなたたちに出会えて喜ばしい」
「はっ! 陛下もお変わりないようで!」
「デ、デレ―トでございますっ!」
おい、誰だよ、その美人は!
デレ―トは若くてキレイな女性を連れている。
さらさらのブロンドヘアにサファイヤみたいな蒼い瞳、スラリとした肢体は目が釘付けになる。
そんな美人見たことないぞ。
片や、俺の隣にいるのはむさ苦しい男たち。
この差はなんだ!
「デレ―ト、そなたの造った【カミナ】は誠に素晴らしい。わらわも深い感動を抱いた。わらわが認める、そなたは国一番の鍛冶師だ」
「あ、ありがたき幸せっ」
はぁ!?
デレ―トが国一番の鍛冶師!?
ふざけんな!
見下していたヤツが目の前で褒められ、猛烈な怒りが湧き上がってくる。
僕のときとは打って変わって、女王陛下はすこぶる優しい。
あまりの反応の違いに、体中の血が沸騰するかと思った。
その後もデレ―トは褒められ、僕は罵倒される。
しかも、妖精みたいな美人の前で、だ。
これほどまでに屈辱的な気持ちになったことはない。
「この者をそなたの弟子としてくれないか?」
「……え? シーニョンを弟子に……?」
そして告げられた女王陛下の言葉に、僕はとうとう気絶しそうになった。
――こ、この僕が……デレ―トの弟子だと……? しかも女王陛下の命で?
ふざけるな!
それだけは認めてなるものか!
「お待ちください、女王陛下! こんな無能にイニシアチブを与えないでください! 僕のコンセンサスは取れていません……ああああ!」
「黙れ! 無能はお前だ! まずはその話し方を直せ! 意味が分からんわ!」
鞭でめった打ちにされ、心も体もズタズタになる。
――ずっと見下していた男の下で修行する……。
ものすごい屈辱感で頭が割れそうだ。
だが、鞭で叩かれることを考えると、恐ろしくて何も言えない。
脳がぐちゃぐちゃになるほどの怒りを、僕は必死になって抑え込むしかなかった。
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