第13話:国軍の専属鍛冶師
「デレ―トさん、ありがとうございます! 修理していただいたおかげで、すごく使いやすくなりました」
「俺の槍も修理してください。ずっと楽しみに待っていました」
「おい、抜かすなよ。次は俺の番だろうが」
ナナヒカリとの勝負に勝ってから数日後。
鍛冶場は武器の修理を望む兵士たちでいっぱいになっていた。
あとからあとから、ひっきりなしにやってくるのだ。
こいつはリーテン以上の盛況ぶりだな。
「あ、ああ、ちょっと待っててくれな。順番にやってるから」
とは言ったものの、水を飲む暇もないほどの忙しさだ。
だが、休んでいるわけにはいかない。
兵士たちの武器や鎧は、どれも刃こぼれが酷かったり傷も多かった。
ナナヒカリが鍛冶師ではろくに直してくれなかったのだろう。
そして、俺が造った【カミナ】は、鍛冶場の壁に展示されることになった。
その周りには、連日のように若手の兵士たちが集まっている。
「なんて美しく強い剣なんだ。僕は絶対【カミナ】の使用者になるぞ」
「やっぱ、【カミナ】はかっけーよな。まぁ、お前より先に俺が出世してやるんだが」
「いえいえ、【カミナ】にふさわしいのは私です。あなたたちより先に手柄を立ててやります」
みんな、ワイワイと己の意気込みを口にしていた。
なんでも、特級の手柄(ミリタルと同じくらい)を立てた者に授与されるらしい。
まさか俺の剣がそんなすごい扱いをされるとはな。
なかなかに感慨深い。
それに、いつの間にかオッサンと呼ばれることも自然となくなった。
これは良い兆候だ。
「デレ―トさんは仕事に真剣で本当に良い鍛冶師だよな。まさに鍛冶師の鑑だ」
「40歳なんだって。俺もあんなカッコいいオッサンになりたいぜ」
「まさしく中年の希望の星だよな。これからも俺たちオッサンに希望を与え続けてほしい」
いや、なくなったのだが、そういう会話を小耳に挟む度、俺はやっぱりオッサンなのかと寂しくなる。
とても嬉しい褒め言葉ではあるが、他者からの客観的な評価は心に刺さるぜ。
そう思いながらも槌を振るっていたら、定時の時間となった。
よし、今日の仕事は終わり!
俺は昔から時間に忠実だ。
きっちり初めてきっちり終わる。
「さあ、みんな。今日は店じまいだ。片付けするから出て行ってくれな」
「「はい、お疲れ様です」」
兵士たちはぞろぞろと出て行く。
広くなった兵舎を掃除していたら、誰かが中に入って来た。
「すまないな、今日はもう店じまいなんだ。何か修理などがあったら、また明日来てくれ。いやぁ、誠に申し訳ない」
「先生、お疲れ様です。お忙しいところ失礼します」
「あっ、ミリタルだったか」
入って来たのはミリタルだ。
勝負の結果、俺が専属鍛冶師となった後も、彼女はちょくちょく様子を見に来てくれていた。
「兵士たちはみな、先生に感謝しています。お世辞にもやる気があるとは言えない者たちも、すっかり変わりました。見違えるように、訓練に取り組んでいます」
「それなら良かった。自分の造った剣が使いたいって言ってくれるのは、鍛冶師冥利に尽きるってもんだ」
国を守ってくれる兵士たち……特に若い人たちにそう言われるのは、素直に嬉しい。
もっと鍛冶を頑張ろうと思える。
「それで、あの件については先生にご迷惑をおかけして申し訳ありません。陛下に先生の実力をお伝えしたところ、あのようなお言葉をいただいてしまい……」
「いや、いいって。その方が国軍のためになるってことだから」
彼女が言っているあの件とはあれだ。
兵士たちの装備の修理や製作は、ほどほどに……と言われていた。
国軍の装備は序列や部隊によってランク分けされているらしく、一般兵の装備はCランクやBランクを主体とする。
全員が【カミナ】みたいな装備を持っていると、慢心してしまう恐れがあるとのことらしい。
国軍はしっかりしているなぁ、と思っていたら、ミリタルがモジモジしながら呟いた。
「あの、先生……今日もまた、あの宿に泊まるのですか?」
「ああ、そのつもりだな」
「ご希望であれば、国軍で宿泊所を用意しますが」
「いや、申し訳ないからいいよ」
宿はテルさんのところにお世話になっている。
王都は治安も良いし、国軍の本拠地にも近いからな。
これがまた良い宿なのだ。
部屋も清潔だし飯も旨い。
そしてミリタルは、あのぽっと出女が……とか言っている気がするけど気のせいだよな?
淑女の代表みたいな彼女が、そのような言葉を使うはずがない。
「ちゃっかり同居しやがって……許さん……あっ、そうでした! 今日は先生に大事なお話があって参りました」
「だ、大事な話? なにかな」
ミリタルに改めて言われると緊張する。
どうか大したことじゃない話であってくれ。
「陛下がお会いしたいそうです」
「ふーん、そっかぁ。女王陛下がねぇ……なにぃ!?」
年のせいか、驚きが一瞬遅れてやってきた。
想像以上にヤバい話だ。
「へ、陛下が俺に会いたい!? なぜ!」
「それはもちろん、この数週間の出来事によるものです。先生のおかげで国軍の弱体化の危険は防がれ、また兵士たちのモチベーションを上げることもできました。これは多大な功績とのことです」
おいおいおい、マジかよ。
俺の知らないところでそんな話をしていたなんて聞いてないぞ。
こんなオッサンが陛下の前に行っていいのだろうか。
「ということで、陛下の元へと参りましょう」
「え! 今から!?」
「はい」
ミリタルは当然のように告げる。
なにがどうなっているんだ。
「ま、まだ、心の準備が……身体だって汚れているし……」
「心の準備など、先生には必要ありません。お身体の汚れだって、陛下はお気にしませんよ。さぁ、私が案内しますのでついてきてください」
「そんな……」
ミリタルに手を引かれていくわけだが、俺の心は徐々に白くなっていく。
自慢じゃないが、俺は小市民だ。
陛下に会ったことなど一度もない。
というより、この人生で会うことなど無いと思っていた。
まったく、俺はどうなっちまうんだぜ。
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